やることがありません
「……………………」
私は特に何をするでもなく、ただボーッと天井を眺めていました。
ちょうど目を覚ましてしまい、動く気力もないのですが……いやぁ、暇ですねぇ。
「ねぇ、ウンディーネ?」
私は部屋の中心、椅子に腰掛けて外を眺めているウンディーネに声を掛けます。
『うん? どうしたの?』
「暇ですねぇ……と」
『それは、一週間以上も寝ているからじゃないの……? 流石に飽きちゃった、とか?』
「いえ、それはありません」
『……そこは断定しちゃうんだね。リーフィアらしいや』
「むしろ、私から睡眠を取ったら何も残りませんよ」
『それは流石に無いんじゃないかな。と言いたいところだけど……実際その通りだよね……』
ウンディーネも私のことを理解してきましたね。
でも、そこは否定して欲しかったです。
「こういう時にミリアさんが来れば、ちょうど良い暇潰しになるのですが……」
残念なことに、今ミリアさんは仕事中です。
ヴィエラさんがサボらないように監視していると思うので、向け出すことも出来ないでしょう。
……ああ、暇です。
『だったら、さ……』
ウンディーネが人差し指をピンっと立てました。
『城下街、行ってみない?』
「城下街ですか……ふむ…………」
『嫌、かな……』
「いえ、そうしましょう」
私は起き上がり、魔力を形にして服を纏い、念のために『浄化』魔法を掛けて不純物を取り除き、『アイテムボックス』から香水を取り出して匂いがキツくならない程度に振り掛けます。
これで、準備は整いました。
──っと、お金持っていましたっけ?
『え、え? ……え?』
ウンディーネが目を白黒させ、おろおろと慌てています。
……一体どうしたのでしょうか?
『だって、意外だったから』
「城下街へ行きたいのでしょう?」
『う、うん……でも、良いの?』
「ちょうど目が覚めてしまって暇なのです。なので、たまにはウンディーネのお願いを聞いてあげても良いでしょう」
私はドアノブを掴み、外に出ます。
なのに、ウンディーネはまだ椅子に座ったままです。
「どうしました?」
『いや……今でも信じられなくて……』
「……ふむ、早くしないと私の気分が変わってしまいますよ?」
『──っ、行く。行くから待って……!』
ハッと我に返ったウンディーネは、すぐに私のところに飛んできました。
そして、私の手を取ってぐいぐいっと引っ張ります。私の気が変わる前に、外に出してしまおうと考えているのでしょう。
……全く、可愛い子ですね。
「はいはい、そんなに急がなくても行きますって……」
だからでしょうか。
つい甘やかしてしまうのですよね。
ウンディーネは世界が生まれ落ちた原初の時から存在していると聞いているのですが、こうして見るとただの子供と一緒です。
精神年齢はミリアさんと一緒……は流石に言い過ぎですかね。まだウンディーネの方が上です。ちゃんと他人の迷惑を考えられて可愛いので。こっちの方がずっと可愛いです。
『っ、リーフィア……!』
私の心情を聞いたウンディーネは、水色の顔を真っ赤にして声を荒げました。
……ふふっ、わざとですよ。わざと。
「にしても、ウンディーネはどうして街に行きたいと?」
『えっとね……たまには人の暮らしってのを見てみたかったの。それに加えてリーフィアと一緒に見ることが出来たら、どれだけ素敵なんだろうって……恥ずかしぃ』
私の感情はウンディーネに流れます。
それは逆もまた然りです。
つまり、ウンディーネの嬉しいという気持ちと恥ずかしいという気持ち、飛んで喜びたいほどのワクワクした気持ち。その全てが私の中に流れ込んできます。
「ウンディーネ。嬉しいのはわかりましたから、感情をもう少し抑えてくれませんか?」
想いが強すぎて、こちらの方が恥ずかしくなってしまいます。
これだから可愛いのですよ、うちの精霊は。
「あ! リーフィアにウンディーネ!」
と、そこで元気な声が廊下の奥から聞こえました。
視線を向けると、ミリアさんがこちらに向かって『ダダダダッ!』と走って来るのが見えました。その後ろにはヴィエラさんも居ます。
「おはよう! まだ昼前なのに起きているとは珍しいな!」
「おはようございます。今日はウンディーネが街に行きたいと言っていたので、今から行くところです」
「何っ!? では余も──」
「ダメですよミリア様。まだ仕事が残っています」
「ぬぐぅ!」
余も行こう! そう言おうとした途中でヴィエラさんに遮られ、ミリアさんは悔しそうに顔を歪めました。
「そんな顔をしてもダメです。ただでさえ今日はペースが遅いのですから、絶対に逃がしません」
「うぅ、リーフィアぁ……」
「そんな顔しないでください。面倒です」
「こっちの方が酷かった……」
ミリアさんはガクッと肩を下ろし、深い溜め息を吐きます。
「仕方ない。昨日は十分遊んだからな……今回は諦めよう」
あら、今日はおとなしく引き下がるのですね。
てっきり「嫌だ! 余も行くのだ!」と喚くかと思っていました。その場合は縄で縛り付けてやろうかと思っていたのですが、いらぬ心配だったようです。
「余の分まで存分に楽しんでこい!」
ビシッと指を向け、ミリアさんはそう言いました。
「人に指を向けたらダメって教わりませんでした?」
「せめてカッコつけさせて!?」
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