街を散策します

『わぁ……凄い人だね……!』


 城下街にやって来た私達は、とりあえずの目的もなくただ街中を歩いていました。

 いつも通りの街並みですが、ウンディーネはそれに感動したのか、目をキラキラと輝かせて首を右へ左へと振っています。


 ですが、やはりまだ極度の人見知りは直っていないのでしょう。

 ガシッと私の腕にしがみ付き、絶対に離れようとしません。ちょっと歩きづらいのですが、仕方ないと割り切ります。


『リーフィア……! あ、あれ……!』


 と、そこでウンディーネが何かを見つけたようです。

 あれ、あれ……! と彼女が指差す先にあったのは、一つの屋台。


「……りんご飴、ですか」


『りんご飴?』


「甘い果実を飴に包んだお菓子です」


『へぇ……』


 …………はぁ、まだ遠慮しているのですか。

 そろそろ自分に正直になってほしいと思いますが、謙虚なところがウンディーネの良さでもありますよね。


 私は屋台に歩きます。


「すいません、二つください」


「あいよ!」


 私はりんご飴二つ分のお金を払い、受け取りました。


『ちょ、ちょっとリーフィア……!』


「なんです? ほら、ウンディーネの分ですよ」


 私は一つを口に含み、もう一つを渡しました。

 ウンディーネは慌ててそれを受け取りましたが、浮かない顔です。


『ありがとう……! じゃなくて!』


「……むぅ、なんですか。美味しいですよ?」


『確かに美味しそうだけど、違うの……どうして買ってくれたの?』


「どうしてって……欲しそうにしていたからですけれど何か?」


 ウンディーネの感情は契約者の私にも伝わります。

 それを抜きにしても、先程の会話で興味津々だったのはわかりましたけれどね。


 だから買ってあげた。

 ……それだけの話です。


「今日はウンディーネのために来ているのですよ? あなたが遠慮してどうするのです。だからほら、早く食べなさい」


『んぐっ……!?』


 いつまでも遠慮しているウンディーネからりんご飴を奪い取り、強引にその口に差し込みました。


「ほら、美味しいでしょう?」


『……ん、おい、しい……』


「なら良かったです」


 りんご飴は子供の頃によく食べていました。

 近所のお祭りでは必ずその屋台が出ていて、親に買ってもらった思い出があります。


 どうしてこの世界にもそれがあるのか…………十中八九、ディアスさんが広めたのでしょう。


「行きましょう。まだ屋台は沢山ありますから」


『うんっ……!』


 りんご飴の件でウンディーネも考え直したのでしょう。

 欲しい物は欲しい。興味の惹かれた物には何度も質問する。そんな感じで積極的に話しかけてきてくれるようになりました。


 面倒だとは思いません。

 ウンディーネが心から楽しそうにしているのです。

 案内している私も、ガイド冥利に尽きるというものですよ。


 それに、本当に何もせずに街を散策するのは流石に面白くないでしょう。

 こうして何かを話しながら歩いていた方が、何倍も楽しく感じます。


「……だからって、これは買いすぎましたね」


 以前、ミリアさんと街に来た時と同じように、私達は両手に沢山の食べ物を持っていました。


『ご、ごめんね……? どれも美味しそうだったから、つい』


「いいえ、別にウンディーネを責めているわけではありません。でも……」


 流石にこのまま歩きながら食べるのは難しいですよね。


「一度、椅子に座りましょう」


 ちょうど広場も近いことですし、私達はそこに移動して座ります。

 買った食べ物の中には、タレが掛かっている物もあります。移動しながら食べて、服に付いてしまったら面倒です。


 ……まぁ『浄化』を掛ければ良いだけですけれど。


 普通に歩き疲れたなーと感じていた頃だったので、ちょうど良いでしょう。


『リーフィア、これ、美味しいよ……!』


 ウンディーネは興奮したようにそう言い、肉串を私の口元に運んで来ます。

 自然と「はい、あーん」な状況になっていますが……うむ、美女からのあーんは良い気分ですね。


「確かに美味しいです。こっちも……美味しいですよ?」


 私もやられてばかりではありません。

 お返しにと、私の串も差し出しました。こちらのタレではなく、塩とレモン汁で簡単に味付けをしています。でもそんな単純な味付けだからこそ、お肉の美味しさが引き立つのです。


『えっ……う、うちは、良いよ。そしたらリーフィアの分が無くなっちゃう』


「先程私も頂きました。なので、おあいこです」


『で、でも……さっきのはリーフィアと美味しいのを共有したくて……』


「では私もこの美味しさを共有したいです。ウンディーネのタレも美味しかったですが、私の塩も美味しいですよ?」


 ほら、あーん。と私はウンディーネの口に串を運びます。


『ぅ、うう……はむっ。……ん、んん! 美味しい……!』


 ウンディーネはキラキラと目を輝かせました。

 余程美味しかったのでしょう。頬を抑え、足をバタバタと動かします。


「ふふっ、美味しいですか?」


『うんっ……! こういう味好き! いくらでも食べられそうだね!』


「おお、ウンディーネもわかってくれますか」


 これをつまみにすると、お酒が進むんですよねぇ。

 仕事に疲れた体で帰る途中にコンビニへ立ち寄り、酒と肉串などのつまみを購入し、部屋で一人飲み。


 いやぁ、懐かしいですねぇ。

 何一つ彩りの無い世界で、睡眠以外に楽しいと思えるひと時でした。


 思い出したら感慨深いものがあって懐かしく────


『リーフィア。なんか……おじさんくさいよ?』


 …………泣きそうです。

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