動きたくないのに……
「って、寝かせるかぁあああああ!」
激しいツッコミを口にしながら、ライダーキックの如く飛んできたミリアさん。
寝返りを打ちながらそれを避けますが、余波のせいで毛虫状態のままゴロゴロと地面を転がります。
「……危ないですねぇ。下手したら死んでいましたよ?」
あなたは早速、自分の部下を殺す気ですか。
口には出しませんが、目線でそう訴えます。
しかし、ミリアさんはそんなの御構い無しに、キッと私を睨み、指を向けてきました。
「お前っ、何で全てガン無視して寝ようとしているのだ! お前には聞こえないのか。この賞賛の声が!」
「えー? 聞こえてますよー? うるさいですよねぇ。私、聴覚強化があるので余計にうるさく聞こえてしまうのです」
こういう時、耳栓がとても欲しくなります。
それさえあれば、全て解決だというのに……あ、仕事を頑張った褒美に作らせましょうか。
「ぐぬぬ……何でそんな悪びれもなく言えるのだ。いいか、お前はもう少し────」
「……スゥ、スゥ…………ぐぅ……」
「ね・る・なぁあああああ!」
「おっと、危ないですね」
ミリアさんの手から炎が噴出し、私のいた場所を焼き尽くしました。
本当に危ない。もう少し反応が遅かったら、私の愛用するお布団が燃えてしまうところでした。
神様特製のお布団なので滅多なことでは燃えないと思いますが、それでも心配になってしまいます。
「何で先程から見ていないのに避けられるのだ!」
ミリアさんは攻撃が当たらないいことにイライラしているのか、地団駄を踏みながら炎を連射してきます。
もう、
それに巻き込まれた方は堪ったもんじゃありません。
ほら、ヴィエラさんに飛び火して、彼女大変なことになっていますし、会場はもう火の海です。
観客は大丈夫なのかと思っていると、案外この状況を楽しんでいました。
……ああ、そういえば被害が行かないように結界を張ってあるとか言っていましたね。
だからって全く動じていないのは驚きですが、もう魔族とはこういうものなのだと早めに慣れておいいた方が私のためですかね。
「ミリアさん? そろそろ飽きてきたので、もうやめにしませんか?」
毛布に包まれたまま避けるのって、結構大変なんですよ?
まぁ、布団から出れば問題はないんですけど、そもそも出るのが面倒という悪循環に陥っています。
「どうすればいいのでしょうかね」
「知るかっ!」
ミリアさんから特大の火球が飛んできました。
大きさで例えるなら……例えるなら…………あ、考えてたら避けられな────
「ぶふっ」
ダメージはないですけど、迫力が凄かったです。
立体の映画を見ている時のような感覚がして少し面白かったのですが、それは私が炎属性耐性をカンストしているから無事なわけであって、普通の人ならば余裕で死んでいる火力でしょうね。
それを証明しているのか、私の体は無傷だったのですが、それまで着ていた服が全て燃えてしまいました。
──私、異世界に来て初めての真っ裸です。
「でも、布団だけは守れました」
咄嗟にマジックボックスに仕舞うことが出来ていなければ、お布団君も生贄となっていたことでしょう。
いやぁ、危ない危ない。
「守るところ違うだろ……」
安心している私にツッコミが来ました。
元凶がよく言いますね。
「……………………きゃー、えっちー」
「棒読みすぎるだろ!」
「そんなことより誰か服をくれませんか? 裸を見られるのはどうでもいいんですけど、寒くて……」
「──ほい、どうぞなのじゃ」
ハラリ、と私に掛けられる上着。
ほのかに香る花の匂いが、どこか嗅いでいて落ち着きます。
ああ、このまま眠りたい…………っと、危ない。お礼くらいは言わなきゃですね。
「親切にありがとうございます。ついでに、あの阿呆に何か一言お願いします──アカネさん」
振り向くと、そこにはミリアさんと同じ特等席にいた女性が立っていました。
……ふむ、近くで見ると本当に綺麗な方ですね。
でも、それだけではない。
この人からあり得ないくらいの魔力の量を感じました。
これはミリアさんと同じ……いや、もしかしてそれ以上かもしれない。
それだけの方が、なぜミリアさんの配下に?
……いや、今はそれを気にしている状況ではありませんね。
「おや? わしの名前を教えたかのう?」
「ああ、いえ。あなた方の会話が微かに聞こえたので。それで名前もわかりました」
「微かに聞こえたとは……ふむ、随分な距離があると思うのだがなぁ」
「本当に少しだけですよ。何を話していたのかわかりませんでした。ま、それはどうでもいいです」
今問題なのは、目の前の
この駄々っ子をなんとかしない限り、私は安眠できません。
「おい、ミリア? そろそろいいじゃろう」
さて、どうしたものか。
そう考えているところに、アカネさんから救いの手が差し伸べられました。
「予想よりも面白い戦いで、自分も熱くなったのじゃろう? それで我慢出来ずに突っ走ってしまった。……とまぁ、こんなところじゃろうて」
「…………くっ……」
「ふむ、ミリアは小さい時からその癖が直っておらんなぁ。正解を言うと黙る。それは逆に当たりだと言っているようなものじゃ。……だが、流石に今は我慢しとけ。わしらは別にどうとでもなるが、ヴィエラが死にかけじゃ」
ほれ、とアカネさんが指をさした先には、ゆでダコのように真っ赤になっているヴィエラさんがいました。
大柄な男性、名前をディアスさんでしたっけ?
その人が肩を貸していますが、どう見ても限界が近そうでした。
「うっわ、ミリアさん酷いです」
「うむ。これは酷いな」
「一応主人なのですから、そこら辺は考えてくれないと……」
「リーフィアの言う通りじゃ。もっと部下を大切にせい」
「う、う……」
私とアカネさんから発せられる容赦のない言葉に、ミリアさんは段々と目に涙を溜め込みます。
──あ、やばいなと思った時には手遅れでした。
「うわぁあああああああんっ!」
ミリアさんは号泣しながら闘技場を飛び出し、魔王城の方角へと飛んで行きました。
……いや、うわぁああああんってあなた。魔王でしょうに。
やはり、見た目と年齢はあまり変わらないのでしょうか。
「気にせんでいいぞ。あれはいつものことじゃからなぁ」
「いつものこと、ですか」
いつも泣かされている魔王様ってどうなんですか?
いや、流石に口には出しませんよ。
言ったらまた何処かから火球が飛んで来そうですから。
「…………まぁ、これでしばらくは大人しく仕事をしてくれるじゃろう。根はいい子なのじゃ。ただ、久々の戦いに血が沸き立っただけのこと。……どうか今回の件は水に流してくれ」
「ええ、別に気にしていないので、許しますけど……」
根はいい子なんですね、魔王様。
ほんと、なんで魔王なんてものをやっているんでしょう?
「リーフィアもお疲れ様じゃ。今日のところはゆっくりと休んでくれ」
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