騒々しい日常は魔王のせいです
皆さんこんにちは。
私はリーフィア・ウィンドといいます。
ひょんなことから異世界に転生し、どういうわけか魔王の配下となってしまった可哀想なエルフです。
所属していきなり、配下の一人であるヴィエラさんと戦うことになってしまう。という事件はありましたが、それから目立った事件は起こらず、比較的平和だと言える生活を送っていました。
今私がいるのは、魔王様から貰った私専用の部屋の中です。
内装は全く特徴がなく、いや、むしろ貰った時のままかもしれません。
唯一変わった場所といえば、とても豪華なベッドが設置されたということだけでしょうか。
これは魔王ミリアさんが使っているベッドと同じ物らしいです。
つまり、魔族領で生産されているベッドで最上級の品質ということになります。
それだけあって、眠り心地は最高です。これを言葉で表すとするならば────
「はぁ……至高の一時ですぅ……」
ここに来てから約一週間が経ちました。
その間、私はこの部屋から一歩も出ていません。更にはベッドの上から一回も出たことはありません。
なんと素晴らしきニート生活。
ああ、本当に至高です。
──コンコンッ。
「リーフィアー! あーそーぶーぞー!」
……………………魔王さえいなければ。
「リーフィアー? 寝ているのかー?」
ええ、そうです。
私は寝ているのです。
帰ってください。
「…………ふむ、鍵も掛かっているな」
ミリアさんは何度かドアノブをガチャガチャしました。
これで諦めてくれればいいのですが。
「仕方ない。扉を壊して入るか」
「待ってください。なんでそうなるんですか」
部屋を壊されるのは、流石に見過ごせません。
初めてベッドの上から動き、扉を少しだけ開けて魔王の暴走を防ぎます。
「おおっ、ようやく起きたか! 久しぶりだな!」
ミリアさんは私の顔を見れたのが嬉しいのか、無邪気な子供が見せるような笑顔を向けてきました。
うわっ、なんか眩しい。久しぶりに太陽の光を見た時のような感覚で、目がズキッと痛くなりました。
「……何の用ですか」
「お前もここに来て随分経つだろ? 一緒に城下町に行こうではないか。案内してやる!」
「結構です」
バンッと扉を閉じ、鍵を掛けてベッドの上で横になります。
「即答は酷いぞ! 開けろ、開け──なんでこの扉壊れないのだ!」
いや、壊そうとしないでくださいよ。
嫌な予感がしたので、先程触った時に魔法で強化しておいて正解でした。
とりあえずこれで入られることはないでしょ────
ガシャアアアアアアンッ!
「……う?」
真横で何かが割れる音がして、私は起き上がります。
そこにあった惨劇を目の当たりにして、私は後悔しました。
強化するなら、部屋全体を強化しておくべきだった、と。
「ふはははっ! 扉がダメなら、窓からだぶっ!?」
窓をぶち破って来たミリアさんは窓の縁に立ち、勝ち誇った表情をしていました。とんでもない行動力ですね。
とりあえずムカついたので、素早く練り上げた風の弾丸を顔面に打ち込んでやると、完全に油断していたミリアさんは変な声を出しながら窓の外へと落ちていきました。
「ふぅ、これで静かに」
「余、ふっかーつ!」
「なりませんよねぇ……はぁ、わかっていましたよ、そのくらい」
私はもう諦めました。
この魔王はこんなことでは止まってくれない。
それを痛いほど理解しました。
──なので、助っ人召喚です。
「今の音は何ですか!?」
ヴィエラさんが髪を振り乱して私の部屋に飛び込んできました。
ちょうど部屋の近くを誰かが通っていくのを魔力感知でわかっていましたが、まさかこんなところで当たりを引くとは思っていませんでした。
彼女はガチャで言うところのSSレアでしょうか。
「あ、ヴィエラさん助けてください。この傍若無人な魔王が私の部屋を荒らすのです」
「何してんですかミリア様!」
「なっ!? ち、ちが──」
「言い訳無用! 部屋を直す職人の身になってください! ほんと毎回毎回壊すんですから、今日こそは許しません!」
今回だけではなかったんですね、部屋をぶち壊すの。
魔王城は毎日が大変そうですねぇ。
ここで働いている魔族は、ミリアさんの後始末をするのがほとんどだと、風の噂で聞いたことがあります。
……ほんと、何をやっているんですかね。
「嫌だ! 余はリーフィアと遊ぶのだ!」
「子供ですか! まだお仕事も終わっていないでしょう! 説教が終わったら、監視つけて書類整理をしてもらいましからね!」
仕事の続きをさせられるとわかった瞬間のミリアさんの表情は、心の底から絶望しているようで、とても可哀想に思えました。
ですが、全ては己の自業自得。諦めてください。
「いやぁあああああ! 助けてくれぇええええええ!」
廊下をずるずると引っ張られて行く哀れな魔王様。
他に廊下を忙しそうに歩いている召使いの魔族達がその様子にギョッとしますが、またいつものことだとすぐに興味を失っていました。
勿論、ミリアさんの必死な助け声に手を差し伸べる人はいません。
……魔王様、哀れなり。
遠くの方で「許さんぞリーフィアぁあああああああ!」という怒号のようなものが聞こえた気がしましたが……うん、気のせいってことにしておきましょうか。
私は何も知らないし、聞こえていません。ええ、本当です。
「さて……寝ましょうか」
邪魔者は去り、静かになった空間。
私はベッドへ戻り、やがて静かな寝息を立て始めたのでした。
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