襲撃者パート2です
出会いがあれば、別れがある。
それは時の定めであり、誰もが経験することです。
ですが、私はこう言いたい。
──出会いがなくとも、別れというものはやってくるものです。
現に私はそれを感じています。
……いや、よくよく考えると、果たしてこれは別れと言えるのでしょうか?
だって、私はその人達と深い関係ではないのです。
言ってしまえば……赤の他人でしょうか。まぁ、向こう側がどう思っているかなんて知りませんけど。
とにかく、赤の他人と同じ場所に居て、そこから離れる時、それは別れとは言いません。たまたま同じ場所に居合わせて、その行く先が違っただけです。
もっと簡単に言ってしまえば、道端でのすれ違いでしょうか。所詮その程度の認識です。
……ですが、そう考えると、やはりこれは『別れ』なのでしょう。
一応、私と彼らは顔見知りではあります。
それに、今生の別れとなるその場面を、すれ違い程度で終わらせるのは流石の私でも酷だと思います。
なので、これは別れと認識しましょう。
──あれからおよそ一ヶ月が経ちました。
私は寝る以外のことをしていません。
……ああ、ウンディーネとは何回か交流しています。折角の友人なのです。それくらいして当然です。と言っても、私が起きている時のみですから、時間に換算するととても短いです。
私にちょっかいを掛けてきたエルフは、あの時以降姿を見せていません。
私自身も彼らに一切の興味がありませんでした。
ですが、その時だけ妙に周囲の精霊が騒がしく、一斉にエルフの里の方角を示していました。
今まで静かだった精霊達の騒ぎように流石に気になった私は、鷹の目を使って上からエルフの里を観察しました。
そこには、私の記憶からかけ離れたエルフの里がありました。
このことを簡潔に説明するのだとしたら、私はこう言うでしょう。
『エルフの里、炎上なう』
木造の家からは火が立ち込め、隣の家や木に次々と燃え移っています。
何があったのかはわかりません。
ですが、何かが起こったことだけは理解できました。
私が様子を見るために野次馬感覚でエルフの里に向かいました。
間近で見ると火の迫力は凄まじく、炎属性耐性がカンストしている私でも恐ろしく感じます。
「──ウンディーネ」
これを見過ごすことは出来ない。
そう思った私は、水の精霊であるウンディーネを呼び出しました。
「この火を全て消してください」
『……任せて』
ウンディーネは目を閉じ、集中します。
彼女の周りには自然と精霊が集まり、周囲に漂う魔力が次々とウンディーネの中に流れていきます。
──変化はすぐに訪れました。
不意に空が暗くなります。先程まではいいお天気ですね、と世間話に発展しそうな晴れ模様だったというのに、今は夜になったかと思うほど、黒い雲が真上で渦を巻いていました。
鳥肌が立つほどの魔力量。……これが、精霊の扱う魔法なのですね。
「…………雨、ですか」
ポツポツと降り始めた大粒の雨は、すぐにバケツをひっくり返したような豪雨へと変わりました。
……なるほど、ここまで火の範囲が大きくなると、この手段が一番手っ取り早いです。
地球でこれが起きたら、各所が水没してしまうほどの災害級の雨。
それを僅か五秒ほどで起こしてしまうウンディーネの力に驚きつつ、私は不思議に思っていました。
何故か、私を中心とした半径一メートルだけは雨が降っていません。
『……だって、濡れたら嫌かな、って、思ったから』
「そうですか……お気遣い、ありがとうございます」
それくらいは我慢しますが、ちゃんと考えてくれていたので、私は素直に感謝の気持ちを伝えました。
そうすると『えへへ……』と言いながら頬を赤く染めるウンディーネ。はい、可愛い。
「……にしても、この規模の雨を降らしながら、よく私だけを避けるように調整できましたね」
『……うん、これでも、うちは水の精霊だから……この程度のことは簡単……』
「それはすご────」
「なるほどなぁ?」
「──っ、危ない!」
『え、きゃあ!』
唐突に聞こえてきた声。
私は即座に危険を察知し、その場から跳んでウンディーネを押し倒します。
その一瞬後に背後から轟音が鳴り響き、その衝撃に私達は地面を何度か転がりました。
受け身を取りながら見ると、全身に重そうな鎧を纏った小柄な人物が、地面に拳を振り下ろした状態でいました。
「──あん? 確実に仕留めたと思ったのだがなぁ?」
襲撃者は呑気な声でそう呟き、己の拳を不思議そうに見つめています。
男なのか女なのかわからない中世的な声。顔を覆い隠すヘルムのせいで声が篭り、判別が更に難しくなっています。
ですが、男にしては小柄すぎる体格、ヘルムから溢れ出ている銀色の長い髪から、女性だと思えます。
「…………誰ですか、あなたは」
私はこの世界で初めての警戒をしました。
私には他人の魔力が色となって見えます。
目の前の襲撃者のそれは、はっきり言って異常でした。
どこまでも黒く、深淵よりも深い闇の底。まるでそれを見ているような感覚に陥り、咄嗟に私はウンディーネを背後に隠しました。
とにかく、この人は危険だ。
生存者の本能というものが、私の中で、そう囁いていました。
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