精霊と契約します
彼女の名前はウンディーネ。水の精霊でした。
やはり、私を呼んでいたのは彼女のようです。
「それで、あなたは私と契約したいと?」
『…………(コクコク)』
「……えぇと、私としては嬉しいことなのですが……いいのですか?」
『…………(コクコクッ)』
なんとか話を聞いた感じだと、私の技能『精霊の加護』を感じ取ったウンディーネは、私と契約したいと思い、精一杯呼んだそうです。
そして私が来たのはいいのですが、彼女は極度の人見知りらしく、十分な会話も出来ない状況になってしまっている。
精霊というのは特殊な種族らしいです。
完全な魔力体で、ただ存在しているだけでは身体を維持できない。
だから自然界に流れる魔力に留まり、ついでに自然環境を正しているらしいです。
すなわち、自然界が今も崩壊していないのは、全て精霊のおかげということになる。とウンディーネは教えてくれました。
それを褒めたら、顔を真っ赤にさせて『ありが、とう……』と言いました。
いい子ではあるようです。ただ、恥ずかしがり屋すぎるだけ。
「でも、私と契約して、ここら辺の環境は大丈夫なのですか? ほら、精霊は環境を正しているのでしょう?」
『…………それ、は、大丈夫。……呼ばれていない時は、ここにいる、から』
呼ばれた時のみ、ここを離れる。
逆に呼ばれていない時は、元の住処で待機している。
それが契約精霊というものらしいです。
なので、契約したとしても周囲の環境が変わることはなく、私が気にすることはないとウンディーネは言いました。
「そうですか。では、お願いします」
『…………え……いい、の……?』
「力を貸してくれるのでしょう?」
『…………う、うん……うちに、できることなら……』
「ならば、私からお願いしたいくらいです」
私は今、一人です。
しかも、ここは異世界。私の知らない世界です。
誰かと一緒に行動したいと思うのは、おかしいことではありません。
「それで、契約というのはどうすればいいのですか?」
『……えっと、名前をい、言えば……それで大丈夫、だと思う』
「何とも曖昧ですね」
『……ご、ごめんなさい! …………うち、人と契約するのは、初めてで……』
「ああ、違います。ウンディーネさんを責めているのではなくて、契約方法に、です。どうして名前を言い合うだけで契約が可能なのでしょうか。不思議でなりません」
『……それ、は……多分、魔法が何とかしてくれるんだと、思う』
「魔法、ですか。何とも便利なものなのですね」
『……で、でも、過信はダメ。えっと……言うほど便利じゃない、というか……その、魔法でも出来ないことは、沢山ある、から』
「……ええ、わかりました。ふふっ、ウンディーネさんは優しいですね。こんな私にも色々と教えてくれるのですから」
『……えっと、その…………あうぅ……!』
「すいません。からかい過ぎました。──では、契約するとしましょう」
私はウンディーネに近づき、手を差し出します。
彼女はそれに応え、手を重ねてきました。
……よかった。ここでまた逃げられたら、どうしようかと思っていたところです。
「私…………あ〜…………」
そこで私は止まりました。
そうです。一番重要なことを忘れていました。
──私の名前は何でしょう?
地球にいた時は
ですが、その人物はもう死んだのです。
私はもう新しい世界に住む、異世界の住人。
過去の名前を引き継ごうとは思いません。
……であれば、今ここで私の名前を決めてしまいましょう。
「私『リーフィア・ウィンド』は水の精霊『ウンディーネ』との契約を願います」
葉と風。どちらもエルフのイメージから取った安易なものですが、私の名前として認識していれば問題はないでしょう。
『……えっと……承諾、します……!』
途端に私の中に、私のものとは別の魔力が流れてきました。
水のような清らかでおとなしい、とても心が安らぐ魔力。
これがウンディーネの魔力なのでしょう。
私とウンディーネが強く結ばれた。そんな気がします。
『……すごい。こんな濃厚な魔力……初めて、感じた』
どうやら彼女の方にも私の魔力が流れたようで、その特殊な魔力に目を見開いて驚いているようでした。
『…………リーフィア、は、何者?』
「私はただのエルフですよ。少し特殊な生まれ方をした、ね」
『…………すごい人、見つけちゃったかも、しれない』
「買い被りすぎですよ。……よし、では私は行きます」
私はウンディーネに背中を見せ、泉から出ます。
風の魔法で足に付着した水を乾燥させ、適当に放っておいたブーツを持ちました。
『…………あ……あの、できれば、うちのこと……忘れないでほしい。水のことなら、何でも手伝うから……』
「忘れるわけないです。あなたはこの世界で初めて出来た、私の友人なのですから」
『……友人…………うんっ! その、嬉しい……!』
「私も嬉しいです。では、何かあれば、その時は頼みます。ウンディーネ」
親しみを込めて呼び捨てでウンディーネのことを呼ぶと、ハッとした表情で私を見つめてきました。
そして、恥ずかしそうに、それでも精一杯の笑顔を浮かべて、彼女はこう言います。
『……任せて、欲しい…………えっと、リーフィアっ!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます