初めてのご対面ですか?
意識が覚醒すると、そこは森の中でした。
見たことのない風景。
地面には羽毛布団がポツリと置いてありました。
「どうやら、転生は成功したようですね」
視線を下にして自分の体を見ると、地球にいた時の私とは異なった体格になっていました。
胸は…………普通です。
小さくはない。かと言って、大きいわけではない。普通です。──ちっ。
幸いだと言えるのは、服を着ていたことですかね。
よく、こういった転生系は素っ裸で放り出されることが多いのですが、あの神様はちゃんと考えてくれていたらしいです。
「……さて、おやすみなさい」
私はその場に寝転び、毛布を被りました。
草が生い茂った地面のおかげで背中への負担はありません。
むしろとても寝心地がよく、すぐに眠気が襲ってきました。
「………………いったい、何日が経ったでしょうか」
何度か目の起床。
私は寝起きの余韻に浸りながら、毛布を抱いてその場をゴロゴロと転がります。
そうしていると、また眠気が来ます。
それに抗うことなく、私は意識を手放そうとして────
「誰です」
瞼を閉じながら、私は問いかけます。
ですが、その問いに答える者はいませんでした。
「なんでしょう。先程から、誰かに呼ばれているような気がします」
声はしません。
でも、見えない何かに導かれている。
しかし、それが悪いものではないと、私の直感が言っています。
「…………ふむ、あっちですか」
起き上がり、耳を澄ませると、呼び掛けのする方角から微かに水のせせらぐような音が聞こえてきました。
近くに水場があるのでしょうか?
……誰かはわかりませんが、私の睡眠を邪魔するとはいい度胸です。
無視することは可能でしたが、何故か私はその時、この声に応えなければと思っていました。
「一先ず、行ってみましょうか」
私は謎の呼び掛けを頼りに歩き始めました。
木々が生い茂っている森の中、そこはとても歩きづらいと思ったのですが、案外すいすいと進むことができました。
まるで平地を歩いているような感覚です。
これも、森に生きるエルフならではなのでしょうか。
「…………ここですか」
迷路のような森の中を散歩気分で歩いていた私は、やがてとある場所へと辿り着きました。
そこは大きな泉でした。
ここで体の汚れを洗い流したいくらいの、透き通った水。
「きっと、泳いだら気持ちがいいでしょうね」
私は近くまで寄って、中を覗き込みます。
水の底まではっきりと見えます。
……そして、私も。
「おっふ……」
鑑のように綺麗に反射した私の姿は、感嘆のため息が出てしまうほどの美人でした。
腰辺りまで伸びた透き通った髪が、木々の木漏れ日に照らされてキラキラと金色に輝いています。
胸は普通です。
地球にいたのなら、絶対にモデルで馬鹿売れしていただろう整った顔。
でも、胸は普通です。
変わった部分で一番特徴的なのは、やはり尖った耳でしょうか。
本当は胸も特徴のある大きさになって欲しかったです。
「──ん?」
そこで私は違和感に気付きました。
目の前に広がる泉。その中心が妙に光っています。
「なんでしょう?」
私はブーツを脱ぎ、その光に向かって進みます。
泉はちょうど膝が浸かる程度の浅さで、中心まで行くのは問題ありませんでした。
問題はこの後です。
先程まで光るだけだった水が、私が近づいたことによってポコポコと激しく泡立ち始めました。
まるで、私が来ることを嬉しがっているような。……なんとなく、そんな気がしました。
「……触ってみましょうか」
何かに呼ばれている。
その『何か』の正体は、これなのかもしれない。
そう思って触れた瞬間、そこを中心に辺り一面が光に包まれました。
眩い光に目を隠した私は、光が収まったのを確認して両手を退かします。
「──え?」
その時の私は、呆気に取られていたのだと思います。
だって、そこには人が立っていたのですから。
何処か神聖な雰囲気を纏った女性。
慈愛に満ちたその瞳は、真正面から私を見据えていました。
「あなたは、誰ですか?」
『…………(ビクッ!)』
ズザザザッ! と凄まじい勢いで後退りされました。
……え、私何かしましたっけ?
「あの……」
手を伸ばす。
女性は後ろに下がる。
また手を伸ばす。
女性は後ろに下がる。
またまた手を伸ばす。
女性は後ろに──ゴッ!
……下がりすぎて木にぶつかりましたね。
「大丈夫ですか?」
『……い……ぇ』
「はい? 何です?」
『……来ない、でぇ』
「えぇ……?」
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