転生します

「さて、まずは種族からだな」


 神様は一枚の紙とペンを何処かから取り出し、何かを記し始めました。

 どうやら、あれに書くことで、私の基礎情報の色々が確定されるらしいです。


「では、平穏な暮らしが出来る種族で……ああ、動くのに適した種族がいいですね。後、胸が大きい種族がいいです」


「……胸は関係あるのか?」


「死活問題です」


「お、おう。……となると、エルフになるか?」


「じゃ、それで」


「ほんと軽いな。自分の将来を決める時だぞ? もっと迷え」


「じゃ、色々迷った結果、エルフで」


「エルフ以外の選択肢を出した覚えがないのだが?」


「気のせいですよ」


「……お、おう。では、次は技能だが」


「お任せで」


「…………ぐすんっ……」


 神様が泣きそうになっています。というか泣いています。

 やばい、神を泣かせたのって結構自慢出来ることじゃないですか?


 ……はぁ、仕方ないですね。


「どんな技能があるんですか?」


「──っ、ああ! これに書いてあるぞ!」


 途端に元気になる神様。

 ……そんなに嬉しいですか? それは良かったですね。

 笑顔で神様は一枚の紙を渡してきました。


【エルフの初期技能欄

 森の守護者

 自然の担い手

 精霊の加護

 完全反応

 鷹の眼

 マジックウェポン

 マジックボックス

 言語理解

 筋力強化

 視覚強化

 聴覚強化

 速度強化

 魔力強化

 弓術

 剣術

 体術

 風魔法

 回復魔法

 炎属性耐性

 水属性耐性

 風属性耐性

 聖属性耐性

 闇属性耐性

 物理耐性

 魔法耐性

 状態異常耐性】


「おやすみなさい」


 渡された紙をポイッとして、私は横になります。


「待って! お願いだから待ってくれ!」


「え〜?」


 項目が多すぎます。

 読むだけで面倒です。

 森の、の辺りで読むのをやめるくらいでした。


 ただ一つ理解したのは、異世界系によくあるやつだということのみ。


「……じゃあ、おすすめで」


「…………わかった……頑張る」


「応援しますか?」


「…………もうやだぁ」


「フレー、フレー、頑張って。いけるいける自分を信じて突き進めー」


「全て棒読みのせいで、逆にやる気を失うのだが……」


「気合が足りないですよ」


「それ、一番お前に言われたくなかった言葉だ」


「また当てちゃいましたね。まぁ。最後は──」


「そのくだり終わったから! もういいからぁ!」




 その後、神様の頑張りにより、私の技能は無事に決まりました。

 技能はポイントで振り分けるらしく、とりあえず耐性系とエルフ特有の技能は全振りにしてもらい、後は適当な塩梅でやってもらいました。


「次はステータスだな。一応聞くが、何がいい?」


「そうですねぇ……とりあえず素早さ特化でいいのではないでしょうか?」


 ゲームのステータスでもとりあえず素早さ上げとけ。みたいなところありますからね。

 ……いや、知りませんけどね。


 ですが、素早さを上げておけば用事も早く終わらせられますし、早ければ便利なことが多いです。


 例えばの話ですが、万年徒競走で最下位だった私が、一位になれるかもしれないのです。

 これは革命です。


 ……まぁ、その前に面倒なので走らないと思いますけど。


「わかった。ステータスは素早さ、っと。あっちの世界では『ステータス』と言えば、いつでも自分のステータスを確認することができるからな。忘れないようにしてくれ。……それにしても、よかった。これは早く終わって本当によかった……」


「おめでとうございますー」


「…………うん、ありがとう」


 徐々にキャラが崩壊してきていますね。

 流石にやり過ぎたかなとは思いますけど、改めるつもりはないです。


「だって、からかっていて面白いですからね」


「おい、本音が漏れているぞ」


「気のせいです」


「そうか、気のせいか。──な訳あるか!」


「いいノリツッコミです」


 横になっていた私は起き上がり、神様に向かって親指を立てます。

 神様はその場で地団駄を繰り返し、私に文句を言いたそうな視線を向けてきました。


「もう、お前に何を言っても無駄な気がしてきたぞ」


「諦めるのはよくないですよ? もっと頑張ってみてください。私はそれに応えることはしませんけれど」


「それ、やっても無駄だと言っているようなものだぞ」


「気のせいです」


「それももういいわっ! ……ったく、最後は生まれる場所だ。どこがいい?」


「誰か私を養ってくれる方がいるところがいいですね。あ、三食昼寝付きの生活を所望します。貧乏なところではなく、なるべく裕福なところで。環境にも適しているところがいいですね。寒すぎたり、暑すぎたりしたら、快適に寝ることすら難しいですからね」


 私は前世で働きすぎました。もう働きたくないです。


 なので、異世界ではずっと寝ていたい。それが私の願いです。

 手っ取り早く私の養い手を見つけようと希望を言ったのですが────


「いきなり注文が増えたな。……全く、欲望に忠実なのはいいが、それは己で頑張って見つけろ」


「──ちっ」


「おいこら、舌打ちするな」


「もう適当に森でいいんじゃないですか? ほら、私ってエルフですし。それに、森ってなんか寝やすそうじゃないですか。……あ、寝る用の毛布──いえ、やっぱり布団が良いです。最高級の羽毛布団を付けてください」


「…………わかった。比較的安全な森に送るとしよう。もう今更だ。布団はサービスしてやる。さて、これで決めることは終わりだ」


 神様は──パンッ。と両手を合わせます。


 と、その時、不意に体に違和感を覚えました。

 下を見ると、私の体は光って半透明になっていました。

 ついでに意識がどこか遠くへと引っ張られるような感覚が。


「…………これは、時間がきたってことですかね」


「そうなる。……本当に、最後までマイペースに進行しおって。こっちが疲れたぞ」


「そうですか? 私は楽しかったですよ」


「──ふ、ふんっ、それはよかったな!」


 そう言いながらも、楽しかったと聞いてどこか嬉しそうでした。

 ……チョロいな。


「今、何か失礼なこと思わなかったか?」


「いえ、別にチョロいなぁとか思っていませんでしたよ?」


「そうか。それならばよか……ん? おい、お前なんて」


「では行ってきますね〜」


「あ、おい! ちょっと待て!」


 私の体は完全に光に包まれ、端の方から胞子となって空中に解け始めました。

 意識を保つのも、そろそろ限界です。


「ああ、もうっ! 達者でな! 絶対、後悔のない人生を送るのだぞ! わしとの約束だ!」


 最後の言葉がそれですか。

 ……ふふっ、ほんと……神様のくせに優しい方ですね。

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