転生エルフさんは今日も惰眠を貪ります 〜仕事?なにそれ美味しいんですか?〜
白波ハクア
第1章
死んでしまいました
突然ですが、私──
二十歳で真っ黒な会社に入社してしまい、残業続きで疲れ果てていたところ、赤信号をかっ飛ばしてきた車に跳ね飛ばされ、呆気なく死にました。
なんということでしょう。
まだ結婚はおろか恋愛と呼べるものもせず、親孝行も十分に出来なかったのに。
でも、死んでしまったのなら、仕方のないことです。
それで泣き喚いても、結果は変わらないのですから。
「案外、平然としているな」
声がしました。
男性のか、女性のか。判別がつかない。そんな声です。
「……こんにちは」
「はい、こんにちは──って、本当に平然とし過ぎじゃないか?」
声の主は小さい少女でした。
でも、なんとなく見た目と中身は異なっているという雰囲気がします。
話口調も偉そうですしね。
「開口一番で挨拶してくるのは、お前が最初だ」
「初対面の相手には挨拶。それが礼儀でしょう?」
「ああ、うん……そうだな。社会人らしい心掛けだ」
「挨拶しなかったら普通に小一時間怒られるし、私が女だからってセクハラ紛いのこと言ってくるし、残業増やされるし、世の中って不条理ですよね」
「すまん。謝るからこの話は終わりにしよう」
少女は頭を下げました。
何か変なことでも言ったでしょうか? ……まぁ、面倒なので気にしないです。
「ここはどこですか? なんか、真っ白ですけど……」
私は首を回して辺りを確かめます。
そこは本当に真っ白な空間でした。
永遠に続くかのように思える白銀世界。
そこに何もなく、ただ私と少女が立っているだけです。
「死後の世界。と言えば理解してもらえるか?」
「ああ、なるほど」
「……本当に理解しおった」
呆れたような顔をされました。
自分自身が死んだとわかっているので、おそらくそうだろうなと薄々思っていました。
あの時、突撃してきた車が夢だったとは思えないくらい現実味がありましたし、普通に痛いのを感じていたので夢ではないと理解していました。
なので、すぐに受け入れることは可能でした。
「では、私は寝ますね」
状況を理解した私は頷き、横になりました。
「待て待て。なんでそうなる」
「え、だって私は死んだのでしょう? ……なら、もう好きにさせてください」
こちとら残業続きのせいで、ろくに眠れていないのです。
死んだのなら、もう会社のことを考えないで良いのですよね?
それならば、このままずっと休んでいたいです。
死ぬまで眠り続けたい…………あ、もう死んでいるのですね。
訂正します。死んでも眠り続けたいです。
「そうはいかん。お前の人生には同情するが、話を聞いてもらわないと困るのだ」
ですが、目の前の少女は私を好きにさせてくれませんでした。
ここの住人は彼女のようですし、仕方なく聞いてあげましょうか。
凄く面倒ですけど、話が進みそうにありませんからね。
「ところで、あなたは誰です? 神ですか?」
「…………なぁんで自己紹介する前に当てにくるのだ?」
「昔からこういうのを当てるのは得意だったんですよ。最後は当てられて終わったんですけどね。あっはっはっ」
「笑えない冗談はやめてくれ。……では、次にわしが言おうとしていることも当てられるか?」
「……ふむ、次の人生を頑張って歩め〜、とかですか?」
「大体合っているが、少し違う。わしが言いたいのは──今からお前には異世界へと行ってもらう、だ」
「はい、わかりました」
「ふっふっふっ、流石のお前も驚き──え? わかったのか?」
「異世界へ行けばいいんですよね?」
「それはそうなのだが……もっとこう、驚くとか、また地球で生まれ変わりたいとかあるだろう?」
「いえ、別に?」
私は時々、友人とアニメを見たり、ゲームをしたりしていました。
その中に異世界転生系の物もあったので「ああ、これがそうなのか」くらいにしか思えませんでした。
別に地球に未練はないですし、とても簡潔に言ってしまうならば──どうでもいい。
思えば私は、周りに流されるタイプでした。
誰かが率先して動くならば、それに乗っかっていく。
決して自分から動かない。そんな人間でした。
なので、異世界に行けと言われたなら、はいわかりましたと私は答えます。
「ええ……? ま、まぁ、とりあえず説明は聞いてもらうからな。そういう決まりなのだ」
「大変ですね。頑張ってください」
少女、神様がジト目でこちらを見てきます。
何か変なことでも言ったでしょうか?
人の感情とは読みにくいものです。
あ、この方、人じゃないですね。……でも、細かいことを気にしたら負けです。
「これから、お前には異世界へ行ってもらう。剣と魔法の世界だ。だが、そこは命の危険が多く、日々何人もが命を落としている。そのせいで、その世界は人口が少なくなっていてな。死んだ魂は、もうあの世界だけは嫌だ。もっと平和な世界がいい。と文句を言いおる」
「大変ですねー」
「他人事のように言いおって……まぁ、他人事か。それで、どうしたものかと考えた神々は、他の世界で死んだ者を転生者としてその世界に組み込もうと結論付けた」
「…………」
「そして我々神は、お前のように若くして死んだ者の魂を送っているというわけだ」
「……………………」
「どうだ? 理解したか?」
「…………スー、スー……」
「寝るなぁ!」
スパーンッと後頭部を叩かれ、私は目覚めます。
「と・に・か・く! お前には異世界に行ってもらう!」
「え〜? だる……」
「頼むからもうちょっと興味持って? ──コホンッ、それで、実際にただの人がいきなりそんな世界に行っても、すぐに死ぬだろう。だから、お前にはこれからギフトを授けようと思う」
「はい、先生」
私は片手を挙げます。
「……先生ではないが、なんだ?」
「ギフトとはなんです?」
「ギフトと言っても、色々ある」
「おつかれさまでした」
「お願いだから聞いて!?」
色々ある。の時点で面倒になったので、ゴロンと横になったら神様が涙目で訴えかけてきました。
……この人、面白いですね。
いいおもち──ゲフンゲフン。いい人です。
「──こほんっ。決めるギフトは、種族、技能、ステータスの三つだ」
ええ……? 三つも決めるんですか?
うっわぁ、本当に面倒ですね。
もう本気で寝てやりましょうか。
……と言って本当に寝てしまったら、目の前の神様にどれだけ怒られるのか、馬鹿でも予想はつきます。
となると、面倒でも聞かなければいけないですよね。
はぁ……面倒だなぁ。
もうこれ以上面倒なことはしたくないです。
……そうですね。異世界に行ったら、ずっと寝ていましょうか。
それが私の望む一番の平和です。
でも、それをするためには、三つも決めなければならないことがあるんですよね。
ああ、本当に面倒です。
そうです。後は神様に任せて寝てしま────
「寝させないからな」
──ちっ。
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