第13話

 「ごめん。私、子供みたいだよね」

 「そうだね」

 夏生は屈託無げに笑った。

 「そんなにあっさり、でも藤井くんは大人っぽいよね。その……格好は変だけど」

 「変? きれいだって言ってなかった?」

 「うん、きれい」

 「さて、と」

 夏生は腕時計を見た。

 「じゃあさ、仕切り直していこう。H&Mくらいなら、なんとかなるでしょ。三丁目にあるから」

 H&Mは安いとは聞いていたが、怖くて近付いたことがない。今日は最初のチャンスだ。

 「うん」

 あずみは笑った。


 2日後のことである。夕方夏生に会うことになっていた。あずみは午前の授業のあとに、大学書店に駆け込んだ。

 ここには教科書を買うためにしか来たことがなかった。あずみは本はあまり読まない方である。

 そのまま、比較的入り口から奥まったコーナーにまっすぐに向かう。そこは「思想」コーナー。そこに並んだ分厚いハードカバーの本の背を、あずみはぼんやりと眺めた。けれど、頭の中ではおとといの、あの夏生と出かけた日の記憶がまた蘇ってくるのだった。


 あの日の夜、二人は一緒に夜の潮風に当たっていた。

 喫茶店を出たあと、あずみはH&Mで花柄のワンピースを夏生に見立ててもらった。前のお店で試着したものに似ていた。夏生のファッションに比べれば地味だったが、あずみにしては派手だ。さらに髪型を変えることにして、入ったのはなんとQBハウス。

 「QBだって、みんな美容師資格持ってるし、うまい人はすごくうまい。知り合いいるから、指名してあげる」

 夏生は実際に最寄りのQBで、あまりないと思われる美容師さんの指名をし、あずみのおかっぱ頭はボブカットになったのだった。

 7時近かったが、このままさよならも何となく物足りない気がして、あずみは思い切って言ってみた。

 「海、みたい」

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