第12話

 下に降りて、喫茶店に入った。もうあずみは号泣に近い泣き方をしている。恥ずかしいけれど、止まらないのだ。アイスコーヒーがふたつ運ばれて二人は手にとった。あずみは泣きながらコーヒーを勢いよく飲んだ。さっきの暑さでずいぶんのどが渇いていたらしい。

 夏生は黙ってあずみの泣き止むのを待っていた。ようやく下火になってくると、初めて口を開いた。

 「パフェも食べる?」

 あずみはまだうつむいたまま首を振った。自分から、今の状態の釈明をしなければならないような気がしていた。でも自分でも、なんでこんなに泣いたのか、よく分からないのだ。

 困っていると、またも夏生が助け舟を出してくれた。

 「あのさっきの女の子……二人連れの……は知り合いなの?」

 「クラスメート、語学クラスの。」

 「ああ、そうなんだ」

 「……私のこの、その、ユニクロのTシャツをね、自分も欲しいなって言ってたの」

 「ああ」

 「なんかばかみたい。真に受けてたんだよ、私」

 「それが悔しいの」

 「わからない。悔しいというより、自分が惨めというか、社交辞令とも気づかずにいて、恥ずかしい」

 「そうなのかなぁ?」

 「そうだよ」

 「まあ、ちょっと違う気はするけど...。でも言われることを疑うより、素直に受けた方が絶対いいと思うけど」

 「藤井くんには、分からないよ。私のコンプレックスなんて」

 声が少し強くなった。言いながら、八つ当たりだと気づいてはいたが、止まらない。

 「田舎者で、センスなくて、服だって買えないし、それに」

 「俺も田舎者」

 「きれいじゃないし」

 「さっきの女の子と比べてるの?」

 「……」

 「思い過ごしだと思うけどなぁ。君もさっきの子も、それぞれの魅力があるよ」

 「慰めなくていい」

 「それ、それが君の良くないとこ、自分に自信がないんだ。なぜだかは知らないけどね」

 「……」

 「でもそれじゃきれいになれないよ」

 少し冷たいいい方だ。あずみは急に不安になった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る