第7話

 昨日あずみが、「藤井くんのいくお店でいい」といったとき、もちろん、彼が服やアクセサリーを買うお店という意味だった。ところが、夏生からLINEが来て新宿の老舗書店の入り口を待ち合わせ場所に指定されたときには、少しいぶかしくなった。

 渋谷あたりかな、と内心期待していた。あずみはまだ渋谷に行ったことがなかったのである。それに同じ新宿にしても、南口の方とか、もう少し華やかな感じの場所でもよさそうな気がした。南口のサザンテラスには、上京したあとに、高校の同級生の友達と行ったことはある。もっとも、二人とも臆して、南口の辺りをそろそろと歩いたあと、すぐ逃げるように近くの映画館に入ってしまったのだけれども。

 今日はあずみは一人駅から歩いて、書店の入り口のエスカレーターの前に立った。夏生はまだ来ていない。学校で待ち合わせても良かったのだが、あずみの方から現地集合を提案した手前、多少待たされたとしても文句は言えなかった。トートバッグを前に抱えるように持ち直して、周囲を見回した。

 今日は日差しが強い。日陰にいても肌がじりじりするようだ。アスファルトの照り返しがきつかった。眩しさの中を多くの人が前後左右と横切っていく。あずみは心細くなってきた。

 『なんで本屋さんなのかな?』

 そのとき、書店からすたすたと出てきた20代後半くらいの女性を見て、あずみははっと思い当たった。紅いヒールの女性だった。

 『あ、そうか。ファッション誌を最初に買うのかも』

 少し安心した。


 「ごめん。待たせたね。うっかりしてたんだ」

 背後から声をかけられた。夏生だった。なんだ、夏生はすでにきて、書店の中にいたらしい。紺のストライプのシャツがまた、よく似合っている。あずみはといえば、今日も先日のピンクのTシャツと白いスカート。でも一番いい服だった。

 「あれ、何かもう買ったんだ」

 夏生は書店の茶色い紙袋を小脇に抱えていた。

 「悪い悪い。早く着いたから中を見てたら、つい夢中になっちゃってさ」

 言いながらも、夏生は中の本は出そうとはしなかった。どうやらファッション誌ではなさそうである。ハードカバーで、少し重そうだ。

 「さて、もう行く?」

 「え、本屋さんには入らないの?」

 「近くの本屋になかった本が欲しかったんで、ここにしただけ。」

 「あ、そうなんだ」

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