第19話 学校の七不思議
ハイコー! ハイコー!
死後とか好き。
わしらはこびとだ
ハイコー!ハイコーハイコー
ハイコー! ハイコー!
妹ハスキー
ララララララララ
ハイコー!ハイコーハイコー……、
暗がりからぞろぞろと7人のこびとが出てきたときには確かに仰天したが、その歌を聞き取るに及んで恐怖心はほとんど消えた。こびとたちは俺に気づくとわらわらと集まってきた。いかに小さいとはいえ7人もいると、しかも一斉に敵意に満ちた視線を投げかけられたりすると、さすがにあまりいい気はしない。
「あんたたち、何をしているんだ、こんなところで」
おれは手元のハンディカムを彼らの方に向けながら言った。先制パンチだ。
「それはこっちのセリフだな」怒りっぽそうなのが言った。「人間がこんな所で何をしている」
「ロケだよ。肝試しみたいなもんだ。若手のお笑い芸人5人が本物の霊的スポットに挑戦!ってな。おれはここに当たったんだ」
「あとの4人はどこだ」機嫌の良さそうなやつが聞く。「他の階にいるのか」
「ここにはおれだけだ。あとはそれぞれ元病院とか、元旅館とか、墓場とかだ。みんなこうやってカメラを持たされて自力でロケをしているわけ」
納得したのかしていないのか、7人はお互い同士でおしゃべりを始める。口々に何か言っているのだがあまりに早過ぎて聞き取れない。ハンディカムでその様子を撮影しながら思う。これはあんまり肝試しって感じじゃないな。このままだとただ7人の賑やかな野次馬と会った風にしか見えない。いかんいかん。それではおれが映るコーナーが減ってしまう。
「ここには、何かこう、肝試しっぽいのはないのかな」尋ねてみると今度は一斉に返事されて聞き取れない。「何だって? 順番に話してくれよ」
「理科室の人体模型だな」「トイレには本物がいるらしいぜ」「屋上から飛び降りた少年がいまも窓の外を通り過ぎるって聞いたぜ」「給食室に毒をもったおばさんが」
「見たことあるのかい」
とたんに沈黙。7人が目を見交わす。眠たそうなのが言う。
「理科室の人体模型なら」
「それ、動いたりしゃべったりするわけ?」返事がない「ただの模型を見たってこと?」
「ただの模型を見たってことだ」
口をとがらしてふーっとため息をつく。7人は気まずそうにもじもじしだす。風が吹いて足元に紙が吹き寄せられる。どこかの教室に貼ってあった標語のポスターかなんかだ。手書きで何か書いてあるが暗くて読みとれない。
「さっき、ハイコーって歌っているように聞こえたけど」
「そうそう。よく気づいたね」身を乗り出すようにして、眼鏡をかけたのが説明をし始める。「前は鉱山が閉鎖されたから廃鉱のことを言っていたんだが、いまではほら、ここ、廃校だろ?」
ふーっ。
ダジャレかよ。
だめだ! こいつら使えねえ! せめて俺を怖がらせるようなことを言ってくれれば、まだしもリアクションの取りようもあるのだが、ダジャレかよ。もう一回ため息をついてしまう。ふーっ。
「くしゃん!」いまにもくしゃみをしそうな顔をしたやつがやっとくしゃみをした。「くしゃん!」
「あ。そうだ!」それがきっかけになったように、引っ込み思案な感じのやつが思いつく。みんなが見ると急に照れてしゃべれなくなる。「いや。いいよ、もう」
「彼女は? ほら、職員室の」すっとぼけた面をしたやつが足元の紙を拾って俺に見せる。標語が書いてある。好き嫌いなく食べましょう。「こわいよ彼女。まじでさ」
ぞろぞろと職員室に向かう。ノックしてから入りましょうという張り紙がしてある。7人はおれを取り囲むようにして立つと、さあ入れというようなしぐさをする。ガラッと戸を開けるともう目の前に女が立っていてこれはマジでびびる。見ると普通に女の先生だ。ちょっと恐そうなタイプだが、それは先生として恐いということで、お化けとして恐いというのとは違う。女は手を後ろで組んだまま俺に聞く。
「好き嫌いなく食べてますか?」
「え?」
何だ? どう答えりゃいいんだ? その時気がつく。女の後ろ、奥の方から何ともいえない匂いがしている。何か吐き気を催すような匂いが。女は口元だけで笑ってもう一度言う。目は俺をにらみつけている。絶対に逃がさないという表情だ。
「好き嫌いなく食べてますか? さあ、『はい』か『いいえ』で答えなさい」
(「好き嫌い」ordered by 音乃屋-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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