第16話 狂歌十首
・15歳の誕生日にプレゼントを貰い
君くれし万年筆の嬉しさよ 手に胸に耳に口に鼻孔に
あなたが万年筆をくれたことが嬉しくて、
じっと手に持ったり、胸ポケットにしまったり、
耳にひっかけたり、口でしゃぶったり、
鼻の穴に突っ込んだりと喜びが止まらない。
・25歳の誕生日に10年前のプレゼントを握りしめ
君くれし万年筆を枕に寝 青き血の海の中に目覚め
あなたにもらった万年筆がどうしても嬉しくて
枕元に握りしめて眠ったら、目が覚めて
起きたらあたり一面インクが染み渡って
あたかも青い血の海のようだなあ。
・35歳の誕生日に20年前のプレゼントを使いながら
君くれし万年筆の持ち重り 16tのペン先なれば
あなたがくれた万年筆を使っていると
時間とともに重さを実感する。
(どういうわけか)ペン先の重さが16tもあるので。
・45歳の誕生日にふと詩想がわいた
ペン先をくちばしに持つ鳥なれば いざ飛びゆかん君眠る町へ
もしもわたしがペン先をくちばしに持つ鳥だったなら、
ただちに羽を広げてこの夜空を君の元に飛んでいくだろう。
・55歳の誕生日に10年前の短歌への感想を聞いて
ペン先をくちばしに持つ鳥ならず キモイとかキショイとか言うなたとえ話だ
だから本当にペン先をくちばしに持つ鳥なわけじゃなくて。
たとえ話だって言ってるじゃないか。気持ち悪いとか言うなよ。
字余りになっちゃったじゃないか。
・65歳の誕生日に恋敵の存在を知って
小手先の技冴えるペン先使い浅き輩よ佐々木紫
ペンを使う同業者の端くれの中でも小手先の技ばかり巧みな
底の浅いやつだなあ、(恋敵の)佐々木紫は。
・75歳の誕生日に万年筆の錆に苛立つ
ペン先錆びて紙を裂き噂聞き草木むしりて兎に刃先
君に貰った万年筆のペン先が錆びて紙を切り裂いたところで
君のイヤな噂を聞き、自棄を起こして草木をむしったり
兎に刃物を突きつけたりしてもう無茶苦茶なことだなあ。
・85歳の誕生日にふと義憤に駆られ
我は知るまなこ血走る苦きは汁 我また走るペン先走る
苦汁を飲まされ、怒髪天を衝き目も血走るようなことを
知ってしまうと、さすがのわたしもかけずり回り、
想いをペンに託すのである。
・95歳の誕生日に少しいいことがあった
珍しい花見た鳥の声聞いた 楽しき日のふみ踊るペン先
今日は珍しい花を見た。珍しい鳥の声を聞いた。
たまに楽しい日があると君に書く手紙のペン先も踊るよ。
・105歳の誕生日に
万年筆くれし君の世を去りて 震える手先踊るペン先
君が万年筆を贈ってくれたのはいつのことだったろうか。
その君は既にこの世になく、
年老いたわたしの手先でペン先も震え踊る。
(「ペン先」ordered by kyouko-san/text by TAKASHINA, Tsunehiro a.k.a.hiro)
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