嗚呼、素晴らしきぺトロ星
「私の故郷はぺトロ星、宇宙の中でも特に優れた文明を築き上げた星だ」
セナがそう切り出すと天球図の一点がピカッと輝いた。
「方角は地球から見て獅子座のレグルスの方角、距離は約三万光年、分厚い氷に覆われた氷河の星だ」
天球図が消え、変わりに巨大な氷の球が映し出される。ここが彼らの故郷なのだろう。
「全球凍結してるんですか?」
「ほう、詳しいね」
全球凍結とはその星全体の海が凍ってしまう現象のことだ。原因はまちまち。科学番組で見たことだが、昔地球もそうなっていたらしい。
「その通り、現在我がぺトロはほぼ全域、99%の海が凍っている」
「……よく生きていけますね」
過去に地球が全球凍結したときは、そこに住んでいた生物ほぼ全てが死に絶えたらしい。私達の祖先が生き残ったのは奇跡中の奇跡とも聞く。
「まあ普通の文明は誕生すらしないだろうね。だが我らぺトロ星人は文明力が違う」
セナがぺトロ星のホログラムを回転させる。見えてきたのは真っ白な星に走る黒い線のようなものだった。
「何ですかこの線?」
「これは<ウェルブ>私達ぺトロ星人をつなぐライフネットワークだ」
セナがぺトロ星を拡大させると、その黒い線がまるで網のように張り巡らされているのが見えた。まるでクモの巣のように。いや、我々の体に存在する神経網のようだと言ったほうが方が適切か? とにかく張り巡らされているのである。
「ライフネットワーク?」
「我々ぺトロ星人の経済拠点をつなぐ生活網だ。拡大してみよう」
ホログラムのぺトロの空をまっ逆さまに落ちていき、見えてきたのは500メートルをゆうに超える超高層ビル群だった。
「すごい……」
「ウェルブは例えるなら血管だ。この張り巡らされた道の中を金や物、人が流れていく」
「え、これで血管なんですか? こんなに発展してるのに?」
「まあ一言でいえば田舎だな。といっても住むのになにも不自由はしないが。都市部は人工が過密になりすぎて、人を地方に送るしかないんだ」
ウェルブを映していたカメラが上空をぐんと上っていき、今度はウェルブとウェルブが交差する少し大きな点に落ちていく。
「ここが我々ぺトロ文明の要所、<オーグ>だ」
セナがオーグと呼んだ場所、そこは形容しがたい場所だった。例えるならそうだな・・・竹やぶ? 整然と並んだ黒いビルが竹やぶのように無限に空へ伸びているのだ。そのビルとビルの間をまるでクモの巣のように連絡橋がもう隙間なく編み込まれている。
「何て言うか・・・不便そうですね、地球人から見ると」
「そう思うのなら実際に暮らしてみるといい。その上で感想を聞こうか」
超高度文明での生活!? うーんちょっと魅力的かも。
「オーグは我々の祖先が火山を掘って造られた街を元にしている。なのでマグマの熱で凍ることはないし、氷を溶かして水も得れる。さらに地熱で発電も、まさに大地がくれたオアシスと言っていいだろう」
なるほど、昔の人が頑張ったのね、とても合理的。
「では最後に我々のの首都をご紹介しよう」
そういって、セナが再びカメラを打ち上げる。天球が回転し北半球に差し掛かった時、奇妙なものが見えた。北極からまるでマラカスのようになにかがそびえたっているのだ。明らかに人工物私はそれに該当するものフィクションで知っていた。
「まさか起動エレベーター・・・?」
「その通り、これが我がぺトロ星の首都、<オーグ・ライオ>だ。我が国民は略してライオと呼んでいるがな」
「ライオってどういう意味なんです?」
「中心とか核といった意味がある。ようはオーグの中心といった意味だな」
最近知った話だが、起動エレベーターというのは意外と簡単に作れるらしい。詳しい方法は省くが、衛星上から地球に向かって糸を垂らしてその糸を中心に色んな機材をつけていくといった感じだ。その本によればあと五十年あれば理論上は建設可能らしい。この理論上というのは予算的なことを省いた場合の理論だ。
「このエレベーター、どこに繋がっているんですか?」
「我々ぺトロ政府の行政機関だ」
「なんかずいぶんスリリングな所にあるんですね」
「まあ、君たちから見たらそう思うのも無理はないね」
セナがそう言い、私と彼の間にあるホログラムが消え去った。
「さて、話が長くなった。だがこの長い話で我々の間にある偏見や壁がいくぶんか取り除かれたことを願おう」
まあ、確かにちょっと楽しく話してた気もしなくもない。
「では、再び問う。私と共にアイドルの道を歩んでくれないだろうか?」
「……まだ一番大切なことを聞いていません」
「…………」
そうまだ腑に落ちないことがあった。一番重要でミステリアスなことを。それを聞くまで私な答えは変わらない。
「何でセナさんは、そこまでして私をアイドルに……いえ、何で宇宙人にアイドルが必要なんですか?」
静寂が私達を包み込む。だがこれを聞くまで帰れない、いや帰れるかはわからないけど。とにかく、これは聞かなければならない。全ての答えがそこにあるはずだ。
エイリアンセナが口を開く。ゆっくりと確かな声で、彼はこう言った。極めてシンプルでこの上なく分かりやすい答えを。
「黙秘する」
彼の答えはこれだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます