木星の冤罪

 太陽が沈み、春の星くずが瞬くそのしたで私はとぼとぼ歩いていた。もう歩くのも嫌だ、帰りたい、家で寝たい。走って職務質問されて、心も体もぐったりだ。今すぐお布団にダイブしたい。


 何とかアパートの前にたどり着き、あとは階段を上るだけになった。アパートの二階を見上げ一歩踏み出そうとしたとき、さらにその上、輝く星空に目が行った。


 幼い頃から星を見るのが好きだった。もっと言うなら星の世界を空想する。そこにどんな生物が住んでいて、どんな文化を築いているのか、いつも心を踊らせていた。いや今でも好きだけど。


 あの頃は月にうさぎが住んでいて、火星のタコさんと戦っているんだったなぁ。


 空を見上げ星をなぞっていく。大熊座、小熊座、乙女座。最後に私の目に入ったのは、一際輝く白い星だった。


 ふふっ、確か木星には――


 瞬間、私が木星だと思った星が、暗闇の海原に光る灯台のように一瞬強く瞬いた。その光はまるでカメラのフラッシュのように私の目を眩ませる。そして目を開けると私の視界はがらりと変わっていた。


「ん……?」


 後に思い出したことだが、木星は宇宙船に間違われやすい星らしい。地球から見て月と太陽の次に明るい星で、それらに比べてずっと小さい。ていうことで人々が何かの勘違いを起こしたときに、そこに光っていたからという理由でよく冤罪を擦り付けられるのだ。けど今回の私の場合、それとは真逆のことが起きていた。


 ――結論から言おう。私はアブダクションされた。

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