呼び人探して三万歩
『運命は生まれ落ちた瞬間に決まる。この言葉は、この広い宇宙であらゆる星、あらゆる文明の人々が口にする言葉だ。もちろん地球や我がぺトロ星でも……しかし、この考えは科学的に否定されている。この宇宙を構成する素粒子は今を完璧に観測しても未来の位置を100%予測するのは不可能、そしてその素粒子の大きな固まりである私たちも、同じように今の観測で未来を完璧に予測するのは不可能なのだ。結局は運命というのはそれぞれの思い込みであって、仮にこの世界に神がいるとしても、神はあらゆることをサイコロを振って決めていると言うこと。未来は自分の思っているほど狭いものではない』 ぺトロ星人セナ
「ああ~、あ~!」
同日夕暮れ。私は川辺で発声練習……という名目で憂さを晴らしていた。せっかくの休日を棒に降ったからだ。
例の謎の声は会いに来てほしいと言っていた。逆に言えば相手も私に会いたいということ、そう考えた私は普段私が行くすべての場所を巡った。
バイト先のメイド喫茶にアニメショップはもちろん、ライブ先のアキバズドリームに普段ダンスの練習をしている公園、あげくのはてによくお参りする神社まで、どこに行ってもそんな人影はなく、私は最後に思い当たる場所、ここ隅田川にたどり着く。しかし一言で隅田川といっても、相手は川だ。全長23.5km。さすがに全部回るのは無理なので私は人気が多そうなところを走ったが、結局、私を待つ人は居なかった。体力と時間だけ無駄に消費した私は声をあげずにはいられない。
「こんちくしょー!」
自然と腹のそこから声が出る。できることなら東京タワーのてっぺんから叫びたいくらいだ。オカルトなんか信じた私に腹が立ち、また叫びが込み上げる。
「バカヤロー!」
私の魂の叫びがビルに反響してこだまになる。こうやって叫び続けてもうそれなりの時間が経った。先ほどまでは黄色だった太陽も気がつけばきれいな橙色になっている。これ以上続ければ喉を痛めるかもしれない、そろそろ帰ろう。そう決意した時だった。
「お姉さん、そこのお姉さん」
ふと後ろから、若い男の声が確かに聞こえた。そう、誰かは分からないが、確かに誰かが私を呼んだ! 私の心臓がばっくんばっくんと音を鳴らす。ついに来た運命の王子様! 私は最大級の期待を持って振り返った。
「王子様!」
「あ、すみませんお姉さん。先ほどこの近所の方に通報を受けましてね、少し話聞かせてもらっていい?」
……え? 振り返った先には確かに若い男がいた。キッチリとした青い制服に身を包んだ、真面目そうな男性が。私の頭は状況を飲み込めずにフリーズする。この人が何なのか分かったのは、彼の被っている帽子の星形のような紋章をみてしまったからだ。
あ、この人警察だ。それが分かった瞬間、全身からドバーって汗が吹き出る。え、なんで? 音夢なにかした? 相変わらず心臓はばっくんばっくん鼓動を打っている。
「ピンクの髪をした女性が物騒なことを叫んでいるとのことらしくて。お姉さんでしょ? 叫んでるの」
全くもってその通り。返す言葉のない私が、何とか絞り出した言葉はこうだった。
「その通り! 何か悪いか!」
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