かつて少女は宇宙人だった
『アイドルというものはガチョウに似ている。水面上の見えている部分は優雅だが、水面下では必死になって泳いでいる。さらにそこから飛び立つとなるとそれはもうとんでもない労力を必要とするだろう。
だけど必死になって飛んだ先、空から見る景色は景なはずだ。きっと鳥たちの祖先はその感動を得るために空を目指したのだろう』 鈴木音夢
夢を見ていた。希望と幸福に満ちた幼き日の夢を。それが夢だとわかっていながら私はそれを眺め続けた。
「ベルベル星はね、雲が綿菓子でできていてジュースの雨が降ってくるの!」
幼き日の私が語った。私の大好きなもう一つのふるさとのことを。
「私、将来お姫様になってベルベル星のことをもっとみんなに知ってもらうの!」
幼き日の私が笑った。夢と希望に満ちた心からの笑顔。今の私はあの頃のように笑えてるだろうか?
あの頃、確かにベルベル星はそこにあった。あの頃、私は本当にベルベル星人だった。
ああ、今はもう笑えない。今の自分は何もかもを知ってしまった。なんで私、こんなことしてるんだろう? いつまで夢を追いかけてるんだろう? いつまで好きを追いかけてるんだろう?
「それの何が悪いのだろうか?」
声が聞こえた。どこからか聞こえるものではなく、直接頭のなかに響く声。夢の中だから当たり前か。
「好きとはそう簡単に消えるものなのだろうか?」
再び声が響く。男性でも女性でもないその声、まるでノイズがひどい電話越しの声みたいだ。ぼやけていてとらえどころがない。
「もし好きを諦めきれないのであれば私に会いに来てほしい。君の人生を変えて見せよう」
かつての自分が、風景が、空から照らされるまばゆい光に消されていく。まるで自分がその光に吸い込まれるように錯覚した。私はその光に包まれて――
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