クレパスの剣

@takuya1264

第1章 別れ道

「「「 は? 」」」


おれは今混乱している。何が起きたかまったく理解していない。だって、ついさっきまでふつうに暮らしていたのに急にこんなところにいるのだから。


少年は頭を抱えている。


「えーと…ここ…は」


あたりを見回すと、一面は真っ白だ。何もない。手を伸ばしてみても触れられるものはなく、ただ、広いだけの空間。不安、疑心、昂り。様々な感情が入り混ざる。それでも、とりあえず気持ちを落ち着かせようと、少年は深呼吸をする。

少年は大きく息を吸い、そして吐く。また吸って、吐く。

少し落ち着いたのか、記憶を辿ろうと試みる。


「そうだ、たしか」・・・




ミーン、みーん、ミ゛ーン。


蝉が鳴いている。


ミーン、みーん、ミ゛ーン。


日差しがカンカンに照りつける、白い昼。



「おーい、まてよトモヤ!はえーよおまえ!」


「〇〇がおそいんだろー!一番遅いやつがバリバリ君おごりなっ!ヤーもはやくしろよ!」


「う、うん」


「ハァ…ハァ…まてって!」


「まったく根性なしだなお前らは!あははっ!」


この一人でズカズカ突き進んで行く、さもガキ大将のような男は…

橙木朋也。とおのきともやだ。おれはトモヤと呼んでいる。人がわざわざこいつに合わせてやっているというのに、まるで自覚もない。自由奔放すぎて飽きれてしまう。けど、ほんとはめちゃくちゃいい奴だ。基本はこんな感じだけど、ほんとにいい奴。こいつの目はいつも太陽みたいに輝いてて、周りのみんなを照らしてる。一緒にいると自分まで少し明るくなる気がする。気がするだけかも。


「ふ、二人ともはやいなぁ…」


このいかにも引っ込み思案そうな男の子。黒く塗りつぶしたような黒い髪。黒い瞳。それと対をなすような真っ白な肌。いつも何かに怯えているような、そんな弱々しい男の子は…

黒川夜散。くろかわやちるだ。おれはふつーにやちるって呼んでるけど、トモヤはヤーと呼んでいる。やあ、ヤーと言いたいだけという、何とも適当な理由でつけられたあだ名だそうで。こいつはトモヤとはまた違ったいい奴ってかんじで、なんというか、ただただ優しい。アリだって殺せないような奴なんだ。


「っていまさらなにを、」


首をブンブンと左右に振る。


三人は走っている。カンカンに照りつける日差し、熱く焦げた様な砂利の上。永遠とも思えるほど、広大に晴れ渡る空の下。辺りに生えた木から射す、木漏れ日が眩しい。


「うっ、うわあ!」


ズサァー、、、


夜散が転ぶ。下は砂利、擦り剥いた膝から真っ赤な血が流れている。


「なーにやってんだよぉ、ヤー。って、膝血だらけじゃねーか!大丈夫かよ?」


トモヤはやちるの所へすぐ様駆け寄ってきては、驚いた表情を浮かべている。おれも息を切らしながら、やちるの所へと駆け寄る。


「派手に転んだな、やちるくん」


からかい半分でやちるに声を掛けてみる。


「ぐすっ…い、いたいよぉ」


やちるはグズグズと泣いている。うん、いつものやちるだ。と何だかわからない確信をもった。


「ヤー、すぐ近くに神社があっただろ?そこに行って傷口だけでも洗おう。このままだとバイキンはいっちまってたーーーいへんなことになるぞ」


トモヤが大袈裟に言っている。


「ひっ」


「おいやめてやれよトモヤ。怖がってるだろ。」


しっしっと、虫でも払うかの様にトモヤをどけた。


「やちる、立てるか?悔しいけどあいつの言う通り早めに洗っとかないと、ちょっと面倒になるからな。おれがそこまで肩貸すよ」


「ありがとう、〇〇くん」


えへへ。っとやちるが少し嬉しそうに笑ってる。まったく、こんなことで泣き止むなら、案外つよいこなんじゃないか?っとすこし考えてしまう。


「よっこいせっと。」


トモヤもやちるの脇に回り込んで、肩を貸す。さっきまで駆け回っていたのが嘘の様に、三人ズルズルと重く足を進める。ちょうど神社はすぐそこだ。道のりはすごく短いのだけど、一つ問題が発生した。


「階段、登れるか?」


トモヤにきいてみる。


「よゆーよゆー」


秒速で返答が返ってきた。こいつ、ちゃんと聞いてたのか?


「ご、ごめんね。僕のためにわざわざ…」


やちるがおそるおそる言葉を発する。


「いーってことよ!オレたち友達だろ?な?気にすんなよ!」


「あ、でも。」


「?」


やちるが首をかしげる。


「治療費ってことでーーーー…ヤーがバリバリ君おごりな!?」


ここでかよ!!!!!!!!っとつい思ったことが口に出てしまいそうだった。


「えぇ!?そんなぁ…これは不可抗力ってやつだよぉ…」


やちる、諦めろ。こいつには何を言っても通用しないんだ。ずっと一緒にいるなら分かるはずだ。

俺は現実を見ていた。


と。くだらない会話をしているうちに神社の階段を登り切ったようだ。結構高いところまで登ってきている。



「ええっと。水道、水道っと。」


トモヤがキョロキョロと水道を探している。


「お、あった!あった!」


どうやらトモヤが水道を見つけてくれたようだ。おれはやちるを担いでトモヤの場所へと歩く。するとなんだが、後ろでモジモジと顔を赤めているやつがいる。


「やちる?」


問いかける。


「…かしい」


「え?」


「…恥ず…かしい」


キョトン。思わず目を丸めた。そして___


「ぷっ!」


盛大に吹き出した。だって仕方がなかった。小学五年生にもなっておんぶされただけで恥ずかしいだって?ほんとに。あー、可笑しい可笑しい。可笑しいったらありゃしない。


「大丈夫だよ!おれたち以外だーれも見てないって!」


「う、うん…」


夜散がバツ悪そうに背中に顔を埋める。


「おーい、なにやってんだー早く来いよー」


そんなやりとりをしているおれたちを気にしたのか、トモヤが急かす。


「さあさあお座りになってよー、や ち る さ ま!」


トモヤがニヤニヤと何か企んでそうな表情を浮かべる。だいたい察しがつく。きっと、おれにも手伝わせてまずはやちるを押さえ付ける。そしてそのあと、がまんがまん!とか言いながら傷口を思い切り洗う気だ。まぁ、別に悪いことはしてないんだとは思うけど、なんだか悪い気もする。

何か良からぬ事を察知したのか、やちるが小刻みに震える。


「痛い…の…かな?痛くない…よね?はは」



、、、


、、、


、、、


結果は予測通りに終わった。


今まさに目の前で、がまんがまん!と景気良く声を上げるトモヤの姿が目に映る。そしてとなりで、やちるが泣き叫んでいる。地獄だ。これは。


「ヤー!!貴様は根性が足りんのじゃー!ほれほれー!ガーッハッハッハ!」


「死ぬ!死んじゃうよぉ!ぐすっぐすっ、うえーん」


「お、おい!もういいだろ、トモヤ!さすがに可哀想だぞ!やちる!死なないから!」


「え?楽しいだろ、これ」


「鬼。」


おれの一言でこの喜劇は終わった。





ふと、


トモヤが指を指す。


「あれ」


「ん、?」


指を指している方をみると、なんとも言えない大きさの祭壇があった。


「気になんねえ?」


「いや、べつに」


「オレは気になる」


「じゃあ、見てみればいいじゃん」


「そうだな!」


トモヤがまたもズカズカと足を進める。


あたりは静かだ。さっきまでの騒ぎがまるで嘘かのように。祭りの中で、一人取り残されたかのような、そんな感じがする。

辺りの木々が踊っている、ぐらりぐらりと。ザワザワと。


真っ白な昼。何故だか今は暑さを感じない、木漏れ日が少なくなった気がする。なんだろう、これ。言い様のない何かが、喉に詰まる。


トモヤが足を進める。その半歩後ろをおれが歩く。やちるはさらにその半歩後ろを歩く。


扉を開けた。


__________ギィ。

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