第3話
余程お腹が空いていたのか、男は結局、鍋に入っていたシチューを半分以上を平らげてしまった。
そして、一通り食べ終え腹が満腹になった男はエメラルダを見る。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。俺はアラン。ただのアランだ」
「ただのって何よ……変なの。まぁ、いいわ。興味ないし。私は、エメラルダ。見ての通り、この深き森の魔女じゃ。さぁ、もう食っただろう? さっさと帰れ」
「それはお断りする」
「なに?」
アランはテーブルに頬杖を着くとニヤリとエメラルダに向かい微笑む。
「生き倒れてしまった時は、もう終わったと思ったが……どうやら俺は、まだまだ生きないといけないらしい」
「ふん! 私の知った事ではない」
「まぁ、聞いてくれ。率直に言おう。俺は、お前が欲しい」
何の躊躇いもなく本当にド率直で言ったアランは、ほそく笑むようにエメラルダの目をジッと見つめる。エメラルダ本人はというと、余りの唐突な言葉に目が点になり、唖然呆然となっていた。
そして、3秒後にはハッと我に返った。
「なっ、なっ、ななな何を言っているの?!」
「何もこうも無いさ。ちょっと俺は人より傷を負う人間でな。魔女の力を借りたいと思ったんだ」
エメラルダは、またもや呆然となり、自分の勘違いにカァ〜と顔を赤らめた。まるで熟れた林檎のように赤くなっている。
「なっ?! そ、そうならそうと言えば良かろう?!」
(なんてややこしい事を言う人間なの?!)
「まぁ、そうなんだけどな。……つかさ、その喋り方統一しないか?」
「は……?」
「さっきから、な〜んか気になってさぁ。年寄り臭い変な喋り方だったり、普通の女の子の喋り方だったり」
そこを指摘されたエメラルダは眉間に皺を寄せ、アランから目を逸らしムスっとした表情になる。
頬は少しだけ膨れている。どうやら、突いてはいけない所を突いてしまったらしい。
「う、うるさいわね! 私は魔女だぞ?! 何千年も生きてるのよ?! ………………か、貫録ぐらい少しは欲しいじゃない……………」
後半は、聞こえないように呟いたつもりだったのだろうが、アランにはハッキリと聞こえていたみたいだ。アランは予想だにしなかった台詞にポカンとなると顔を俯きクスクスと笑い、やがて、腹を抱えて盛大に笑い始めた。
「くくっ……ふふふ……あははははっ!」
「何が可笑しいのよ!」
「ふ、ふふっ……ふふふ……ご、ごめんごめん」
(まさか、歴史的有名な魔女様がこんなにもあれとはなぁ……)
「ふふふっ」
「失礼な人間ね!」
「笑ってすまない。まぁ、でも……実際に直々魔女さまには、お世話なる事になるが……その時は宜しくな」
アランはそう言いながら椅子から立ち上がると、部屋を出て屋敷を出ようとする。エメラルダは出て行こうとするアランの腕を掴み引き止める。
そして、掌サイズの透明な小瓶をアランに手渡した。
「待って。これ、持っていきなさい」
「え?……これは?」
「ただの塗り薬よ。……頬、切れてるから」
アランは自分の頬を触る。すると、微かにチクリとした痛みが走った。
「……有り難うな」
微笑みながらエメラルダに言うと「じゃぁな。世話になった」と言ってエメラルダから背を向け、アランは屋敷から出て行った。
エメラルダはアランの背中を見送ると何もない天井を見上げると、エメラルダは言うだけ言って、食べるだけ食べて出て行ったアランに溜め息を吐いた。
「はぁ……。全く、今日は変な一日だわ。それに、変な人間だった」
エメラルダはこの時、自分でも気づいていなかった。
そう言いつつも、自分の顔が微笑んでいることに。
…………………
…………
…
アランとの出会いを思い出していたエメラルダは思い出から帰還すると、ふと、窓の外を見る。気がつくと空は、もう暗くなっていた。
「あぁ、いけない。この毒草を調べるのをスッカリ忘れていたわ」
エメラルダは森から採取した毒草をすり潰し、研究用のビーカーに入れる。
「新種の毒草が見つかるなんて、この森もまだまだ捨てたものじゃないわね。えーと……」
ぺろりと毒草を少量舐める。下がピリピリとし、胸焼けを起こしたような気分になるが、エメラルダには問題無い範囲内だった。
「ふむふむ。これは、痺れ……全身麻痺と。大量摂取してしまうと嘔吐も含みそうね」
(最悪、中枢神経がやられて死に至る……と)
茶色い皮の表紙には『POISON BOOK』と書かれている。エメラルダは、その分厚い本に毒草をスケッチし、体に起る毒の効果等を書き記す。
「解毒剤も作らないといけないわね」
一通りのことを書き終えると本と羽根ペンを置き伸びをする。そして、パチンと指を鳴らすと電気を消え、エメラルダは自分の寝室へと向かったのだった。
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