地球に地縛霊

(ホントに幽霊になっちゃったんだ…)

ようやく実感が持てたのは人目の増えだす道路沿いに出てから。

裸足に白ワンピースなんて異様に目立つ格好をしているのに誰1人こちらに目を向けないのだ。

最初は無関心な人が多いだけかとも思ったが、わざわざ数えること計100台もの車通りがあったのにも関わらず誰一人目もくれず、たまに通る通行人のうちの一人(ぽっちゃりな白髪ハゲのタンクトップおっちゃん)が話しかけてくれたかと思えば、右手にはまだ口元が乾燥していない空っぽの一升瓶が握られていた。いつの時代に生きてるんだいへべれけのおっちゃんよ。


「さて、ん〜…」

どうしたものかなぁ。

幽霊なんて半端者に化けちまった現状、やりたいことなんてありはしなかった。

そんなのは生前に済ましているわけだ。

でないと自殺なんて愚行は犯さない。

とっくに終わっている。されど果てはない。

つまりはどうやら、望まぬ、いや、かつて望んでいた本物の「自由」とやらが手に入ったらしい。

「そんなこと言っても、なにしろってのよ」

手に入ってわかる、魅力皆無の浮いた足枷。

「ま、自由なら自由らしく、好き勝手やってみようかな」

幸い、浮いたまま移動すれば疲弊することがないらしかった。足で歩くことも出来たが、これは普通に疲れる。だからみんな浮いてるのか幽霊。

ともなれば、どこへだって行き放題。

お金もパスポートも要らない、いわば石油王すらも超越した存在。

憧れのパリやモスクワにでも行ってみようか、なんてことも考えたが、いつ消えるのか分からない状況で1人西遊記をするのは良くない気がした。ちなみに西遊記より長い距離移動して、持ち帰ってくるのは満足感だけのになるつもりだ。

「とりあえず国内、っていうか県内で行きたい場所かな」

未練は無いと言ったが、ちょっと気になる場所はある。

そこでなら、もしかしてこの状況について進展があるかもしれないと思った。

「それじゃあ思い立ったら吉日というわけで、早速行きますか!」

まずは街の方へ、気負うものもなく悠々自適に出発だ!

……と、威勢よく意気込んだは良いものの、サッパリ道が分からない。

来る時はナビに従って来たが今はそのナビが使えないし、自殺目的で移動してたので途中の風景なんて覚えていない。しかも移動速度は徒歩と同じようなものなので、交通機関が使えない現状、物凄い時間がかかるだろう。幽霊は万能じゃなかった。

死んでも時間には逆らえないのか…。

やっぱ時間って神が作ったんだな。ばり強ぇや。

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紋白蝶 佐藤 田楽 @dekisokonai

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