第66話 確信犯?
「・・・まあ、あまり
そう言うと藍は超がつく程の真面目な顔からニコニコ顔に戻ったけど、ホントに今日の藍は喜怒哀楽の表情の変化が激しいぞ!これなら普段のクールな女王様の方がマシじゃあないのかあ!?
「・・・あー、そうそう、ホントに拓真君はこれから唯と会う約束をしてるのかなあ?」
藍は俺の顔をニコニコ顔で覗き込んでるけど、ここで俺が下手な仕草をすれば唯とデートする約束がバレる(というか、藍の奴、殆ど確信犯じゃあないのか?)から、俺は頑として否定するしかない!
「ち、違うぞー。俺はただ単に家にいるのが勿体ないと思っただけだあ!」
「ふーん、ホントかなあ・・・」
「信じてくれよお」
「まあ、信じる、信じないは別として、拓真君が暇なら私にも考えがあるけど、ちょっと待っててねー」
藍はそう言うとポケットに手を突っ込んだけど、取り出したのは自分のスマホだ。
俺は何で藍がスマホを取り出したのか全然分からないけど、藍は何かの操作をしたかと思ったら、スマホを右耳に当てた。という事は、どこかに電話をしているのは間違いない。でも、誰に電話を掛けているんだ?
「・・・あー、もしもし、私だけどー、今、どこにいる?・・・ふーん、私さあ、今、新浜砂駅を出てすぐくらいのところにいるんだけどー、ユイはどこかへ行くの?・・・ふーん、あのね、私、これからバッチャンのところへ行くつもりなんだけどー、手ぶらで行くのも何だからさあ、お土産にクリームどら焼きを持って行こうと思ってるけどー、どうせなら久しぶりに一緒に食べなーい?・・・あー、ゴメン、言い忘れてたけど、今、ここに拓真君がいるんだけどー、拓真君も食べたいって言ってるよー」
はあ!?おい、ちょっと待て!藍が誰と話してるのか全然分からないけど、どうして俺がクリームどら焼きを食べたいなどと言った事になってるんだあ!!話を勝手に作るのは勘弁してくれ!!!
「・・・ちょっと待ってね、本人に代わるからー」
藍はそう言って左の人差し指で通話口を塞ぎながら俺に向かって
「あのねー、一緒に行ってもいいって言ってるけどー、拓真君に替わって欲しいって言ってるよー」
藍はそう言ってからスマホを俺に「はい、どうぞ」と言ってパネルを見せながら俺に渡したけど、俺はその表示を見て心臓が止まるかと思った!そう、そこには『平山唯』と表示されていたからだ!!
藍の奴、十中八九、俺が唯とデートするつもりで街中まで来たのを見抜いて、しかも、この近くで唯と待ち合わせしているのも見抜いたに違いない!だからわざとデートの邪魔をすべく唯を呼び出したとしか思えないぞ!!
でも、ここで顔に出したら確実に藍にバレる。俺は出来るだけ表情を表に出さないよう、一度深呼吸をして、それを「はーー」と吐いてから藍のスマホを受け取った。
「・・・もしもーし」
『あー、たっくーん、アイが言ってた話はホントなのー?」
「藍が言ってた話?」
『クリームどら焼きを食べたいとか言ってた件」
「あー、その件だけど・・・」
俺は藍をチラッと見たけど、藍はさっきまでのニコニコ顔から『女王様モード』に切り替わっている!ここで俺が「嘘だよー」などと言ったら最後、後で何をされるのか想像が出来ない!!つまり、俺は何が何でもイエスと言うしか無いのかよ、とほほ・・・。
「・・・まあ、ホントに偶然だけどー、藍と同じ赤電に乗ったんだけどー、話しているうちに俺もクリームどら焼きを食べたくなっちゃってさあ」
『ふーん、まあ、唯は別に構わないけど、条件を付けてもいい?』
「条件?」
『そう、条件』
「それって何だ?」
『唯は1円も出さないよー』
「なーんだ、そんな事か」
『あー、唯を馬鹿にしたわね、ぷんぷーん!』
「そ、そんな事は無いぞー。俺はもっとドデカい物を要求されるかと思ったから、その程度でいいなら全然OKだぞー」
『くっそー、どうせなら物凄い要求を出せばよかったなあ」
「勘弁してくれよー」
「まあ、いいや。ここはたっくんの奢りという事で」
「はいはい、それは承りましたよ」
『じゃあ、今からそっちへ向かうからねー』
「はいはーい」
『悪いけど、もう1回アイに替わってもらえる?』
「りょーかい」
そう言うと俺はスマホを藍に戻したけど、その後も藍はニコニコ顔のまま通話を続けている。何を話しているのか俺には分からないけど、時々笑い声が聞こえる。どうやら藍は上機嫌と見て間違いないだろう。
やれやれ、家を出てもうすぐ1時間になるけど、藍に振り回された挙句、予定外の出費を強要され、しかも唯のクリームどら焼きは俺持ちかよ。でも、この程度で済むならお安い御用だ。とにかく、藍はこの後クリームどら焼きを買ったら慶子お婆ちゃんのところへ行くのは間違いないのだから、ようやく唯に合流できる、というより、唯の方から合流するのか。まあ、たしかに待ち合わせの場所にしていたセブンシックスは、ここから5分もすれば行ける場所にある。とにかく、藍に怪しまれず唯と合流できるのだから、そこは良しとせねばなるまい。
それにしても藍の奴、何を考えてるんだあ!?俺を引っ掻き回して楽しんでるとしか思えないぞ!
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