第65話 この際だから・・・
藍はニコニコ顔のままサラリと言ってのけてるけど、顔の割に声の抑揚は抑えたままだ。つまり、藍は自分の考えを包み隠さず言ってるのは間違いなさそうだ。
「おーい、その強気、どこから来るんだ?」
「そりゃあそうでしょ?小学生に負けたら『桜高の女王様』の面目丸潰れだからね」
「ま、まあ、たしかに・・・」
「それに、雄介さんもため息交じりでボヤいてるのは私も知ってるけど、今のままなら、いいえ、今のままじゃあなくても十中八九、不戦敗でしょうね」
「だろうな。姉貴も笑ってたし・・・」
「瞳さんも完全に匙を投げた格好だし、桜高の受験そのものが出来るようなレベルじゃあないのは間違いないと見ていいわね」
「舞ちゃんには申し訳ないけど、俺も宝くじの一等に当たらないくらいの確率で不戦敗だと思うぞ」
「万に一つ、あの子が桜高に入ったとしても、ユイが相手では勝ち目がないでしょうね」
「あれー?お前さあ、唯に俺を預けるつもりなのかあ?」
「うーん、本当はすぐにでも取り返したいけどー、ユイなら拓真君を安心して貸しておけるからね」
「うわっ!サラリと言うなよー」
「私が桜高全体を見渡した感じでは、今年の1年生にも可愛い子は結構いるけど、私とユイ、それに
「まあ、たしかに
「もし絢瀬先輩が乗り出して来たなら、私が本気を出しても敵わないと思ってるけど、ユイが相手なら拓真君を取り戻すのは楽勝よ」
「おいおいー、完全に唯を馬鹿にしてないかあ?」
「そういう事じゃあないわ。ユイなら安心して拓真君を任せられるけど、同時にユイなら私に拓真君を譲ってくれると信じてるから。だけど、絢瀬先輩は拓真君を任せられたとしても譲ってくれるとは思えないから」
「ふーん。じゃあ、俺が『唯から離れない』と言ったらどうするつもりなんだ?」
「その時は実力行使あるのみです!」
「おーい、俺の気持ちは無視ですかあ?」
「そのつもりはないけど、拓真君ならユイより私を選んでくれると信じてるから」
「結局はユイより自分の方が上だと言いたいんじゃあないのかあ?」
「うーん、そうとも言えるかも・・・」
「勘弁してくれよお」
藍はこの時まではニコニコ顔のままだったけど、ここで急に超がつく程の真面目な顔になったから俺の方が逆にビビったくらいだ。
「・・・拓真君には正直に言うけど、絢瀬先輩が乗り出してくるとは全然思ってないから、ある意味ホットしているけど、万が一、絢瀬先輩が拓真君を本気で欲しいと思って乗り出して来たなら私は白旗を上げるしかないと思ってるし、恐らくユイも、絢瀬先輩相手にガチンコで拓真君を取り合う事になったら勝てるとは思ってないだろうから、早々に白旗を上げて拓真君を絢瀬先輩に譲るでしょうね。だけど、一人だけ、あの人が乗り出して来たら相当厄介な事になると思ってるのは事実よ」
「はあ?それって誰だあ?」
「それに気付いてない拓真君は相当の大馬鹿者ね」
「何の事だあ?」
「ユイが私と同じ考えなのかどうかは分からないけど、ユイの態度からして十中八九、私と同じ考えのはず」
「おいおい、という事は藍も唯も知ってる子なのか?」
「この際だからハッキリ言っておくけど、あの人が本気で拓真君を自分の物にしようと思ってるなら、私は全力であの人を潰すわよ」
「うわっ!誰なのか全然分からないけど、そんな修羅場紛いの話に俺を巻き込むのは勘弁してくれー」
「あの人には申し訳ないけど、気付いてくれない方が私にとってもユイにとっても、拓真君にとっても幸せだと思うとだけ言っておくから」
「?????」
俺は藍が言いたい事の意味は分かっているけど、『あの人』が一体、誰を指しているのかが全然読めない。話の流れからして絢瀬先輩と唯ではないというのだけは辛うじて分かる。当たり前だが舞ちゃんでないのも分かる。
となると、藍がぶっ潰そうとしている子は誰なんだろう・・・
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