第49話 ガクッ
”カンカンカンカン”
俺たちが踏切に差し掛かる直前に警報器が鳴ったから踏切を前にして立ち止まる事になったけど、『桜岡高校前』駅のホームに小野寺が立っているのに気付いた。あの位置は最後尾の車両の後ろ側のドアの位置だ。
「あらー、小野寺君、相変わらずねー」
「茜ちゃんが来るのを待ってるんでしょ?」
「どうせいつもの時間の電車・・・あれ?今日は遅いわよ」
「なんか理由があって1本遅い電車に乗ったんじゃあないの?」
「待ちぼうけを食らったのか、それともメールか電話で『いつもより1本遅いよ』とか連絡を受けて時間を調整して待っていたのか、それは分からないけどねー」
「ラブラブよねえ」
「拓真君も早くカノジョを見付けないとねー」
「そうね、なんならが唯が可愛い子を紹介してあげようか?」
「それもそうね、『早くカレシが欲しい』が口癖のような子が結構いるからねー」
「たっくんはズボラだから、●●さんような世話好きの子がピッタリだよねー」
「逆に■■さんのような似た物同士の方がいいような気がするけどー」
「ま、たっくんがどう思ってるかだよねー」
おいおい、お前らさあ、俺に向かってニヤニヤ顔は勘弁してくれよお。
電車は駅に着いたから踏切は上がって俺たちは踏切を渡ったけど、いつもと1本遅い電車で登校してきた茜さんをニコニコ顔で出迎えた小野寺は、茜さんと毎度お馴染みの挨拶、まあ、俺や唯、藍から見たら「アホじゃあないの?」と思えるけど本人たちにとっては恒例の挨拶をしているのを横目に俺たちは歩き続けた(ここでその内容を言ってもいいのだが・・・それを言うだけでもアホらしいから止めておきます、ハイ)。
『桜岡高校前』駅を過ぎたという事は、もう場所的にも学校の間近であるし、周囲に男女・学年を問わず生徒も多い。当然だが唯と藍は「いつ『サイン下さい』と言われてもいいよ」と言わんばかりに身構えているとしか俺には見えない・・・のだが、実際には藍や唯に「おはよー」とか「おはようございまーす」と普段通り呼び掛ける声はあっても、「サインくださーい」「握手してくださーい」どころか「土曜日にライブ見たよー」などと言ってくる人は誰もいない。当然だが正門前で生徒が藍と唯の登校を待ちわびている人など誰もいない。せいぜい風紀委員の腕章をした3年生男子と2年生女子のコンビが「おはようございまーす」と登校してくる生徒に声掛けしているだけだ。
もしこれがアニメだったら目の前を「ピュー」と風が吹いて枯れ葉が数枚舞うだろうけど、今日は無風だから枯れ葉が舞うようなことは起きない。
「・・・だ、だれも・・・」
「・・・歓迎してくれない・・・」
「「ガクッ」」
藍と唯がガックリしたのは言うまでもなかった。
ま、俺はこうなる事は分かってたけどね。もし本当に藍や唯だけでなく、先輩や琴木さんを含めた『放課後お喋り隊』のメンバー4人がアイドルのような扱いだったら、ライブが終わって『うなパイファクトリー』から帰るときから藍や唯を待ち侘びている人がいるだろうけど、ライブが終わったらほぼ全員がアッサリ帰ってしまったのだから。
一部の人は家族や友人とかに頼まれたのか春花堂のお菓子の詰め合わせや『うなパイ』を買い込んでから帰ったけど、ライブを見るという目的を果たす以外に『うなパイファクトリー』にいる意味を見出す事が出来なかった連中に『アイドルの追っかけ』のような行動を期待するほうが無理なんだよねー。
ただ、理事長だけでなく校長先生や春花堂の会長に、『放課後お喋り隊』つまり軽音楽同好会に強烈な印象を与えることは出来た。理事長や校長先生はライブが始まる直前くらいに『うなパイファクトリー』にやってきて、ライブ終わると同時にアッサリ帰って行った(もちろん、これらの行動は俺が琴木さん経由でやらせたんだけどね)ことで、藍と唯の個人的人気だけでなく、このバンドそのものが人気バンドだと印象付ける事に成功したのだから。それに、あの理事長にライブ後の事を報告するような輩がいるとは思えない。その辺は『裸の王様』だよね。
えっ?
何でそんな事を知ってる?
あー、それはですねえ、何しろ理事長を含めた理事の奥様方、いや、理事長の元奥様、校長先生と教頭先生の娘さんも含めて母さんと『茶飲み友達』と言っても過言ではないのだ。だから母さんは桜岡高校だけでなく、系列の音ノ木高校や2つの高校を含め徳川学園の表、裏の全てを知っている。
その母さんの知恵、それと校内での噂話や俺個人の情報網、友人の友人といった人たちから見たり聞いたりした情報を総合的に考えれば、今の結果はライブ前に想像していた展開通りだからね。
藍と唯には申し訳ないけど、これが現在の桜岡高校における軽音楽同好会の実情という奴ですね。
えっ?俺も軽音楽同好会の一員なのに悔しくないのか?他人事のように言うな?
あのー、俺は自称『軽音楽鑑賞同好会』の会員であって、軽音楽同好会の会員ではないですよ。マネージャー扱いにもされてない、タダのお世話係みたいな物ですから(一応、唯の彼氏ではありますがトップシークレットです!!)。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます