第47話 みんな、ありがとう
時刻は午前10時半。
時間ピッタリに唯、藍、先輩、琴木さんの順番に登場した事で会場にいた人たちは一斉に歓声を上げた。四人とも着ているのは桜岡高校の制服だけど、リボンだけは学校指定のリボンではなくトーテツ百貨店のアニメグッズ販売店で手に入れた『けいおんぶ』の学校の水色リボンだ。つまり、アニメ第8話での新歓ライブを再現しているのだから、アニメを知っている人ならば『放課後ティーカップ』初期メンバーの2年生四人そろい踏みといったところだ。
本物のライブハウスではないから高さが30センチほどの仮設ステージの会場側から見て前列右に唯がギター、藍がベースを肩に掛けてマイクの前に立っているし、後方右のドラムの先輩だけは椅子に座ってるけど後方左の琴木さんはキーボードを前にして立っている。これもアニメの並びと同じだ。しかも今日の先輩は普段はつけてないカチューシャを頭につけている。それもトーテツ百貨店のアニメグッズ専門店で買った『放課後ティーカップ』のドラムの子と同じ物だ。当然だけど、これもアニメを意識しているからに他ならず、嫌がる先輩に俺が無理矢理つけさせたのだ(想像できると思うけど、その支払いは俺だったけどね、はーー・・・)。
スポットライトも仮設の4つしかないけど、その4つのスポットライトが全て点灯して唯たちを照らした事で再び歓声が上がった。
「1、2、123!」
先輩が両手を頭の上でクロスさせて掛け声を上げた事で演奏が始まり、大歓声と共にリズムに合わせて手拍子が始まった。まさに新歓ライブを再現したかのように『カレーおんライス』の曲が始まったから会場は興奮のるつぼと化した。
もちろん、俺と南城先生は唯たちが登場した通路の端でライブの様子を見ているだけだが、俺から見たら唯たちを挟んで反対側、つまり琴木さんが立っている場所のすぐ隣には椅子席が用意されていて、そこには来賓の形で徳川理事長を始めとした理事の面々、校長先生、さらには春花堂の会長と社長、つまり琴木さんから見たらお爺さんと伯父さんも座っている。これらは琴木さんからお爺さんに「お願いメール」を送って強引にライブに連れ出したのだ。理事長と言えども、外部理事であり同時に学園最大のスポンサーでもある春花堂の会長からの依頼は絶対に断れないのを見越しての事だ。
要するに俺は、藍と唯の学校内での個人的な人気を観客動員に最大限に、かつ有効的に利用して、さらには琴木さんの個人的伝手を使って理事長を始めとした理事連中相手に、ド素人かつ下手糞バンドを『校内随一の人気グループ』に仕立て上げる事に成功した訳だ。
「みんなー、今日は『放課後お喋り隊』のライブに足を運んでくれてありがとう!」
1曲目の『カレーおんライス』が終わったところで唯が会場のみんなに呼び掛けたから、拍手と共に『うぉーーーーー!』という大歓声が上がった。もちろん理事長たちも拍手で応えている。
「わたしたちは『放課後ティーカップ』を意識して結成した女の子四人組のコピーバンドですけど、残念ながらアニメと違って五人目のメンバーを集める事が出来ませんでした。だけど、いずれ五人目のメンバーを集めて、もう1回、みんなの前でライブをしたいと思ってまーす」
『『『『『『『『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』』』
「では、メンバー紹介をしたいと思います。わたしがボーカル兼リードギターのユイでーす」
♪♪♪~ ♪♪♪~
『『『『『『『『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』』』
唯は普段は『唯』という一人称を使っているけど、今はアニメの主人公である『ユイ』なのだから、自分の事を『わたし』と呼んでいる。もちろん、これも俺が唯に言って『わたし』という言葉を使うようにさせている。でも、会場のみんなから見たら『平山唯』ではなくアニメの『ユイ』なのだから、姫様ファンクラブの連中だけでなく全員が大歓声を上げるのも当たり前かな。
「次、わたしの右にいるのがベース兼ボーカルのアイ」
♪♪♪~ ♪♪♪~
『『『『『『『『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』』』
藍は普段通りの女王様を彷彿させるクールな視線のままだけど、まさに「アイ」そのものであり、女王様親衛隊の連中だけでなく姫様ファンクラブの連中、他の連中も平山藍ではなく「アイ」に大歓声を送って興奮している。藍も「アイ」としてノリノリで、それでいてクールな笑みをしながら歓声に応えるかのように右手を軽く上げた。
「み、みなさん、おはようございます・・・というかユイ!私にこんな役をやらせるなー!」
その声、その風貌、その威勢は、まさにツッコミ役の「アイ」そのものだ。会場から大爆笑が起こったけど、藍は全然気にしてないという事は藍もノリノリという事だ。あー、でも、この演出は俺のシナリオには無かったですよー。
「次、わたしの後方左にいるのが同好会の部長で『放課後お喋り隊』のリーダー、りっちゃん」
♪♪♪~ ♪♪♪~
『『『『『『『『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』』』
先輩はスティックを器用に使ってドラムを軽快に叩いてるけど、つい10分ほど前まで深刻な顔をして会議室の椅子に座っていた先輩とは別人のような顔だ。もちろん、先輩もノリノリの笑顔だ。最初からノリノリの笑顔でいてくれたのならば、あーんな事をする必要もなかったのになあ。まあ、過ぎた事をあーだこーだ言っても始まらない。それに、あれがあったから先輩が立ち直れたのも事実だから深く考えないようにしよう。
「次、わたしの後方右にいるのが今日のライブ開催の最大の功労者でもあるムギちゃん」
♪♪♪~ ♪♪♪~
『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』
琴木さんはニコッと微笑みながら右手だけでキーボードを叩いて左手は会場のみんなに手を振っている。琴木さんはアニメの『ムギちゃん』そのものだから、先輩からは「ムギ」唯からは「ムギちゃん」とアニメと同じ呼ばれ方をしているし、藍だけは「紬さん」と呼んでるからアニメとは違うけどライブでは「ムギ」と呼ぶよう頼んである。もちろん、藍が琴木さんと話す機会がライブ中にあればの話だけど。
「この四人が『放課後お喋り隊』のメンバーでーす。これからもよろしくね」
♪♪♪~ ♪♪♪~
『『『『『『『『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』』』
「では、次の曲。『水性ペン~油性ペン~』」
『『『『『『『『うぉーーーーーーーーーー!!!!!』』』』』』』』
「1,2、123!」
♪♪♪~ ♪♪♪~
唯たちは最後まで『放課後ティーカップ』のコピーバンドとしてライブをやり遂げた。最後の曲『ふかふかタイム』は会場の連中も一緒になって熱唱し、まさに大成功のライブは無事終了した。
ライブが終わった事で『女王様親衛隊』の連中も『姫様ファンクラブ』の連中も帰路につき、楽器も片付けられ仮設ステージも撤去された事で、再び『うなパイ』のモニュメントホールに戻った。
唯たちも『うなパイファクトリー』を後にし、ドラムとアンプはトラックで学校に運び込まれ、俺と南城先生で片付けをして、長いようで短い1日が終わった。
でも、俺は気付いていた・・・ライブハウスと化した『うなパイファクトリー』の片隅で、このライブの様子をじっと見ていた女子が一人いた事に・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます