第44話 誰もが絶句

 次の日の朝、俺と藍と唯の三人は正門が開く前に登校し、正門が開くと同時に藍と唯はチラシ配りを始めた。二人が正門の所でチラシ配りをしている間に鞄を俺が2年A組に持って行き、俺も戻って正門のところでチラシ配りを始めた。俺ではなく藍と唯を正門に残した理由は誰でも想像できると思うけど、『桜高の女王様』と『桜高の姫様』の顔を使ってチラシ配りをした方が効果が高いのは間違いないからだ。

 今回は先輩も7時半前に登校してチラシ配りを真面目に(?)やっていたし、琴木さんも同じくらいの時間に登校してチラシ配りをした。


「『放課後お喋り隊』のライブがありまーす」


 唯も藍も正門のところで並んでチラシ配りをしているから、一人として受け取らない人はいない。唯派の人は自分の方から唯のところに行ってチラシを受け取って有頂天になっているし、藍派の人は藍からチラシを受け取って感動のあまり泣きそう(?)な程だ。もちろん、『FAIRY’sフェアリーズ』の人もチラシを受け取ってくれた。チラシを配る事は校則でも認められているし、当たり前の事ではあるが、部や同好会活動の一環として行う物ならば風紀委員会も生徒指導室も止める事は出来ない・・・と言いたいのだが・・・

「ちょ、ちょっと律子!これは何なの!!」

 登校してきた真壁先輩がいきなり先輩を呼び止めて「律子、あんた、これって冗談でしょ?本気なの?」と言わんばかりの勢いで問いただしたのも無理ない。何しろ軽音楽同好会創設以来やった事がないライブをやろうとしているのだから。しかも校内ではなく校外でだ。真壁先輩が「何かの間違いだろ?」と思うのも無理ないかもね。

 でも、先輩の対応も事前の打ち合わせ通りだ。

「ライブの告知ですよー。これ自体は校則で認められてる同好会活動だから違法じゃあないですよねー」

 とまあアッサリと言いのけたから、さすがの『史上最高の風紀委員長』真壁先輩も反論する事が出来ず、口をあんぐりと開けたまま生徒昇降口に向かう事しか出来なかった。俺は思わず『ぷっ』と吹き出してしまったほどだけど、唯が俺の右足に『バシッ!』と蹴りを入れて注意したほどだ。要するに「真壁先輩に失礼です!」と言いたかったのだろうが本人は唯スマイルを崩す訳にはいかなかったからね。当然だが藍は『桜高の女王様』の顔ともいうべきクールな笑みを崩してないから藍派が朝から興奮したようになってるように感じるのは俺だけだろうか・・・

 絢瀬あやせ先輩も登校してきたけどチラシを受け取って絶句していたくらいだし、カズ先輩は噂を聞きつけたのか(本当に全速力で)ぶっ飛んできて、チラシに書かれた内容を見て絢瀬先輩同様に、いや絢瀬先輩以上に絶句していた。それに教頭先生も俺のところへ走ってチラシを受け取りに来たくらいで、それくらいに今日のチラシ配りの反響は凄かった。


 昼休み、俺たちは第二音楽室に集まり唯たちは昨日のうちに買った水色リボンに付け替えた後、それぞれの楽器を手に取って4人の集合写真と各々の写真を撮った。撮影係は俺で、琴木さんのスマホを使って数パターンの写真を撮った後に琴木さんが春花堂の広報室の主任さんに写真を全て送信した。

 その写真を使って作られたポスターを持って春花堂の広報室の人が学校に来たのは、翌日の水曜日の放課後だった。

 軽音楽同好会の顧問という立場で南城先生が対応したけど、数枚のポスターと共に春花堂のお菓子詰め合わせセットを2箱も受け取った南城先生は最初から最後までニコニコ顔(というよりウハウハ)で、その証拠にお菓子詰め合わせセットを1箱だけを先輩に手渡して、もう1箱は自分一人で食べてしまった程だ。後で発覚して先輩だけでなく藍や唯、琴木さんからもブーブー言われたけど、本人は「まあまあ」と言ってノホホンとしてたけどね。

 因みに「『マネージャーさんに』とは言われてないよ」と先輩が強引な理由をつけて藍、唯、琴木さんの女子四人で食べたから俺は1切れも口に入れる事は出来なかった。とほほ・・・

 でも、俺はその裏で火曜日のうちから藍と唯を使って桜高の生徒をとして駆り出すべく暗躍(?)し、どうやら上手くいきそうな手応えがある。しかも、南城先生と琴木さんに了承を得たうえで、手掛けて、どうやらそちらも俺の計画通りに事が運んでいる。

 えっ?先輩は何をやってる?

 あー、あの先輩ね・・・今回は何も仕事を依頼してません!ハイ。

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