第43話 マネージャー権限!

「プリティ・ガールに決まってるでしょ!」

「えー、キュートガールの方がまだマシだよー」

「この際だから『美少女カルテット』はどうかしら?」

「1年生の間では『お喋り同好会』とか言われてるから『お喋りシスターズ』はどうでしょうか?」

「先生は『放課後コーヒーカップ』がイチオシよ」


 おいおい、俺も今まで全然気付いてなかったけど『軽音楽同好会』という同好会名はあったけどバンド名は無かったのかよ!南城先生と琴木さんが知らないのはともかく、先輩も唯も藍も知らなかったとは、ホントの意味で『女子トーク同好会かよ!』とツッコミたくなったくらいだぞ!!ったくー。しかも先輩は自分が名付け親になりたくて『プリティ・ガール』をゴリ押ししてるし、藍も唯も全然譲る気がない。いや、むしろ『桜高の女王様』と『桜高の姫様』が喧嘩を始めそうな勢いだ。

 俺は一番最初に「どうせノンビリした連中しかいないんだから『のんびりーズ』はどうだ?」と提案したけど、全員から総スカンを食らって以後は完全に蚊帳の外だ。でも、このままでは時間の無駄だ。それにチラシ作りやトーテツ百貨店に行く時間がどんどん少なくなっていく。

「あのー、俺から提案してもいいかなあ」

 もうほとんど喧嘩寸前の状態になってるから、俺が右手を上げながら強引に女子五人の間に突っ込んでいったから、少しだけだが場の空気が緩んだ。

「たっくーん、また変なバンド名を考えたの?」

 唯が不機嫌そうに俺を睨みながら言ったけど、それは他の四人も同じだったからホントに勘弁して欲しいぞ。マジで強情で我儘な連中ばかり5人も揃っているとしか思えないぞ!

「いや、そうじゃあなくて、このままだとラチが空かないし、だいたい、トーテツ百貨店に行くのがどんどん遅くなるぞ」

「あー、そういえばもうこんな時間だあ」

「だろ?だから、運で決定というのはどうだ?」

「えー!あのアニメは顧問の先生の一声で決まったんでしょ?それなら先生が独断で決めてもいいはずよ」

「先生が一番強引に名前を決めたがっているのだから、先生に任せたら絶対に先生の案で確定ですよね」

「あー、バレたあ?」

「ですから、全員の最終案を1個だけに絞って、そのバンド名をで決めましょう!」

 そう言って俺は5本の縦線を書いたB4の紙を1枚、テーブルの上に『バン』と叩きつけた。横線は既に俺が数本入れてあるが、殆ど空白に近い。

「自分の好きな場所にバンド名を書いて、その後は各自が好きなだけ横線を書いて下さい!もう時間が勿体ないから、マネージャー権限でをやります!」

 俺はほとんど強引にあみだくじを宣言したけど、先輩は「おー、後輩君は自分からマネージャーをやる気になってくれて嬉しいぞ」とか言ったかと思ったら一番最初に『プリティ・ガール』と一番左に書き込んだ。先輩が書き込んだから藍と唯もほぼ同時に右端に書き込もうとしたけど、結局唯が藍に右端を譲り、唯は右から2番目を選んだ。琴木さんは真ん中に書き込み、南城先生は残り物というべき左から2番目に書き込んだ。でも、先輩だけが最後まで自分の案を押し通したけど、他の四人は一番最初に言ったバンド名とは違うバンド名を書き込んだ。

 俺は紙の下側に適当に横線を入れると下から3分の1くらいを折り込んだから、これで目で行先を追うのは不可能になった。

「・・・それじゃあ、後は五人で適当に横線を入れて下さい。どの場所をスタートにするかは南城先生が決めるという事でいいですよね」

 俺は最終確認を取ったつもりだったけど、先輩が一番最初に「いいよー」と言ったし、他の四人も首を縦に振ったから、俺はボールペンを2本手渡した。

 でも、ここからが凄まじかった。先輩は斜め線をズカズカと書き込むし、南城先生に至っては右の線から左の線に飛ぶワープポイントを何箇所も入れる始末だ。唯は下から上に戻る線を何本も書き込んでるし、藍は信じられないくらいの数の横線を書き込んでいる。琴木さんが10本だけで終わらせたのが優しく思える程だ。

「・・・それじゃあ南城先生、選んでください」

 俺は南城先生にそう言って赤の極細マジックペンを手渡したけど、南城先生は一番左端から極細マジックペンを下に下ろし始めた。さすがに横線の数が多いから時間が掛かる・・・と思ってたけど、再び左端まで戻ったところで唯が書き込んだ下から上へ戻る線、いや、上から下へ急降下する線に入ったからアッサリ折り込みの部分まで行き、南城先生のワープポイントは1度も使われなかったし、藍が書き込んだ線も大半が無駄になった。藍の顔がみるみるうちに不機嫌になったのは俺にも分かるからホントに心臓に良くないです!お願いだからこんな場所で『女王様モード』全開で睨まないで下さーい!!

 南城先生は折り込み部分を開いたけど、そこから先は誰もが目で追えるくらいの間隔だ。結局、赤の極細マジックは最初から最後まで一度も右端に行く事なく終わり、一番左の線から隣の左から2番目の線に行ったところで、とうとう横線も無くなったから後は下に降りるだけだ・・・

「あらー、結局先生の案が採用されるならアニメと同じ結果ね。先生は昔から運だけは信じられないくらい持ってるのよねー」

「はーーー・・・入部届けを出したばかりの1年生に持って行かれるよりマシね。私は異論ないわよ」

「唯もそれでいいよー。『プリティ・ガール』よりはマシだからね」

「まあ、あたしもそれでいいや。どうせコピーバンドならバンド名もコピーらしくていいや」

「わたしは全然OKですよー」

 やれやれ、どうやら全員が南城先生が書き込んだバンド名に納得してくれたようで、俺としてもホッと一息だ。

 俺はあみだくじの紙を手に持って、五人を見渡しながらニコッとした。

「それじゃあ、決まりましたね。バンド名は・・・」

「「「「「放課後おしゃべり隊」」」」」

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