第31話 そう言えば・・・全然気にしてなかったけど

「たっくーん、コード忘れてるよー」

「わりーわりー」

 俺は唯に指摘されて大慌てでコードを台車に乗せた。

 間もなく部・同好会合同説明会が始まる時間だけど、俺たちはまだ旧校舎3階にいる。

 部・同好会合同説明が行われるのは講堂だけど、軽音楽同好会の活動場所は3階だ。藍と唯の個人持ちのギターはともかく、アンプとドラムセットは旧校舎から講堂へ移さないといけない。もちろん、手で運ぶのは大変だからエレベーターで運ぶ事になる。

 俺と唯はアンプやギター、ドラムセットが乗った2つの台車を押してエレベーター前まで来たけど、先に来て待っていた藍は今にも爆発しそうなくらいに不機嫌だ。

 えっ?なぜ不機嫌なのか理由が分からない?

 えーと、それはですねえ、今回ばかりは原因は先輩でもないし俺でもない。ハッキリ言うけど新聞部の連中の手際の悪さが原因なのだ。エレベーターは1つしかない荷物専門の上、旧校舎2階で活動中の新聞部の連中が撮影機材だけでなく、昔の8ミリ映写機を持ち出して講堂で新聞部の紹介の際に使おうとしてるから、エレベーターが中々3階まで来ないのだ。規則だから事前に講堂へ持ち込めないのは仕方ないとして、軽音楽同好会より発表が遅い新聞部がエレベーターを占拠している状態だから、藍が不機嫌になるのも当たり前だ。ブチ切れて新聞部に怒鳴り込まないだけマシなのかもしれないけど・・・

 俺だって文句を言いたい事は一杯あるぞ。今日は、というより席替えの結果、俺は唯の後ろは別に問題ないとして、藍の視線をずうっと受けながら1学期の間ずうっと授業を受けるのは正直勘弁して欲しいぞ。でも、それ以上に恐ろしいのは、俺の右側に座る事になった高坂こうさか野乃羽ののはさんの存在・・・今日の俺は1、2時間目のホームルームは胃がキリキリしてたぞ。


 因みに今日の発表の順番は、3月に小ホールで行われた公開抽選会のクジ引きの順番通りに行われる。部・同好会の数は丁度30だけど、これから同好会入りを目指すサークルと新たに設立されたサークルを加えると史上最多の39になったから、抽選会当日はどの部も若い番号を欲しがって殺気立っていたほどだ。

 ただし、ジンクスがあって何故か毎年『4』『9』『13』を引いた部、同好会は、その1年間は不幸に見舞われるか、人数が集まらず休止又は廃部になるというのが過去10年間続いているから、いくら若い番号が欲しくても、この3つだけはのだ。

 だけど・・・一番最初に抽選箱に手を突っ込んだ先輩が引いた番号は、『13』。誰もが嫌がる番号を真っ先に引いてくれたから、他の部や同好会の代表だけでなく小ホールに集まっていた連中が一斉に拍手をして歓声を上げたほどだ。藍と唯が後で先輩にブーブー文句を言ったのは容易に想像がつくと思うけど・・・

 あー、そうそう、『4』と『9』を引いたのは・・・本当は言いたいけど、その同好会の不幸(?)を喜ぶような事はしたくないから伏せておこう。

 という訳だから、早速不幸に見舞われたのかあ!?


「・・・あのさあ、やっぱりあのジンクスは当たってるのかなあ」

 唯がポツリと不安そうに言ったから俺まで本当に不安になってきたぞ。

「まったくよねー。旧校舎は講堂とは本校舎を挟んで対角線の位置にあるから、このままだと開始時刻に間に合うかどうかよ。拓真君、あなたアンプを手で運びなさい」

「はあ!?俺が手で運ぶのかよ!」

「何もしないでボケーッと突っ立ってるくらいなら手で運びなさい! (#^ω^)」

「それなら準備を全部俺たちに任せて1階でエレベーターが降りてくるのを待ってる先輩に運ばせるのはスジだろー?勘弁してくれよお」

「律子先輩が運ぶとでも思ってるの?拓真君がやらなくて一体誰がやるのよ!」

「はーーー・・・分かりました、やりますよ、やります」

 俺は相当長いため息をついたけど藍には逆らえない。仕方なくアンプを手に持って階段を降りて1階へ行き、そこからはテクテク歩いて講堂へ向かった。

 はーー・・・本校舎は結構横に長いからアンプを持って運ぶのは相当疲れるぞ。しかも先輩は「おー、後輩君、頑張ってくれたまえ」の一言でスルーだからな、とほほ。

 そんな俺が頑張って保健室前あたりまで来た時に「たっくーん」と後ろから声がした。

 その声に俺は「なんだあ?」と思ってアンプを足元に置いて後ろを振り返ったけど、2台の台車を押しながら藍たちが笑いながら歩いてくるところだった。

「はあ!?エレベーターが使えたのかよ!」

「そうだよー。たっくんが階段を降り始めてすぐにエレベーターが3階に来たから呼び止めたけど、たっくんがスルーしてたから」

「マジかよ!?俺は全然気付かなかったぞ」

「とにかく台車にアンプを乗せてもいいよー」

「・・・勘弁して欲しいぞ、はーーー・・・」

 やれやれ、不幸になるのは軽音楽同好会ではなく軽音楽鑑賞同好会の方かあ!?


 俺たちが講堂へ着いたのは部・同好会合同説明会が始まる直前だった。

 因みに生徒会長の挨拶で説明会が始まるのだが、抽選会で栄えある1番を引いたのは『キング・カズ』こと生徒会長のカズ先輩だから、制服ではなくサッカー部のユニフォームを着て会長挨拶をしているほどだ。どうみても職権乱用というか、この挨拶の時間もサッカー部の発表時間に加えろー!と俺は文句を言いたいぞ、ったくー。


 あれ?


 俺たちの前にギターを持った女の子がいるけど、あの子はたしか今朝・・・


 そう思って俺はポケットの中に入れてあった今日の説明会のパンフレットを取り出した。

 えーと・・・何々


1 生徒会長 開会の挨拶


2 部・同好会紹介

 ① サッカー部

 ② 手芸部

 ③ ジャズ研究会

    ・

    ・

    ・

 ⑩ 美術部

 ⑪ 山岳部

 ⑫ 女子ジャズ研究会

 ⑬ 軽音楽同好会

 ⑭ ダンス部

    ・

    ・

    ・

 ㊳ 新聞部

 ㊴ スイーツ研究会


3 閉会の挨拶


 そう言えば・・・全然気にしてなかったけど・・・『女子ジャズ研究会』とは何だ?

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