第30話 俺の横に座った女子

「みなさーん、おはようございまーす」

「「「「「「「「「「おはようございまーす」」」」」」」」」」

「うーん、みんな元気ですねー。それではホームルームを始めまーす」

 ちょっとお茶目な声を上げて南城先生が2年A組のホームルーム開始を宣言した。

 今日は特別時間割だから、午前は2時間目までホームルーム、その後は生徒会主催の1年生歓迎オリエンテーションだ。その後は昼休みを挟んで午後の部・同好会合同説明会となる。

 2年生、3年生の義務はオリエンテーションまでだから、俺は本当は昼休み以降は下校しても問題ないのだが・・・昨日の話ではないが、俺は軽音楽同好会の荷物運びという仕事があるから部・同好会合同説明会に参加する。

「・・・それじゃあ、昨日の約束通り、いきなり席替えから始めまーす」

「「「「「「「「「「ウォーーーーーーーーー」」」」」」」」」」

 おいおい、この異常な程のハイテンションは一体どういう意味だあ?南城先生が若くて綺麗な先生だからかあ?何しろ去年の1年生は全クラスの担任が40代半ばと50代だったから、お前らが浮かれるのも無理ないけど。

 そんな南城先生が教壇の上に『ドサッ』と置いたのが抽選箱だ。

「えーとー、このクラスは40人なので、この箱の中にはクジが40枚入ってまーす。クジには番号が書かれてますから窓際の前から1番、2番・・・という順番に座ってもらいます。廊下側の2列は6人でそれ以外は7列なので、そこは注意してねー」

「せんせー、質問がありまーす」

 ここでいきなり手を上げた男子がいたから、全員の視線がそいつに集中した。

 南城先生はニコッとした後に右手をその男子生徒に向けながら「どうぞ」と言ったから、その男子生徒、勝山は座ったまま発言した。

「個人的に番号を交換するのは有りですかあ?」

「それは認めません」

「えーっ、どうしてですか?」

「クジとは、言い換えれば神様からのお告げですから、そのお告げを無視するという事は、見方によっては自身の運命を否定する事になりまーす。このクジ引きは今年1年間の自分の運勢を占うという事も兼ねていますから、交換はナシにしましょうね」

「はーい、分かりましたー」

「それじゃあ、くじ引きを始めまーす。出席番号1番の天野君と出席番号40番の山羽君はジャンケンをしてもらいまーす。天野君が勝ったら番号順、山羽君が勝ったら後ろからクジを引いてもらいまーす」

 そう南城先生が言うと天野と山羽が立ち上がりジャンケンを始めたけど、天野が勝ったから出席番号順にクジを引く事になった。天野は早速抽選箱の前へ行って、気合を込めた顔で右手を突っ込んだかと思ったら勢いよく右手を抜き取った。

「はーい、それじゃあ早速クジを開いて番号を見せてくださーい」

 南城先生がそう言ったので天野はその場でクジを開いて高々と掲げた。そこには『1』と書かれていたから全員が「おーー」とどよめいた。

「わおー、いきなり1番とは凄まじい強運ですねー。それじゃあ、引き続いて磯野さん、引いて下さーい」

 その後も次々とクジを引いていったけど、小野寺が『40』を引いた時には俺は思わず笑ってしまったけどね。A組では昨年の総合成績最下位の小野寺だから、ここでもラストナンバーかと思ったら本人には失礼だけど笑うしかないからね。小野寺本人も苦笑いしているし。

 そうこうしているうちに藍の番になった。

 藍は例のクールな笑みを浮かべながら右手を無造作に抽選箱に突っ込んだかと思ったらアッサリ抜いた。そのままクジを開いたけど、その瞬間に「あれっ?」というような表情をしたけど、そのまま右手を高く掲げた。


『7』


 この瞬間、クラスにどよめきが上がった。窓際の最後方という誰しも憧れる席を藍が引いたのだから、まさに『桜高の女王様』の面目躍如といったところだ。でも、女王様親衛隊長の本多は誰が見てもガッカリしている。なにしろ藍の隣にあたる『14』は直前の平瀬さんが引いてしまったからね。

 その次は俺だけど『6』を引いたから思わず「マジかよ!」と呟いてしまった。何しろ藍のすぐ前の席を引いたのだから、俺は1学期はあいつの視線を受けながら授業するのかよ、とほほ。

 俺の次は唯だけど、唯は例の唯スマイルで左手を抽選箱に突っ込んだけど藍と同様にアッサリ抜いた。唯が左手で掲げたクジには『5』と書かれてた。

「おー、平山トリオのそろい踏みだー」「あにきー、やったな」「マジかよー」などと声がしてるけど、ホントに勘弁して欲しいぞ。クラスでも藍と唯が俺の前後とはマジで神様は俺を呪ってるのかあ!?唯の横の12番は唯派の速水さんが既に引いてるから歓喜してるけど、姫様ファンクラブ会長の山羽は誰が見てもガッカリしてるから正直笑えるね。

 あー、そうそう、唯の次に茜さんが抽選箱に手を突っ込んで『34』を引いたから、小野寺が大声で「よっしゃー!」と叫んでクラス中から笑われたなあ。だけどさあ、お前ら、先生の目の届きにくい後ろの席で授業中にイチャイチャするんじゃあないぞ!

 そんなこんなで山羽が最後の1枚を引いて『35』を掲げたところでくじ引きは終了、そのまま席の移動を開始した。

 えーと、俺の前と後ろは藍と唯だから覚えてるけど、俺の横は・・・

 そう思って俺は右を見たけど、そこに座ったのは女子だ。

「平山君、よろしくね」

 そう言ったかと思ったらそいつはニコッとしたけど、その瞬間、俺は『マジかよ!』と思わず口に出しそうになったほどだ。俺の横に座った女子・・・こいつこそが去年は『1年生最大の問題児』とまで呼ばれた高坂こうさか野乃羽ののはさんだったからだ。

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