第29話 それでも部長ですかあ!
「・・・それじゃあ、オレはチラシ配りに戻るぜー」
「わたしもダンス部の子に任せるのは失礼だから戻りますよ」
カズ先輩も絢瀬先輩も互いに軽くニコッとした後に右手を上げてチラシ配りに戻っていったので、俺と藍、唯も右手を軽く上げて先輩たちと別れた。
「・・・ところでたっくーん、チラシはまだある?」
「だいたいさあ、先輩の分が丸々残ってるんだぜ」
「拓真君、ホントに律子先輩は来てないの?」
「ここに紙袋があるのが証拠だよ。さっき真壁先輩もここに来たけど、先輩が来てない事に呆れてたぜ」
「「マジで雷決定!」」
おいおい、藍だけならともかく、唯まで怖い眼をしてるのは本気で怒ってる証拠だぞ。
カズ先輩も真壁先輩も普段通りの藍と唯なら抑えることは出来るけど、一昨日のトーテツストアでのイカ・タコ戦争(?)の時みたいに二人揃って爆発したらカズ先輩と真壁先輩では絶対に無理だ!俺の見た限り絢瀬先輩でないと止められない!!
「・・・おーい、やってるかあ」
いきなり俺は後ろの方から聞き覚えがある声がしたから振り向いたけど、そこには呑気そうに歩いてくる先輩の姿があった。
「律子先輩!遅刻どころの騒ぎじゃあないです!普段の登校時間とほとんど同じじゃないですかあ!!」
「そうよそうよ!唯たちが頑張ってチラシ配りしているのに重役出勤とは酷すぎます!ぷんぷーん!!」
「わりーわりー、いやー、どうしてもお腹が空いて我慢できなくてさあ、それで通学路に1件だけあるセブンシックスに入ってサンドイッチを買ったんだけどー、物凄ーく店が混んでたからコーヒー貰うにもお金を払うにも結構時間が掛かっちゃってさあ、それで遅くなっちゃったんだよねー。『腹が減っては戦は出来ぬ』だろ?朝食を抜くと健康に良くないんだよねー」
おいおい、もう1年生もかなりの人数が登校しているのに、このノホホンぶりは一体なんだあ?全然反省してないじゃないかあ!!
「先輩、そんな事を言ってる暇があったら早くチラシを配って下さい!藍も唯もカンカンですよ!」
「まあまあ、あたしが寝坊したのは後輩君があたしにモーニングコールしてくれなかったからだぞー」
「せんぱいー、いつ先輩のモーニングコールをするって約束したんですかあ?」
「あれー、忘れてるのー? ♪~(´ε` )」
「冗談も程々にしてください、先輩」
「気にしない、気にしない」
はーーー・・・相変わらずノラリクラリと俺の追求をかわすのは勘弁して欲しいぞ、ったくー。
「律子先輩!遅刻は勘弁して下さい!それでも部長ですかあ!!」
「わりーわりー、後で『うなパイ』奢るからさあ、藍ちゃんももそれで勘弁してくれ。唯ちゃんも後輩君もそれでいいだろ?な、いいだろ?」
そう言って先輩は軽く右手を顔の前に持っていって『ゴメン』のポーズをしたけど、藍も唯も「はーーー」とため息をついて肩を窄めた。まあ、確信犯ではないけど天然もいいところだから藍も唯も「つける薬なし」とでもいったところか、ホントに諦めムードである。
「はいはい、唯はそれでいいですけど、ぜーったいに2個ですからね」
「私もです。2個で手を打ちましょう!」
「じゃあ、俺も2個という事で」
「りょーかい。じゃあチラシ配り開始!」
そう言ったかと思ったら先輩は俺の左肘に掛けてあった紙袋をサッと抜き取ってチラシ配りを始めた。藍も唯も「仕方ないわね」といった表情で、もう1つの紙袋からチラシを取ると2つに分けて、それを互いに持つとチラシ配りを始めた。
あれ?
という事は、先輩が配ってるのは俺の残り物で、藍と唯が配ってるのは本当は先輩が配る筈だった分じゃあないですかあ?せんぱーい、あまりにも楽をし過ぎだと思うんですけど・・・。
ま、別の考え方をするなら俺はチラシが無くなったという事でお役御免かな。後は三人に任せて教室へ向かうとするかな。
そう思って俺は周囲を見渡したけど、まだ予鈴がなるまで時間がある。これから来る1年生もいるから生徒昇降口前も賑やかだ。1年生の教室前に陣取ってる上級生の勧誘の声もここまで聞こえてくるほどだから校内も賑やかなんだろうなあ。
俺はそう思って歩き出した。
でも・・・俺は生徒昇降口に入ったところで気付いた・・・たった一人でギターを演奏しながら1年生に呼び掛けをしている女子生徒がいる事に・・・しかもあのギターは唯が使っているようなエレキギターではなく、アコースティックギターだ・・・。
その女子生徒は水色のリボンをしていた。その女子生徒の顔に悲壮感を感じたのは俺だけだろうか・・・
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