第10話 果報者であるが不幸に見舞われる可能性を秘めた男
「・・・ぶ、豚肉だ」
「「はあ!?」」
「だーかーら、タコでもイカでもなく豚肉、それも豚のバラ肉だ」
そう言って俺は二人の顔を交互に見ながらニコッとしたけど、案の定、二人共「はーーー」と長いため息をついたかと思うと唯はいつもの自然な笑み、藍はクールな笑みでニコッとした。
「たっくんの言う通りね、豚肉にしましょう」
「そうね、豚肉で決定!」
そう言うと、何事もなかったかのように唯はカートを押して、藍は唯の左に並んで歩き始めた。
はーーーーーー・・・正直、今回はラッキーだった。二人の共通の好物を知ってたから正しい答えを導き出せたけど、もし俺の全然知らない分野で言い争っていたら・・・想像しただけで恐ろしいぞ。それに俺はこれからずうっと、こんな事に巻き込まれる事になるのかあ!?
それにしても・・・唯はともかく、藍がさっき取った行動は・・・意識してやったのか?いや、咄嗟の行動だと思うけど・・・あの武器を使うのは反則技だ・・・モロに左腕が当たってたぞ。
いつの間にか鮮魚コーナーから精肉コーナーに行ってた藍と唯が豚のバラ肉が入ったパックを見ながら笑い合っている。どうやら、どのくらいの量を食べるのかを話しているようだ。さっきまでの喧噪が嘘のような長閑さを感じるのは俺だけだろうか?
やがて豚のバラ肉のパックを1つカートに入れたかと思うと唯が俺の方を振り向きながら
「たっくーん、ミートソースパスタなら唯が作ろうと思うけど、どうする?」
「俺は構わんぞ。藍は?」
「豚ひき肉で作るならユイに任せるわよ」
「いいわよー、じゃあ決まりね」
そう言うと唯は豚ひき肉のパックを1つカートに入れ、そのままカットトマトの缶詰をカートに入れるとレジに向かった。もちろん、藍も何事もなかったかのように唯の隣にいる。
考えてみたら、二人共、本当は一人っ子なんだよなあ。
兄弟姉妹がいないのだから、自分の言った事は通るから、よほどの事がない限り妥協を考える必要がなかったんだろうな。だいたい、二人ともそういう環境にあったのだから。
藍と付き合ってたのは半年くらいだけど、俺は昔から藍には頭が上がらなかったから彼氏だった時も基本藍が言う事にはイエスマンに等しかった。もちろん、藍の彼氏でなくなった後も俺がイエスマンだったのは変わらなかった。えっ?どうして藍の彼氏でなくなったのか?それは・・・今は言わせないで欲しい。
それに、去年はうちにいたのは唯だけだったから、家の中では俺は唯の機嫌を取る事だけを考えればよかったし、唯の彼氏になった後もそれは変わらなかったから、ようするに二人とも「俺が自分の意見に従うのは当たり前」という考えを持ってる筈だ。
さて、藍が義姉に、唯が義妹になった事で、俺はどちらを優先すべき・・・いや、どっちも優先しないという選択肢もあるけど、この3つの中のどれを選ぶのが正しいのか・・・おそらく、正解は1つだけだ。間違った答えを出した瞬間、俺たち『平山きょうだい』は崩壊する。割れたガラスは元に戻らない・・・。
そんな俺の葛藤を知ってか知らずか、俺の前を藍と唯はお喋りをしながら並んで歩いてるけど、そんな二人を見ながら、俺は「はあああああーーーーー」とため息をつく事しか出来なかった。
なぜなら、藍はクールな笑みとクールな口調から『桜高の女王様』と呼ばれるほどの美少女だけど、まさに女王様を彷彿させる冷酷な面を持っているの俺は知ってる・・・唯は少し子供っぽい所があるけど、その話し方や仕草、妹キャラを地で行くような可愛らしさと愛嬌のある笑い方で『桜高の姫様』と呼ばれるくらいの、藍とは対照的な美少女として知られてるけど、まさに姫様を彷彿させる我儘な一面を持っているのを俺は知ってる・・・
もちろん、普段の藍と唯は優等生であるけど、俺の知ってる限り、本物の優等生は校内には一人だけ・・・
俺は二人とは義理のきょうだい、つまり家でも学校でも、桜高の知と美を兼ね備えた美少女二人と一緒にいられる特権を得た桜高随一の果報者であるが、同時に桜高随一の不幸に見舞われる可能性を秘めた男になったという訳だよなあ、とほほ・・・。
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