第6話 手とり足とり教えてあげる?鞭で背中が真っ赤になるまでして教えてあげる?

 さすがの俺たちも母さんが帰ったというのに校長室で長居する訳にもいかなかったから席を立った。

 でも、藍が引っ越しをした事で色々と事務手続きをする必要があるから、その書類を受け取るために一度職員室へ行く事になった。俺たち三人に同行する形で南城先生と職員室へ行った俺たちは、そのまま職員室の隅にあるお客様との談話スペースに座った。

 藍と唯が並んで座り、俺は唯の斜め前の位置に座った。遅れて少し厚めの茶封筒を持った南城先生が来て、藍と唯の向かい側の席に一人で座った。

「・・・改めて自己紹介させて頂きますけど、あなたたち三人の担任になりました南城なんじょう佳乃よしのです。よろしくね」

 そう言うと南城先生はニコッとした。俺たち三人もニコッとしたけど、俺はさっきから『以前、どこかで見たような気がする』と思っているが、俺の思い過ごしかもしれないから、あえて口に出すような事はしなかった。

 ただ、相当美形の先生で、俺の見立てで30歳前後と見受けられる若い先生だ。

「あのー、担任が南城先生だというのは分かりましたけど、先生の担当教科は何になりますかあ?」

「国語よ。古文・漢文・現国の全部やるわよー」

「うわっ!実質3教科ですか!?」

「そうよー。覚悟しておきなさーい」

 そう言うと南条先生はもう1回ニコッとしたけど、という事は毎日、南城先生の授業があるって事だよなあ。

「あー、ついでに聞きたいけど俺たちは何組になるんですかあ?」

「あー、そう言えばクラスは言ってなかったですね。A組ですよ」

「「「A組?」」」

「そう、A組よ」

「という事は・・・」

「そうよ、全員が国公立の有名難関大学志望よ」

 南城先生はそう言うとニコッとしながら俺たち三人を見まわしたが、藍と唯は互いの顔を見合わせて「あれあれー」という表情をした。

「たっくんは法学部に進学する気はゼロだった筈だけど・・・」

「私もよー。拓真君の事だから、法学部はぜっーたいに拒否すると思ってた」

「たっくんはそれでいいの?」

 唯と藍はそう言うと俺の方を心配そうな顔をしながら向いたけど、俺は「はー」と短いため息をついた。

「・・・それを言い出したら俺は平山家から追放されるぞ」

「それもそうだよねー」

「ま、拓真君はのみの心臓よねー」

「たっくん、度胸ないよねー」

「でもさあ、もし拓真君が法学部へ進学しなかったら香澄かすみお義姉さんがなんて言うかなあ」

「まあ、激怒するでしょうね」

「拓真君はどういう反応するかなあ!?」

「『お姉ちゃん、ゴメンナサイ!』とか言って土下座して謝るかもねー。たっくんなら百パーセント、こうなるよね」

「ううん、拓真君の事だから『俺はいつまでも姉貴のコピーじゃあねえぞ!』とか言って鞭を振り回すかもねー」

 藍はクールに笑いながら鞭を振り回す仕草をしたけど、それを見ていた南城先生は「あはははー」と軽く笑い、唯も半ば笑いながら同調した。

「さっすが『桜高の女王様』。アイの言うと説得力あるわねー」

「おいおい、さすがの俺でも、それが出来たら苦労しないぞ、ったくー」

「まあ、そこは私が毎日ビシッと指導してやるから、これで学年トップ10に入れなかったら拓真君は自主退学してもらうわよ!何なら毎日鞭でしごいてあげてもいいわよ」

「あー、たっくんは唯の方がいいよねー。唯が手取り足取り教えてあげるから、ぜーったいにトップ3になれるのは確実よ」

「あらあらー、早速姉妹で家庭教師の売り込み合戦ですかあ (^^)/ 」

「「「・・・・・ (^^ゞ 」」」

 いきなり南城先生が俺たち三人の会話に割り込んできたから、俺たち三人は苦笑いするしかなかった。でも、たしかに南城先生の言う通りで、傍から見てたら俺の家庭教師を巡って義理の姉妹で売り込み合戦をしているようにしか見えないぞ。しかも、唯は結構アブナイ発言もしてるぞ。お前、自分が言った言葉の意味を分かって発言してるのかあ!?多分、ここに南城先生がツッコミを入れたとしか思えないぞ!もしかしたら藍の奴も気付いたのかも・・・

「・・・まあ、たしかに昨年の学年1位と2位の二人が揃って家庭教師の売り込みをしているんだから、考えようによっては贅沢の極みね。拓真君がどっちを選んでも先生は構わないけど、と思うわよー」

 そう言うと南城先生はニヤリとしたけど、俺はその意味が分かって苦笑いするしかなかった。当然だが藍と唯も南城先生が言った意味が分かって二人とも赤面してるけど、俺は

 その南城先生だけど、さっきまでのニヤリとした表情から急に真面目な表情に変わった。

「・・・そうそう、拓真君、これは担任としての忠告だけど君の1年生の時の偏差値だと正直、君の第一志望は厳しいわよ。本気で第一志望を目指すなら、藍さんか唯さんのどちらかに家庭教師してもらわないと厳しいかもねー」

「せんせいー、俺だって分かってますよー」

「せいぜい頑張りなさい。先生からもう1つ忠告しておくけど、A組の中では昨年の学年総合順位でいけばブービーだから、相当頑張らないと三人の中で一人だけ予備校通いになるかもねー」

「ブービー?マジかよ」

「せんせー、たっくんの後ろって誰ですかあ?」

 俺はマジ顔で焦ってるけど、唯はいかにも呑気そうな顔で南城先生に話し掛けた。南城先生も呑気そうな顔で唯の方を見ながらニコッとした。

「あー、さすがにそれは言えませんよー。もしかしたらクラスのメンバーを見たら想像できるかもしれないけど、そこはナイショ」

「はああーーー・・・新学期を前にしてテンション下がるなあ、とほほ」

「たっくーん、後ろにまだ一人いるから落ち込む事ないよー。唯が手取り足取り教えてあげるから頑張ろうよー」

「拓真君!後ろに一人しかいないって事は情けないの極みよ!やっぱり私が鞭で拓真君の背中が真っ赤になるまで叩いて教え込むしかないわ!」

「はーー・・・後ろに一人いるだけマシなのか、それとも後ろに一人しかいないとボヤくべきなのか・・・」

 南城先生はさっきから笑いを堪えるのに必死になってるけど、俺には藍と唯のどちらにも家庭教師役を引き受けて欲しくないなあ。俺は本音ではノンビリした高校生活を望んでいたのだから、こんな事で争いに巻き込まれたくないぞ。というか、唯はともかく藍の奴、まさかとは思うけど本当に鞭を持ってるなどとアニメやドラマのような展開にはならないよな!?

 とりあえず俺たちが今日の学校でやらなければならない義務的な作業は終わった。ただ、上靴は置いて帰りたいから南城先生に新しい靴箱の位置を教えてもらって、そこに置いたら帰る事にした。南城先生から受け取った茶封筒は俺が持ってきた鞄に入れて・・・ようするに藍も唯も手ぶらで俺が荷物持ち・・・まあ、これは昔からの事だから別に気にしてないけど、俺たちは南城先生に挨拶をして職員室を出た。

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