雨合羽
カント
本編
この屋根無バス停では、晴天でも雨合羽を着る、とある青年が有名だった。
彼は濡れた。
通り雨。車で跳ねる水溜り。鳥の糞。打ち水。あらゆる不運が彼を濡らし、皆がそれを目撃した。雨合羽を常用する理由も、推し量れるというものだ。
ある日、僕がバス停に来ると、珍しく誰も居なかった。しかしその数分後、激しい通り雨が降ってきて、僕は慌てて折り畳み傘を――。
「雨合羽、使います?」
――突然だった。いつの間にか、隣に雨合羽の青年が居る。
「これなら濡れませんよ。使います?」
異様な寒気がして、僕は無言で首を振った。そして、逃げ出す。ずぶ濡れのまま。
青年の舌打ちが聞こえた。
雨合羽の青年を見なくなったのは、それ以降のことだ。
雨合羽 カント @drawingwriting
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