眠る小鳥は明日の夢をみない

楠木黒猫きな粉

眠るなら手を振って

いつも隣に誰かが居た。僕の隣には僕の知らない誰かが居た。

知らない人間と共に生きた。僕だってその人からすれば知らない誰かだ。その人は静かに言った。私は死なない、死ぬことが許されないんだ。この不死は罪だと語った。僕は聞いた。あなたは何を犯したんだと。その人は答えなかった。何度も何度も同じ話を語ったがその人は犯した者については何も語らなかった。誰でもない他人の問いには答えもしなかった。不死とは苦しみだ。永遠とは地獄だ。そう言う人もいる。けれど僕は思う。SFで語られるいくつもの不死は全てなにかを失って成り立っている。不死とは一方的な別れを永遠に続けなければならないのだ。

誰かは言った。クローンを作ればそれはその人物が永遠に生きる事とは考えられないかと。

僕はその問いに対して明確な答えを持っている。人生とは経験と自己満足の物語だ。故に自らのクローンを作ったところでそれは似た顔の偽物だ。永遠とは地獄だ。変わらないし変えられない。変わる事だけを望んで生きるのだ。きっとあの人の罪はそこにある。彼女は人を知ろうとしすぎたんだ。心を理解しようとした。それはどこまでも愚かな行為。だからこそあの人にこそ不死は罪になり得る。人を知ろうとするならば生を語らい死を恐怖しなければならない。不死故にその恐怖を知ることは出来ず、最後の出会いさえ見失う。

あの人には今日がない。昨日という過去を望んでいる。あの人に明日は来ない。今日という日すら見れていない。

不死の人は言った。共に眠るベッドで僕の手を握り言った。

「眠るなら手を握って」

僕は静かにその手を握った。

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眠る小鳥は明日の夢をみない 楠木黒猫きな粉 @sepuroeleven

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