誰かのために生きましょう

問題。一九七七年の発売から二〇一九年時点において、累計発行部数が二二八万部を突破した、輪廻転生を繰り返している一匹の猫が、やがて運命の相手と出会ったことで愛や悲しみを知っていく様を描いた佐野洋子作の絵本はなんでしょうか。
















 答えは、「100万回生きたねこ」です。

 ご存じの方も、そうでない方もいるかもしれません。

 何回死んでも生き返るオス猫が主人公です。

 生き死にを繰り返す主人公が一貫しているのは、自分が大好き、自分が大事ということです。

 あるメス猫と出会い、惹かれた主人公は、彼女と一緒になります。

 やがて子供が生まれます。

 子供達の成長を喜びつつ、自分にとって一番大事なのは子供達、そのメス猫の事が、自分よりも大事な存在になっていきました。

 幸せな生活の中、メス猫は衰え、死を迎えます。

 メス猫の横で泣き疲れた主人公は、そのまま死んでしまい、二度と生き返る事はなかった、というお話です。

 誰かを愛し、その誰かのために生きた事は、百万回自分のためだけに生きるよりも、はるかに価値があるということを伝えてくれています。

 

 自分のためだけに生きる人生とはなんなのか。

 この絵本でも語られているとおり、自分のためになるものはあまりにも多いです。

 百万というのは、数字的な意味よりも、とにかく無数にあるという意味合いにとらえてみるとわかりやすいでしょう。

 例えば、健康。

 健康になるために、ジムに行ったほうがいいかもしれないし、自転車に乗ったほうがいいかもしれない。食べ物もこだわったほうがいいかもしれない。飲み物も選んだほうがいいかもしれない。睡眠も考えたほうがいいかもしれない。音楽を聞いたほうがいいかもしれないし、楽しい気分であらねばならないかもしれない。そのために読書がいいのか、映画がいいのか、舞台か、コンサートか、ライブか、ゲームか、あるいはもっとアクティブなものにするべきか。

 大きな選択肢の先に細かな無数の選択肢が存在し、さらにその先にも限りなく選択肢が存在します。

 つまり、自分のために生きる人生は選択肢が多すぎて、選べない状態になっていくのです。

 メニューにかかれたたくさんのごちそうを前に目移りして迷ってしまい、なかなか決めきれないのと同じことです。


 考えすぎて迷い続け、選べない人生を送る人のなんと多いことでしょう。


 だから、年を取ってから「あんなことをやってみたかった」とか、「あそこに行ってみたかった」なんてことをぼやくのです。

 子供のとき、人生の選択肢はたくさんあります。

 それをするだけの時間と体力がありました。

 足らないのはお金や実現するための手段でしょう。

 大人になると、時間と体力は減りましたが、手段が増えていきます。

 ですが、いつまでもお金や健康、時間があるとは限りません。

 しかも私達は、百万回も繰り返して生きられません。

 人生は一度きりです。

 輪廻転生があるじゃないか?

 仮にあったとしても、記憶の継続がない以上、貴方の人生は一度きりです。

 異世界転生作品がいくらもてはやされようとも、誰も百万回も生きて死んでを繰り返すことはできないのです。

 一度きりの人生、だから迷います。

 過ぎていく時は止められない。

 だから、じっとしていられないのです。

 ですけれども、自分のためだけに生きるには選択肢が多すぎて動けなくなります。

 若さはどんどん失われ、残りの寿命も短くなっていきます。

 これは誰にも止められません。


 誰かのために生きる生き方は簡単です。

 何かのため、誰かのために頑張ればいいのです。

 家族のためならば、家族を守るために頑張ればいいのです。

 自分の友だちや周りの人たちが幸せであってほしいならば、そのために頑張るのです。

 わたしたちは、誰かや何かに従わなければ生きていけないのです。

 そんなの奴隷じゃないか、と思うかもしれません。

 家族の奴隷、親の奴隷、友達の奴隷、会社の奴隷、社会の奴隷などなど。

 それは見方や捉え方によります。

 大事なのは、正しい奴隷になることです。

 多くの人が連想するものは、正しくない奴隷だから嫌に思うのです。

 相手を喜ばすために貴方が不幸せになってはいけません。

 ありのままの素直な心で生き、誰かのため、何かのために貴方自身がんばれる場所が必ずあるはずです。

 見つけるのは貴方です。


 それでも見つからないと言うのでしたら、もう一人の自分のために生きましょう。

 貴方の中にはもう一人、子供のあなたが存在します。

 貴方は、子供のあなたの親です。

 子供のあなたを喜ばせるために、大人である貴方は生きるのです。

 自分が自分を喜ばせる。

 一見、自分のためだけに生きているように思えますが、違います。

 子供のあなたは、良心です。

 良心が、誰かのためになにかしたいと望むなら、親である貴方は手を抜かず行わなくてはいけません。

 あなたの良心に従ってみてください。

 


 

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