第7話

四階層

何もなく何もいない

ただ無限に広がる白の世界があるだけで誰もおらず何も存在しない

何処を歩いているのか分からない程に白く高さがどれくらいあるかも分からないほど白い

ただ白い世界が続いている


「これが最下層」


血蜥蜴が通った道は四階層に続く道でありボス部屋は最下層全てなのだろう

小型魔物の巣、中型魔物の巣と脅威となる怪物、花畑が広がり石の怪物と過去を見せ絶望を見せる触手の怪物、そして全てが白に染まった世界……意味が分からない

私は今までのことを思い出し違和感を感じる

なぜギルド長達は三階層で辞めた? あの怪物に勝てなかったから? ランクAと言っているなら多分対峙はした筈、勝てなかったからおおよそで言った? 他にここに辿り着いた人は? アナスタシアさんの正体は一体誰? 怪物を突破する方法を知りながらここには来なかった? アナスタシアさんは何故怪物の突破法を知っている? ギルド長は何故ここが特訓にいいと言った? ここは何のためのダンジョン? ……この白い世界には何がある?

歩い続けるが何もなく後ろを見ても来た道すら無くなっている


……閉じ込められた? やれやれ、面倒なのは嫌いなんだけど


闇蛇を召喚してデタラメに暴れさせる

魔力を薄く広げて索敵範囲を最大まで伸ばす

数十キロに及ぶ索敵範囲ですら先に来ていた血蜥蜴以外は見つからない

血蜥蜴を手元に戻してから闇蛇を消して自分の周りに盾を6つ作り指を鳴らす

広範囲の低威力爆発が起きる

一つの小さな魔力の塊を暴発させる事で誘爆させる

爆発音が数分間続くと突如何かに遮られたかのように静寂が訪れる

盾を解除して周りを見渡すが誰も居ない


……今、爆発が断たれた。表現がそれであってるか分からないけど……何!


背後から背中を軽く叩かれる

闇蛇を出して振り返ると同時に攻撃するがそこには誰もいない


「ばぁ」


背後から声が聞こえ距離を取りつつ間髪を入れずに血の剣を投げる

誰にも当たらずに地面に突き刺さる


「なっ! 出て来い」

「攻撃しないなら出てあげよう」


……嘘かそれとも事実か。……どちらにせよこのままだと埒があかない。言う通りにしよう


「分かった。攻撃しない」


攻撃の意思がない事を伝えるために両手を上げる

闇蛇には待機してもらう

そうすると突然目の前に少女が現れる


「貴女が最下層のボス?」

「そうだよ。私は魔獣の洞窟最下層のボス、リア・リーラ・フィルドよ」


……看板の主のアナスタシアとは別人か


てっきりここのボスがアナスタシアさんだと考えていたが全くの別人だった

いやむしろ人型である事に驚きを隠せない


「私以外来た人は?」

「居ないよ。一度としてここに来たものは居ない。君が初めて」


私の質問にしっかりと答えてくれる


……他の誰もなぜここに来なかった?


「私が初めてね、それよりここはどう言う目的が作られたの?」

「まず一階層は基礎能力、二階層は圧倒的な戦闘能力、三階層は精神力、そしてここ最下層は総合能力となっております!」


リアはノリノリで説明し始める

初めての来訪者に喜びを隠せない様子で見た目よりも少し若い雰囲気がある


「その言い方だと訓練場って事?」

「そうだよ。ここは訓練場、そしてここに来た最初のお客様には私と戦い勝ってもらいます。何時間、何日、何ヶ月何年と掛かろうと勝たない限り脱出は出来ません! これがここの最終試練、古き英雄との戦闘」


突然楽しそうにしていたリアが凍り付くような冷たい声を発する

身体が凍ったのような錯覚に陥る


……古き英雄? 彼女が古き英雄で倒さない限りここからは出られない!?


「今は3日目で1週間程度で地上に戻りたいのだけど」


恐る恐る手を上げて伝えるとニコッと笑いいかにもこれが簡単かのように答える


「私に勝てれば良いよ。勝てなかったら一生ここにいる事になるから気をつけてね。挑戦は何度受けるよ」

「貴女は人間?」

「元人間だよ。まぁ、そうは言っても不老で長生きなだけで他は人間と大差ないけど」


……人なら吸血鬼よりは基礎能力では弱い。相手が英雄とは言えど化け物じみた力は持たない筈


相手が人間だとわかり安堵したところに不意をつくように淡々とリアは語る


「そうだ、言い忘れたね。私は英雄であり生まれて此の方こと戦闘においては一度として敗北を経験していない。それに数国を滅ぼし人類や他種族にも恐れられ高位種族にも劣らぬ力を持つよ。甘い考えは今ここで捨てておくことをお勧めするよ吸血鬼ちゃん、それとも甘い考えを持ったまま無様に死を晒す?」

「ひっ、あっ……」


体が震え上がり膝をつく

立っていられないほどの威圧を味わう

英雄と謳われた人を相手についこないだまで命のやり取りをしていなかった私が現状勝てる手段は無い

彼女を恐れ恐怖を覚える

人生の中でこの日の出来事を忘れる事は絶対にないだろう


……無理無理無理、勝てるわけがない。あれが人間?


シエルやギルド長たちが生きている間にはもう地上に戻れないだろうと覚悟する

ふと涙をこぼす

この涙は地上に戻れない事にではない

リア・リーラ・フィルドという圧倒的な力を持つ人物を相手に勝てないと悟ったからである

そんな私に追い打ちをかける


「追い討ちをかけるようで悪いけどこの世界は死という概念は存在しない。君がどれだけ死にかけようと絶対に死ぬ事はないから本当に一生ここにいる事になるよ」


私は逃げようともできずそこに座り込む

しばらく座り込んだままで放心状態になっていたらはぁーとため息をつきリアが言う


「友に会いたいなどがあるなら心配ないよ。この世界は時間の概念が無い。ここは永久的に時間が止まった世界、ここから出ることができたらだけどここで体感何百年と経ってもあちらでは数秒と経たない」


……永久的に時の止まった世界? なら何故彼女は?


「私がいるのは数百年前だよ。この世界自体がそのくらい前の物でね。君が来たことで時間が漸く動いて君の時間と噛み合わさった。要するに人が来れば世界の時が動く、外に出る時は誰か1人の時間軸で出る事になる。まぁ、1人ずつ元の時間に送ればどんなに時間差があっても関係無いけど」


リアは心を読んだかのように詳しい説明をする

少し経って涙を拭き戦闘を始める

闇蛇を出して警戒しながら準備をする

準備が終わり戦闘を始めようと一歩前に出た時に胴体を真っ二つに切断された


……へっ?


見えない斬撃によって斬られていた

何が起きたか全く理解が出来ない

見えないほど早いのかそもそも見えないような物なのかもはっきりとしない

数時間ほど経過して分かったことは先ほどまでの敵など彼女にとっては暇潰しにもならないと言うことである

闇蛇は半径1メートル内に入ることが許されず全速力で接近しても結構な距離を取っても見えない斬撃で斬り刻まれる

今現在100試合全敗、死んだ数100回 全て一瞬のうちに殺されていた

痛みすら感じる暇なく斬られ気付いた時には再生していた

真正面からも挟み撃ちも不意打ちも悉く打ち破られた


「弱いねぇ〜、ここは総合戦闘能力……一つでも弱点があれば私には勝てない。まぁ、君の場合は全てが等しく高い代わりに飛び抜けて強い物がない。それも問題だね」


肉体的には疲れてはいないが精神的に疲れ寝転がっている


……いやいや、そう言う問題じゃないでしょこれ


「今日はこれで終わりにする?」

「いや、やる……てか肉体的に疲れないからぶっ続けでやろうか」


血の盾を作り立ち上がる

魔力で盾を作りつつ視覚内、視覚外の同時11箇所からの攻撃を試みるが血の盾ごと腕を斬られる


……範囲型攻撃? 居合のような間合いを取る戦い方……完全に一定の間合いで攻撃が行われているけど彼女は動いていない。魔法? 自動反撃型の魔法でも独自に編み出したのかな?


距離を取りブラックシールドを三重に作りつつ盾でリアを視覚を塞ぐ

腕が回復するのを待ち攻撃準備をする


「擬似闇魔法 ブラックダウン!」


魔力を手に集めて地面を殴る

魔力の範囲を広げ敵を無力化する為のあの技を使う

一度しか使用していないのは魔力の量に応じて範囲などが決まる為かなりの量を消費するからである

魔法を使った後すぐに攻撃を畳み込む

歌が聞こえた時には斬り刻まれていた


……音か


倒れ再生を待つ

闇蛇も盾もそこにあったすべてのものが切られていた

音を操る力であるなら対処する方法自体はあるが見えない斬撃が音であったのなら何かしら聞こえていたはずだが完全に無音だった


……音だけじゃない別の何かを持ってる


再生して立ち上がり戦闘を繰り返す

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る