第6話

3日目

未だに二階層のまま2日目を終えていた

長い時間眠り体力回復して目を覚ます

眠気が取れず小さくあくびをして背伸びをする

洞窟内に軽く風が吹きようやく重要な事に気づく

軽く吹いた風は直接私の肌に触れる

風が当たるはずのない場所に風が当たりようやく理解する


「ひっ……えっ? 嘘でしょ?」


魔力で生成した闇を体には纏う

未完成な魔法な為黒い靄で身体を隠しているだけで防御力は市販されている鉄装備の方が高い

顔が真っ赤になり記憶を探る

一体いつどこで服が無くなったのかと言うのを探して怪物から逃げた時に服を掴まれたことを思い出す


……あの時からずっと? 痛みで全然気付かなかった


「寒い理由が分かった……人いなくて良かった


蛇を引き連れてボス部屋へ行き目的物を奪還を試みる


……ちょっと返してもらうよ。ついでに八つ当たりで死んでもらおう


「今こそ闇が姿を現わす時、全てを飲み込み給え! 我が敵を食いて前へ 闇魔法 展開起動、さぁ、諸君恐れて……姿を現せ闇蛇」


詠唱をして蛇を呼び出す

数は10体になり怪物と対峙する

闇蛇には意思があり敵と認識した生物が死に至るその時まで襲い続ける習性を手にした

怪物がこちらに気づき大剣を構えようとするがそれよりも早く二体の闇蛇が突撃して大剣を持った腕を食い千切り残りで間髪入れずに仕掛ける

前回戦では圧倒していた怪物も数が増え強さが何倍にも跳ね上がった闇蛇相手に防戦一方である

大剣を振るうも闇蛇の防御を越えることができない


「やっぱり治癒能力あったみたいね。これなら考え通り常識を捨てよう」


怪物はみるみると傷が治っていくがそれでも不死身の闇蛇に押される

怪物は振り払い大剣を握りこちらに突っ込んでくる

闇蛇に命令を出して攻撃をやめさせる


「一点集中」


残りの魔力を全て右手に込めて構える

息を吐き肺の中から空気を出す

脱力して力を抜いて構えを解く

構えに意味はなかったが強いて言うなら一点集中のために行っただけである

微妙に構えた方が集中しやすかったのだ


「……感謝しよう、私は君のお陰で強くなれた。これはそんな君に現在最大の一撃を使おう、また合間見え戦えることを心より待っているよ」


怪物、ゴブリンキングに嘘偽りのない感謝を伝える

ゴブリンキングにその言葉の意味が届いていたかは定かでは無いがゴブリンキングはそれに答えるかのように全力を込めて振りかぶった大剣を振り下ろす

闇蛇がその一瞬を目撃する

命令によって行動を止めてからずっとゴブリンキングと主の少女を見ていた

ピクリとも動かずに結末を待つ


大剣と私の手刀がぶつかり一瞬で勝負がつく

大剣は砕けゴブリンキングの胴体は真っ二つに斬られ倒れる

ゴブリンキングの治癒能力では回復出来ず倒れたまま絶命する

私は服を回収して身につけて鎧を消す

蛇を4体に戻す


「これは貰い物だから返してもらうよ」


血の地図を見て三階層に向かう

部屋の奥にあった下に続く道を進む

結構下に降り数十分経ちようやく着く

三階層に広がる景色を見て目を見開く

綺麗な花が咲き誇り辺り一帯が花畑である


「綺麗な景色……ここが三階層なのか?」


近づき花に触る

感触は普通の花と同じで特に毒が撒かれているような感じもなくただ花が咲いているだけに見える


「ここがランクAエリアの筈、この先かな?」


少し進むと曲がり角で5メートルはある石の怪物とばったり出会う

しばらく静寂が訪れ少し経った時に状況を理解して闇蛇を前に出して戦闘を始める

闇蛇はすでに臨戦態勢に入っていた為攻撃を入れる

石を軽々と噛み砕き石の怪物を倒す

先程の怪物に比べれば結構楽であった


……あいつがAランクのように感じるのだけどもあれよりも強い敵がいるって事だよね?


地図を見ながら全方位蛇に警戒させて前へ進む

地図は三階層全体をもう記していた

休んでいたうちにも血蜥蜴は仕事を全うしていたらしい

血蜥蜴は今は更に先に行き四階層に潜っている

いつのまにか蜥蜴は一体なっていた

ふと考える吸血鬼には食事という概念が存在するのかと……血を吸う怪物である筈だが今まで血を一度も飲んではいない

睡眠だけで他の欲求を満たしているのか、それとも別の何かでもう満たしているのかイマイチ分かっていない

この身体で生活していくことを考えれば後々重要になってくる


……今はまだ良いか。魔物がいないな。先程の魔物以外は何も居ない


しばらく探索するが魔物の姿が見つからない

そのまま進み三階層の一番奥まで問題なく進む

部屋の前に看板が立っていた

『ここから先は更に死を覚悟して臨む事、それが出来ぬなら進むことはお勧めできない。この先は生半可な覚悟で突破できる程甘くはない。絶望に打ち勝つ時、君に勝利が与えられるだろう。健闘を祈る アナスタシア』と書かれていた

アナスタシアとはこれを書いた人の名前であろう

考えられるにギルド長のメンバーかそれ以外にもここに来た人がいたのだろう


「ここに来た者たちの中には当然あいつに勝っている者も居るはず……ランクAの敵か。行ってみるかな」


看板の横を通って歩を進める

しばらく暗闇を通り突然光に照らされる

思わず目をつぶり段々慣れてきたから目を開けると怪物がいた

数十メートルにも及ぶ図体に数十数百にも及ぶ触手で本体が隠れているのかと思うほど触手以外何も見えない

こちらを気づいたのか触手で攻撃を仕掛けてくる

闇蛇で対抗する

触手を噛みちぎり闇蛇は突っ込んでいく

大量の触手相手に健闘するが相手の恐ろしい程の治癒能力が闇蛇の攻撃を上回る

闇蛇を10体に増やして血の剣を作り戦闘に参加する

触手に乗り走って本体の方へ向かう

次々と攻撃してくる触手を剣で斬り裂きながら前へ進む


「はぁ!」


本体まで近づいて本体のあるであろう場所に剣を突き立てる

触手を貫通して硬くはない本体に簡単に剣が刺さるが手応えがない

もう一本作り何度も斬りかかる


……何これ豆腐でも切っている感じがして終わりがない


「ひっ!」


底の見えぬ恐怖が私を襲い咄嗟に闇蛇の上に乗り距離を取る


……はぁはぁ、何あれ……あれってまさか邪神様かな? ここを血蜥蜴はどうやって突破したよ


仕事を全うしている血蜥蜴のことを考える

ゴブリンキングの時も問題なく突破しているあの蜥蜴はステルススキルでも持っているのだろうか?


「……ラチがあかない……変に深読みして良いかな?」


看板に書かれていたことを思い出して深読みする


……更に死を覚悟して臨む事、生半可な覚悟では突破が出来ない……甘くはない。絶望に打ち勝つ、更に死を覚悟? まるで死ぬ事前提みたいな言い方だよね? 気のせいだよね?


私は一つの仮説を立てる

それは単純であり先ほど感じた恐怖に打ち勝つ

その方法はミスをすれば精神がやられ事実上の死を迎える事になる

更に死を覚悟と言うのは物理的な死ではなく精神的な死を覚悟しろと言う意味なのかも知れない

絶望とは底見えぬ恐怖のことを指すとするなら仮説は強ち間違い間違えではないだろう

相当の覚悟を持たねば突破は不可能


「絶望か……どんな絶望だろう。気になるなぁ」


闇蛇が怪物の上に来た時、意を決して飛び降りる

剣を怪物に突き刺す

すると私を飲み込むかのように触手が私を囲む

突如剣が消え落ちていく


……落下!?


驚いたが真っ黒な世界に落ちているで底が見えない

見覚えのある景色が映る

前のいつもの日常を過ごしていたあの時の記憶だった


「そういえばあの日って妹の誕生日だった」


通り魔に刺された日は妹の誕生日でありいつもより少し早目に帰っていた

刺される少し前にメールのやり取りをしていたことを思い出す

景色は変わり別の記憶に変わる


「……! 思い出した、あいつはあの時の!」


通り魔について見覚えがある程度であったが記憶を見せられ完全に思い出す

あの男は一種のストーカーであった

妹はストーカー被害を受けており困っていたという話を聞きストーカーを捕らえるために警察と協力して作戦を考え実行していた

それは成功し犯人は捕まった


「邪魔をするな」


ただ一言、その男から言われた事であった

その時何も返さずに無視をしていたが数日間は何故か脳に残っていた

色々とやっていたようで刑務所に入れられていたが1日前に反省しているように感じ刑期も終えたので釈放されたと警察から話があった

その時は「よかった。彼は更生したんだな」とホッとしていたが翌日にその男に殺された事に気付き今更ながら馬鹿だったなと思う

その後もう一度変わり見覚えのない景色に変わる

いや、見覚えはあった何故ならそこは住んでいた家なのだから……しかし、真っ赤に染め上げられ倒れる父や母、親戚の姿があった


「な、なんなんだよ。これは……」


あの男の仕業だと直感的に気づく

怒りが湧き上がると同時に一つ気づく

先ほどまでの記憶はぼやけており記憶をたどっているだけであったが今回はその状況から何も変わらない


「……これは今の状況かな?全く粋な計らいをするものだね! 闇よ、三千世界に通じよ!」


怪物の中で行われている絶望の記録に魔力を流し込む

妹の姿が見えない事からして多分まだ帰ってきていない

時間は4時、もう少しで帰ってくる

それまでに奴を殺す

男を探し出して剣を一本作り出す

男は妹の部屋にいた

物を物色しているようで隙だらけである

闇で作られた黒い剣が男に突き刺さり一瞬のうちに絶命する


……闇魔法 異世界移動、魔力の塊を一度だけ入れることが出来る。条件も揃わないと使えない


新しい魔法を作り出すが条件が難しくもう使うことはないだろう

絶望がこれと言うのなら少し退屈なので無理やり抜け出そうと考える


「これなら確か……ゲイボルグの棘」


黒い棘を出す事で内部から怪物を貫く

棘は消えずにそのまま怪物を突き刺し続ける

棘を通り脱出を果たす

怪物を無視して四階層に向かう


……何階層あるんだろう? 明日で折り返しに入る。帰る時間を考えて1日は余裕が欲しいから急ごう


下に続く道を進み四階層を目指す

血蜥蜴が目撃した情報によって四階層が最後である事がわかった

様々な道を通りボス部屋に着いた血蜥蜴が見た物は地図に書かれている程度の情報ではよく分からなかった


3日目 魔獣の洞窟、最下層

ランク??


蜥蜴の存在に気づいたボスは笑みをこぼす


「漸く最下層まで」

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