第3話

受付の女性との話をし終えシエルが戻ってくる


「戻ってきたね。どうだった?」

「今ギルド長は外に出ているようです」

「そう、他には何か無いの?」

「一定以上の魔力があるならこれを使えます」


シエルが小さな宝石を取り出し手渡してくる

見た感じただの宝石のように見える


「宝石?」

「魔力を貯める宝石です。小さいですが緊急時に役に立ってくれます。弱点としては色で魔力のタイプが分かってしまう点です」

「成る程……試してみよう。魔力と言うのは身体中を巡っている気体のようなもので間違いないか?」

「はい、大体合ってます」


目を閉じて魔力を宝石に集めるイメージで行うと宝石が光り砕け散る

砕けた音を聞き目を開けると手元には宝石の残骸が残されていた


「すまない! 壊してしまった。これは弁償出来るものなのか?」


残骸を見てすぐにシエルに謝る


「大丈夫です、それは市販されているものなので少し値は張りますが探せば見つかります」

「お礼として貰った金がある。こちらがその分の金は全額負担しよう。足りないなら依頼で稼ごう」


シアからもらった袋を取り出す


「いえ、大丈夫です」

「いや、払う。これは他人のものを壊したのだから当然の義務」

「……金貨2枚です」


申し訳そうに答える


……金貨2枚か、貰った分で足りるな。銀貨と金貨の値段が日本円でどれくらいか分かれば大体どのくらいか分かるのだが


袋から金貨を2枚取り出して渡す


「そういえば色はどうだった?」

「色は黒でした。闇魔法で間違いありません」

「闇魔法……使っている人が少ないとなると魔法の使い方がいまいち分からない。実に困る」

「そうですね。今同じ闇魔法使いは居ません」


……高寿命の種族か長生きしている人物に会いたいな、少なくとも長生きなら闇魔法を知っている筈


「長生きしている人かそう言う高寿命の種族っている?」

「エルフとかは高寿命です。他にはギルド長が200年は生きてます」

「ギルド長は人間じゃなかったんだ……ドワーフ?」

「はい、ドワーフです。ドワーフと聞いても長生きするイメージはないでしょうがドワーフ自体は凄く長生きです」


……何かしらの要因で早く死ぬ者が増えていたのかな? 尚更ギルド長に話聞かないと、依頼受けよう


「依頼受けたい、依頼自体は受ける事可能?」

「冒険者になれば可能です。えっと年齢は?」

「……18歳」

「私よりは年上ですね。大丈夫です受けれます」


……シエルは16くらいか。若いなぁ……前からだが感覚が年寄りになりかけている。何故だろう?


受付に行き冒険者の手続きを受ける


「新規ですね。唾液か血でこの紙を濡らしてください」

「分かった」


ふと気になり隣にいた冒険者を見る

自分で持ってきたナイフで手を切り血を流して紙を濡らしていた


……かなりナイフが奥に入ったな。あれは中々痛いぞ


手が震えておりナイフが思っていたより深く入っているようで表情は痛いのを我慢しているようであった

それを見て紙を舐めて濡らす


「これで良い?」

「構いません。ではお名前を」

「シャルレーダ・ベネリリス」

「シャルレーダ・ベネリリスさんですね。登録完了しました。ランクはFから始まります」


冒険者カードを渡される


「依頼を受けたいのだけどFはどの依頼が受けれる?」

「ゴブリン数体か、リザーウルフの討伐、他には採取依頼です。護衛や集団戦闘は最低でもDランクないと受けれません」

「では、リザーウルフの討伐をやりたい」

「丁度あります。リザーウルフ4体の討伐で報酬は銀貨4枚、出現場所は古東の草原です」

「分かった」


依頼書を見て場所を確認しギルドを出る

シエルも付いてきていた


「パーティは?」

「解散しました。これ以上はやっていけないだろうと」

「成る程、これやる?」

「いえ、ただ戦闘を見たいと思っていただけなので」


城壁を抜け森を通らずに東に進む

全力で走ればシエルを置いていくので歩いていく


「武器は使わないんですか? ゴブリンの頭を手刀で切ってましたが」

「武器か……出来れば欲しいけど吸血鬼の身体能力で振り回すとすぐにダメになりそう」

「そうですね。人離れした力で振るうことを想定していないので」


……なら特注で作るかそれとも自分で作るかだよね?


雑談を交わしながら歩く事1時間で目的地に着く


「リザーウルフは危険性が高い狼で比較的に凶暴なので気をつけてください」

「凶暴でも……」


リザーウルフに気づかれる前に高速で接近して首を切り落とす

他のリザーウルフが気付き臨戦態勢に入る


……魔力を一点に集中して擬似魔法を作ってみるか


魔力を両手に集める

リザーウルフの一体が本能で気付き狼特有の声で仲間に呼びかける


『このままでは成すすべなく全滅する』


相手が人ではなく人の姿をした別種の高位存在である事を理解する

雄の狼たちは声に気付き唸りながら距離を取りつつ私を中心に円を作り囲みその隙に雌や子供の狼はこの場を離れる

その場にいたシエルを完全に無視して危険な1人に狼たちは集中する

狼たちは一斉に咆哮を使い全方位から音での攻撃をして集中を遮ろうとする


……ぐっ、魔力が乱れる


一点に集めた魔力が乱れ戻っていく

今の状況で再び集めるには相当の時間を要する為諦める


リザーウルフは決して強い訳ではない

むしろ魔物の中では弱い類に属するがFランク冒険者でも数人がかりになり凶暴ゆえの危険性が高い

今までどんな人が来ようとここまですることは無かった

勇者が来ようと種の絶滅を感じる事は無かった

逃げ足が速い為魔法を使おうと人が追いつく事はほぼ無かったからである

今回ばかりは仕方がない、相手はいつも来ているような人間ではない

『吸血鬼』と呼ばれるこの世界に存在する種の中でも高位存在に指定される程の化け物だからだ

見た目は幼い少女でもその内に秘める力は人を軽く超える


……あと3体で良いのだけど、これはどうだろうな。全力で行かせてもらう


魔力を一点に集めて振り下ろす

地面に手を叩きつけ魔力を一帯に広げる

黒い煙のような物が半径十数メートル広がりリザーウルフの足元を黒く染める


「擬似闇魔法 ブラックダウン」


黒い煙に包まれリザーウルフはバタバタと倒れていく


……魔力はあるけど集中力が足りないなぁ、練習すればもう少し節約出来て時間短縮も可能


リザーウルフ3体を殺し証拠となる角を切り取る


「終わった。行こう」

「他は?」

「殺す必要はない、無駄に殺すのは好きじゃない。ただ眠っているだけ」


回収した角をシエルに渡してギルドに戻る為帰路をたどる

シエルが自分の持つ袋に入れる

収納袋は大きさは小さいが入る量は多く冒険者の殆どが愛用している


「闇魔法ですか?」

「あれは擬似魔法、知識にある魔法の考え方を少し利用しただけ、あれは魔力を地面に流して範囲内にいる周囲の敵を無力化するだけで殺傷能力はない。魔力の分だけ範囲を広げることができる」


先ほどの魔法について説明する


「詠唱をする事で魔力の節約が出来ます。最近では詠唱は邪道とされてますが元々人が使える魔法ではない物を使う為に生み出された方法です」

「そう言う事か、使い方さえ上手ければ問題ないか……詠唱を組み合わせることも考えておこう」


……出来れば短くそして詠唱効果が最大に伴うものかな、それよりあの狼達はどうするかな?


後ろを見るともう何体か起き上がっている

よろよろとしているが仲間の死体の側に行き吠える


「……依頼は完了、だけどリザーウルフは当分ここには戻ってこないよ」

「どうしてですか?」

「種の絶滅は避けるべき事だからね。人だって絶滅するまで戦争はしないでしょ?」

「そりゃ、しませんよ……他の生物もと言う事ですか?」

「全生物共通だと思うけど、そうだよ」


……敵討ちに来るかそれとも……何にしろ。住んでいる場所が街から離れた場所で良かった


また1時間かけてギルドに戻り依頼完了を伝える


「お疲れ様です。報酬はこちらになります」


袋を渡され報酬を確認する

しっかりと入っていたので回収する


「あっ、そうだ。リザーウルフは多分あの草原に当分戻らない。遠くに行ったと思う」

「……? 分かりました。調査して見ます」

「多分だから詳しい事は分からない」


そう言って掲示板の方へ行くとシエルとシアが話していた


「おや、吸血鬼ちゃんどうしたのかな?」

「吸血鬼の危険度は?」

「Ssランクだよ。リザーウルフ倒したんだね。闇魔法を使って」


シアは闇魔法に興味津々なご様子


「……その魔法について知りたい。闇魔法について何か知ってる?」

「詳しいことはわからない。見た事はあったけど彼が闇魔法について語ったところを見た事ないから……彼は若くして戦死したからもう聞けないし」


彼と言うのが闇魔法を使っていた人であるだろうがもう亡くなっているらしいので話を聞くことが出来ない


「……当てがない。これだと魔法について研究かな? 武器作成技術も必要だしやる事多いなぁ」

「武器作成技術なら教えてあげよっか? ドワーフはそう言う種族だからね」


ハンマーを置き短剣を見せてくる

綺麗な短剣で素人が作れるようなものではないと一目でわかる


「シアが作った?」

「そうだよ。君はどの武器が作りたい?」


……どの武器だろう、基本的な剣か槍、弓など飛び道具も良いけど……銃を作りたいな、素材が難しそうだけど、弾は魔力弾を使用すればいいしフルオート、セミオート、バーストの切り替えが出来るのが良いな。銃剣を付ければ近接も可能だし人離れした身体能力なら多少の重量でも問題ない、まずは耐久性と精度に力を注ぎたいな。近中遠全てを戦闘範囲に置ければ緊急時も戦える。魔法があるから射程などは後にしてハンドガンタイプなら持ち易いし隠しやすい。この身体だと大きいのは使いづらそうだし……


真剣に考えている私を見て邪魔をしないように2人は話し始める


……問題は技術がない、俺としてもそこまでの知識はないから独自で研究して異世界用に作り変えるか……たとえドワーフの力を借りたとしても2年いや3年はかかる


「決まった?」

「銃と呼ばれる武器を作りたいのだけど、この世界にないよね?」

「銃?聞いた事ないよ。どんな武器?」


2人とも首を傾げている


……そりゃ無いからね


「銃は鉛玉を飛ばす武器で弓の代わりを務めることが出来る、弓のように毒を塗るなどはできないけど亜音速で飛ばせて物によっては隠せる便利は武器」

「へぇ、凄いね。作れる技術は?」

「半分近くを魔法で代用する、形だけを模倣して調整する。弾も魔力弾を作れば素材の節約、および弾切れが無くなる」


弓も強いけど銃は真正面からの戦闘では扱えれば強い


「少ない魔力で殺傷力の高い武器を使えるのね。問題はいくつかありそうだけど面白そうね。素材は?」

「魔力に耐えられるように耐久性や魔力の流れをスムーズにするために魔力が通りやすい素材を使いたい、ある?」


必要な素材を聞くとシアは一つの答えにたどり着く


「……ドラゴン種だね。危険度は下位のドラゴンですらAランク及ぶ……どうする?」

「狩るしかない。そこは私が責任持ってやるから気にしないで」

「勝てるのかい?」


シアは心配そうに聞いてくる


「さぁ? でもやらないと進まない。素材でオススメなドラゴンはどれ?」

「そうだね、地龍種の一体 ガルガロラスだろうね。ドラゴン種は平均的に魔力が高い。そしてその中でも耐久性ではガルガロラスが一番高い。当然狩る時も大変だよ」


……防御力が高いドラゴンが骨が折れそう。しばらく闇魔法の練習をしてから狩りに行こう


「それならしばらく闇魔法の研究をしてから行くとしよう。少しは準備をしておいた方がいいから」

「そのドラゴンはSランク、勇者ですら倒せるか分からないレベルで前に戦闘して押しきれなかったらしいよ」

「勇者か……少なくともその人を超えないと行けないのか」


人の中でも最高クラスの実力を持つ勇者とそのパーティはドラゴン種と何度か戦い引き分けているらしい


「まぁ、なんとかなるでしょ。ダンジョン潜りたい」


戦いで経験を積みたいのでお手軽ダンジョンがないか聞いてみる


「近くにあるよ。ランクAのダンジョンが行くかい? 短時間成長ならそこがオススメ、でもミスをすれば死ぬ。ただ数日でも生き残れば間違いなく何処かしらは成長している筈」


真剣な表情で私に伝えるが私は笑って答える


「吸血鬼だから死ぬ可能性はほぼない。それに修練には時間より経験だから1週間くらい潜ろうかな。場所教えて?」

「内部地図を渡すよ。シエル、入り口まで案内してあげて、無事を祈るよ」

「分かりました。案内します」


地図を貰いダンジョンに向かう

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