12.反逆者の少女2
タニャーシャによって連れてこられたのは、小さな孤児院のような場所だった。中では私より小さな子供たちが元気に走り回っていたり、私と同じぐ来の子供が炊事洗濯などを行っていたりした。本当に、いたって普通の場所だった。正直に言って、私が生まれた環境よりもずっといい場所。私もこういうところに生まれたかったと少しだけ羨ましく思った。
別にお母さんの元に生まれたことが不幸だとは一度も思ったことはない。けど、環境を変えようと思えばいくらでもやりようがあったのかなと、今更ながら思う。
そうしていれば、お母さんも死なず、今でも一緒に暮らせていたのかもしれないのに。
そう物思いに更けていると、タニャーシャに心配そうな声をかけられる。
「なんかその、大丈夫」
「大丈夫、問題ない、たぶん」
「多分って何よ。まあいいわ。よかったら上がってよ。子供たちも喜ぶから」
「なんでここに私を連れて来たの?」
「だってこの村には観光で魅せられる場所なんて何もないし、あなたみたいな子供が来る理由なんてちょっとしかないわ。孤児院に新しく入る子供か、新しく入る職員課。ほかには……」
「ほかには何かあるの?」
「生贄とか? ああ、ごめんね、冗談冗談。ほかに考えられる理由は……えっと、ヒミツ、かな?」
「生贄って何っ! この村何かあるのっ」
「神隠しぐらいしか起きてないから。でも大丈夫、私がちゃんと守ってあげるからねっ」
そう言われてもなー、と思ってしまう。これってある意味で拉致じゃないかな。私としてはとてもターゲットに容易に近づけるから別にいいんだけど。
孤児院の敷地内に入ると、タニャーシャの帰宅に気が付いたちびっこたちがわーっと一斉に押し寄せて来た。
そんな子供らをタニャーシャは優しく受け止める。
「お帰り~」
「どこ行ってたの」
「お土産は?」
「あそぼあそぼー」
いっぺんにいろんなことを言ってくる子供たちを笑いながら一人ひとり相手にしている。そこには家族の絆を超えた何かがあるように見えた。私とお母さんが手にいれたくても手に入れられなかった何かが……。
「こらみんな、今日はお客さんが来てるのよ、えっと、名前は……」
「ハクレイです」
「そういえば、自己紹介がまだだったね。私はタニャーシャ。よろしくね」
心の中で「あ」っと思った。名前、言っちゃダメじゃん。教官が出来るだけ証拠を残さずにやることが大切だと言ってた気がする。名前って、それだけですごい情報になるんじゃないだろうか。思わず行ってしまったことに後悔したのだが、「ハクねぇ~」と言いながら近寄ってくる子供を見てほっこりと感じた。こんな子供に信頼されていて、周りに笑顔を振りまける人が、国を脅かす組織と通じているなんて……私には考えられない。
きっと何かしらの事情があるはずだと思った。少し様子を見てみよう。それぐらいは許されるはずだ。宿代ないけど、どこに寝泊まりすればいいのか分からないけど。
私の複雑な心境を見透かしたのか、タニャーシャはクスっと笑いながら「今日はお泊りする?」と聞いてきた。
こういう時、どうすればいいのだろうと考えたけど、よく分からなかった。だって教官に教えてもらってないし。数秒ほど考えて、諦めた。とりあえず、泊めてもらうことにする。
もしかしたら、タニャーシャに関する情報が間違っているのかもしれない。もしそうなら、この優しいお姉さんを殺さなくていい。時間はそんなにないけど、もしタニャーシャの無実を証明することができるのであれば、きっと教官も納得してくれるだろう。
首元に手をやると、教官から渡されたチョーカーに触れた。もしかしたら今の会話なども全て聞かれているのかもしれない。これにどのような性能があるのか分からないけど、私の行動はそんな減点されるようなものじゃないだろうと信じたい。
私は申し訳なさそうに「お願いします」と返答し、ここに泊めてもらうことになった。
「さあ皆、このお姉ちゃんが遊んでくれるって」
「ちょっと、何を言ってるの!」
突然の言葉。子供たちが私に押し寄せて来た。子供と言っても私と大差ないけど。でも「おねえちゃんあそぼー」と言われるのは悪くない。ちょっとだけ口元が緩んだ気がした。
しばらく子供たちの相手をすることになり、私も年相応に遊んだ。今までが異常だったのだ。私の年ならこんな感じに外を駆け回るのが普通、きっとそう。そう思うたびに、思考が老けてると心の中で一人ツッコミ、チョーカーを触るたびに、こんなことしていて大丈夫なのかと心配になった。
それでも楽しく遊べたのは、きっとグランツ研究所が本当の地獄のような場所だったからだろう。まあ育ててくれていることと、未来のビジョンが見えることについては感謝しているが、それでも人を殺すのはやっぱりつらい。だからこういった平和な時間が落ち着くというかなんというか……。
ただ単純に楽しかっただけだと思う。時間はあっという間に過ぎていった。
結構遊んだなーと一息ついたところで、タニャーシャがいないことに気が付いた。
あれ、どこにいったんだろう。さっきまで近くにいたはずなのに。周りを確認しても見当たらない。しかたないので子供たちに訊いてみることにした。
「ねぇ、タニャーシャ知らない?」
「ターねーならこの時間よくいなくなるよ」
「黒い人とお話してる」
「悪い奴やっつけるってこの前話していたよ?」
「神隠しは悪い人がやってるんだって!」
途中からよく分からない話が出て来た。けど、その黒い人というのが、テロ組織の一員に違いない。
間違いであってほしかった。まだ自分の目で見ていないので、確証はないけれど、子供たちの口からこんな話が出るということは、きっと敵に違いない。事実を確認するために行動に出る。まずはいなくなったタニャーシャを探さないと。
私はかくれんぼをしましょうと子供たちに提案。じゃんけんでわざと負け、ちりじりになる子供たち。数字を数えて子供たちを探すふりをしてその場を離脱した。
いまタニャーシャがどこに行ったのかは分からない。でもそこまで時間が経っていないので、この敷地内か、もしくは歩いて数分程度の距離にいるだろう。子供たちの話が本当であるのならば、この敷地内のどこかに敵と内通するための場所があるに違いない。まずは怪しいと感じる場所を徹底的に調査しよう。きっと、かくれんぼの鬼役として探していれば、万が一があったとしても誤魔化せるはずだ。初めて来たから分からなかった、鬼役だったから探しに来たといえば……きっと大丈夫なはずっ!
無駄に上がってきたテンションのせいか、いまいちよく分からない判断をしてしまった気がするのだが、まあいい。私は適当に敷地内を捜索する。途中、子供たちを見つけてしまったが、大げさな演技で見つけられなかったことにした。
敷地内にはいくつか建物がある。そのうちの一つ。そこだけ人の気配が少なかった。意外とこういうところに隠れていそうな気がするんだけど……子供たちの気配すら感じない。
なんとなく「ここって隠れるにはベストな場所だよね」と一人事を言ってから、突入。物音を絶てず、服のこすれる音すらださないような歩行法を使って、そろりそろりと進んでいく。
一番奥の部屋から小さな明かりが漏れていた。そこには、フードをかぶった怪しげな人物とタニャーシャがいた。
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