第8章
First Love & Real 【初恋と現実】
そんな僕の学校生活も、嫌なことだけではなかった。
学校ならではの色恋話がなかったと言うと、嘘になる。
最初の月、隣の席に座ったのは、香西だった。
だいたい、隣の席や、後ろの席など周りの席に座った人と仲を深めがちである世の法則に、僕も従っていた。
元来、あまり女子との関わりがない僕にとって、中学というのは新天地。
これまでの僕を知られていないというのは、足枷がなくなった気分で、晴れ晴れとしていた。
小学生の頃の自分は、破天荒と言えばいいすぎだが、それなりに荒れてはいた。
僕も1人の少年だ。
要するにバカだったのである。
人には言えない非行もした。
まあ、稚拙な悪戯程度だったが。
それでも、小学生の視点からしたら、いっぱしの悪だったのだ。
そんな自分とも、もうオサラバ。
はっきり言って、中学生活は"モテた"。
最初の出席番号順の席が解消され、僕の隣の席、後ろの席、その隣の席の女子とよく喋るようになった。
とりわけ、隣の席の女子。そうちゃんとは仲を深め合った。
朝会ったら、互いにおはようと挨拶をし、授業中はたわいもない話をして盛り上がった。
帰る際にはまた明日と別れる。
そんな、普通な、毎日を過ごせることが嬉しかった。
「なあ、お前は好きな人いないのかよ?」
ヒナタが聞いてくる。
中学生が、部活の休憩時間にベンチに座りながらする話と言えば、コイバナしかなかった。
少なくともぼくたちは。
「そう言うヒナタはどうなんだよ?」
「え、俺?」
意表を突かれたような、絵に描いたような焦り顔をする。
当然聞かれるだろうに、予想していなかったのか?
「俺はねぇ…カトウかなぁ…」
デレデレとした顔で、斜め上を向いている。
気持ち悪い。
「カトウって誰?フルネームは?」
僕はあまり、友達の輪が広くない。
女子の友達と言えば、そうちゃんか、後ろの席の2人。高橋さんと坂田さんぐらいだ。
そして、はっとする。
うちのクラスには、僕の幼馴染がいた。
花井さん。
その人も、また女子で、気の強そうな顔をしながら、それでいて気品があり、どこか華々しい人物だった。
彼女とは、小学生時代に、同じ習い事をしていたが、年を経るにつれ、段々と話さなくなっていった。
この顔見知り、という段階が一番気まずいのである。
友達、とまではいかないが、知らないわけでもない。
そんな、曖昧な距離感が僕を疲れさせる。
だから、花井さんを思い出し、少し苦々しい気分になってしまった。
「カトウのフルネームはカトウアイ、可愛い名前だよな?」
そうだった。カトウのフルネームを聞いていたのだった。
すごい圧で同調しろと、半ば脅迫のように迫ってきたので、曖昧に「…うん。可愛い名前だね」と返しておいた。
別に、普通の名前じゃないか。
「ほら、俺が言ったんだから、お前も言えって」
ヒナタがノリノリで言い出したんじゃないか…。
若干腑に落ちない点もあったが、僕も、ヒナタに恋の相談に乗って欲しかった。
だから、話した。話してしまった。
これがのちの大災害を巻き起こすとは、夢にも思わなかった。
何ごとにも、転換点というものがある。
歴史の転換点、人生の転換点、運命の転換点…。
あの時、これが引き金になり…。
あのことが原因で…。
これがなければ…。
僕の最初の転換点は、これだった。
ヒナタに話してしまったこと。
ヒナタというモンスターに餌付けしてしまったこと。
これさえなければ…。
そう、想わない日はない。
全ての糸を引くのは、ヒナタなのだ。
「え?お前、糸永が好きなの!?」
「ちょっと、ヒナタ、声がでかいって!」
そうちゃんの苗字は、糸永と言った。
「俺、委員会一緒だぜ」
ヒナタが薄ら笑いながらそう言う。
そうかい、お前なんかと委員会同じとかどうでもいいし、と意地を張りつつ、内心は、いいなぁ、と激しく嫉妬していた。
委員会に所属しなかったことをこれほど後悔した日はない。
しかし、冷静に考えると同じクラスで同じ委員会になることなど、不可能に近いのだ。
男女別が強制でない限り、定員2名の委員会は同性で集まる。
そこに、僕の居場所はない。
そうちゃんの隣には、スペースは空いてない。
「そっか、そっか、糸永か。まっ、頑張れよ。俺もサポートしたげるからさ」
と、ヒナタに肩をポンっと叩かれる。
「サポート?何するの?」
「まずは、糸永の情報収集からだな」
さっきまでのカトウの時のデレデレとした顔からキリッとした顔に変わり、真面目に作戦を練っている。
こいつには、恋愛しか能がないのか。
「どうやって集めるのさ」
ヒナタは、思いついたように顔を明るくさせた。
「まずは、委員会で接近してみる!」
そこで、休憩時間が終わり、練習が再開した。
じゃ、俺A選だから、帰りにこの話の続きしような。
僕はB選。弱い方のグループ。
恋愛もサッカーも、結局はヒナタの方が上なのか。
そんな劣等感からか。ヒナタに恋愛面について頼り切るようになってしまった。
とは、言ったものの、大した成果は得られなかった。
そんなこととはつゆ知らず、恋愛とサッカーに明け暮れる日々が始まった。
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