第7章
Junior high school & Extracurricular activity【中学と部活】
中学一年生、僕は歩いて30分ほどの距離にある中学校に通っていた。
近くにはそこしかなく、またその道沿いに僕の通っていた小学校もあったのでだいたいの小学生がその中学校に行く。
故にその中学校の7割が知人であった。
「ひなた、クラス違ったな」
「しゃーない、しゃーない。慣れてるだろ、俺ら」
ひなたとは隣のマンションに住む友達で、小学校で一回も同じクラスになったことがない親友だ。
なぜ、仲が良いかと言うとサッカークラブに所属していたから。
「お前はサッカー部入るよな?」
「当然だろ?ひなたみたいな裏切り者じゃないからな!」
2人は楽しそうに笑った。
僕がひなたを"裏切り者"と揶揄した理由、それはひなたが途中でサッカークラブを変えたから。
僕は多少弱かったうちのサッカークラブをずっと続けた。
しかし、ひなたはレベルが高いところに行きたい。と、強いクラブに変えてしまった。
小学五年生の頃だ。
だが、これでまたやっと同じところでサッカーができる。
部活を通して、もっとひなたと仲を深められる。だから、僕はサッカー部に入る一択しかない。
「ひなたは何組?」
「俺は5組、お前は?」
「4組」
もうクラスが違うのにも慣れてしまった。
でも、なんとも思わない。多少不自由があるほうがいいという自論がある。
僕は思うのだが、不可能があるからこそ、それを可能としようと努力することができるのではないだろうか?
ひなたとは、一回もクラスが同じになったことがない。が故に、遊ぶ時など仲を深めようと一生懸命になれた。
だから、いいのだ。
「じゃあな、仮入部で会おう」
画して、僕はひなたと別れた。
新しいクラスというのは、どうにも慣れない。慣れることができるのだろうか?と不安になる、が、だいたい慣れる。不思議なほどに。慣れた後に、なんであんな心配をしたのだろうと不思議に思う。
「新しいクラスの担任になりました。左手、と書いて'さて'と読みます。みんな、よろしく」
担任は、しゅっとした顔の若い先生だった。性別は男、20代後半。ピンク色のシャツ、ネクタイは黒とピンクのしましま。黒のチノパン、ローファー。
変なやつ。
新入生がみな、緊張した面持ちで自己紹介を始め、五分ほどし、終わった。
友達、作れるかな?
*
終礼のチャイムと同時に仮入部へと向かう。
隣のクラスのひなたは知らない友達と喋っている。
僕も1人だけ友達ができた。
香西だ。
香西は、少し顔にシミがあり、ティラノサウルスのような顔をしている。
話してみると面白いやつで、笑いのツボがよくわからない。
ミステリアスなやつに人はよく惹かれる。
「香西はさ、部活どこにするの?」
「うーん、何もやってこなかったんだけどさ、サッカー始めようかなって」
「ほんと!?僕もサッカー部入るんだよ!」
「あ、そうなの。じゃあ、行こうかな」
2人で仮入部に行くと、15人ほど集まっていた。
新一年生は三年生が引退するまで走らされるらしい。
仮入部の僕らでも同様走らされた。
この中学校は、となりに森林公園があり、虫や自然に囲まれた立地となっている。
少し道を下るとグラウンドがあり、その道の途中に、ゴムのミニグラウンドがある。
雨の日はよく滑るのだ。
ミニグラウンドは主にテニス部が使い、サッカー部は野球部がグラウンドを使う水曜日だけミニグラウンドを使うことになっている。
今日はそのグラウンドまでの道を10往復だった。
僕と香西は少し遅めに走り、ひなたは知らない友達とガンガン飛ばす。あっという間に一周差がついた。
「なあ、香西はこれまで何してたの?」
「俺は何してたっけなあー?ゲーム?とか本読んだり?かな?」
なんとも煮え切らない、意識がどこかに行ってしまっているように感じた。
「ほっほっほっほっ」
いきなり、香西が奇声を上げ始めた。奇声と共に、香西の走り方が変化した。
ももを異様に上げ、陸上選手のように勢いよく腕を回し始めた。
「どうしたんだよ、香西」
「こうした、ほうが、走れる、かな、って」
無駄に疲れているじゃないか。呆れつつも、やっぱりこいつ面白いやつだなって思った。
*
仮入部が終わり、ボールを使い練習している先輩達を尻目にミーティングが始まった。
サッカー部の顧問は左手で、ほかに1人先生がいる。
もう1人の顧問は、菊田という痩せ型の20代前半の先生だった。
しかし、あくまでもサッカー部の顧問は左手で、菊田はそのサポートのようなポジションだった。
ミーティングを仕切るのも左手だ。
「今日は、体力づくりの予定で部長に任せていたが、ちゃんと走ったか?」
僕は勢いよく、「走った!」と叫んでしまった。
言った瞬間に、ひなたは顔をくしゃくしゃにして手を口に覆い、顔を背け笑いを堪えていた。
みんなの視線が僕に集まり、僕が何かまずったことは、否が応でも感じ取ることができた。
菊田先生を見ると、少し慌てた様子で、小声で僕に何かを伝えようとしている。
3回ほど小声で言ったのち、何と言っているか理解できた。
「走りました、って。敬語使って」
と菊田先生は言っていた。
「あ、走り…ました。」
「小学校ではな、タメでもいいけどな、お前はもう中学生や、先生には敬語使え。お前らもな、こいつみたいなことするなよ。敬語使え」
どぎつい関西弁を混ぜ、僕を貶す。
何もそこまで言わなくても…と思ったが、みんなロボットのように無表情に大きい声で、仮入部一同がはいと言う。居心地の悪さを感じた。
公開処刑された僕は自分が悪いとはわかりつつも、一瞬で左手のことが嫌いになった。
最悪のスタートを、僕はきってしまった。
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