第4章

Rumor & Trauma【噂と傷】


斎藤から届いたメールの文面はこのようになっていた。

『池田、最近クラスでちょっとヤバい感じなんだよ』

まわりくどい書き方をするな、つまり、"いじめられて"いる、と。

その旨をメールで送ると、そこまではいかないんだけどさ、と返ってきた。

たしかにあいつはホラを吹くし、人の気持ちを考えないし、暴力を振るうし…

と考えているうちに妥当なのではないかという疑念が湧いてきた。

それは自分に対する嫌気からきているのか、純粋に池田のやってきたことからきているのか、僕にはさっぱりわからなかった。いや、わかっていたのかもしれない。わざと目を背けていたのかもしれない。

誰だって嫌なことには目を背ける。なんだってものごとには裏がある。自分の崇拝するもの。簡単に言えば好きなものの裏を見て、それでも好きと言えるだろうか、僕は。

『とりあえず、そのことは明日話そう。今日はもう寝る、おやすみ』

と打ち、僕は眠りの世界に誘われた。

気づけば僕は真っ白な霧の中で1人、佇んでいた。

周りは霧だらけで建物の一つも見えない。僕が辺りを見渡すと霧の中から一筋の光が見えてきた。その光の切れ間を見つめていると1人の幻影が僕に近づいてきていた。

君は、そうちゃん…?

その1人の幻影はニコリと微笑みかけてきた。

その瞬間あたりが光り輝きはじめ、目の前が真っ暗になりあたらしい世界が構築された。

今僕がいるのは動物園。こころなしか茶色の建物が多く目につくこの場所は大手の会社だ。

その受付に僕は立っている。横には幻影"だった"もの。今の僕にはわかる。それは幻影ではなくそうちゃんだ。

そうちゃんに僕は言う。気取った、緊張した僕は言う。

「僕が奢るよ」

「え、いいよ。大丈夫。」

「そ、そう。」

最低限の会話を交わし、チケット売り場に並ぶ。チケットを買い入場ゲートをくぐるとそこには大きな、本当に大きなアフリカゾウが出迎える。

わあ、大きい。

と言ったのもつかの間、ぐるぐると時間が歪み周りのものが歪んでいく。色と色とが混ざり合い絡み合いながら融合していく。

ただ一つ、姿も色も何もかもが変わらないものがあった。

そうちゃんだ。

そして僕は動物園を出た。反対側の普段なら誰も使わないような出口を使い、ひと気のない道を2人距離を離れて歩く。

いつのまにか僕は家に居て、そしてそうちゃんにメールを送っていた。

『今日はあんまり話せなくてごめんね。また次も行こうよ!その時はもっと話せるように頑張るからさ。』

そう送って、返事はなかった。

またぐるぐると時間が歪み始める。今変わらなく佇む幻影はいない。果てしなくすべてが歪んでいく。まるで絵の具を混ぜるように。簡単に無機質に。

そして僕はそうちゃんからメールが届いていることに気づく。

ガラパゴスケータイからメールを受信しているという旨の紫色の光が規則的に放たれている。

僕はそれを恐る恐る開ける。

目を覚ました僕は汗でシーツにシミができているのに気づいた。

まるで犯行後の死体のように。まわりに数字のついた黒い置物はないか探し、正気に戻る。

まだ"あの事"がつけた心の傷は癒えてないのか、と実感した。

せめてそうちゃんから返信が来なければ…。

それ以来僕は女性と2人きりで話すのが苦手になった。

そうちゃんからきたメール、それを思い出そうとし、胸の中から忠告されたように塞がっていく。

朝から嫌な気持ちになったなあ。

母からご飯の呼び出しが入り、僕は7時を過ぎていることに気づく。

慌てて僕は制服を着、ダイニングに向かった。



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