第4章
Rumor & Trauma【噂と傷】
斎藤から届いたメールの文面はこのようになっていた。
『池田、最近クラスでちょっとヤバい感じなんだよ』
まわりくどい書き方をするな、つまり、"いじめられて"いる、と。
その旨をメールで送ると、そこまではいかないんだけどさ、と返ってきた。
たしかにあいつはホラを吹くし、人の気持ちを考えないし、暴力を振るうし…
と考えているうちに妥当なのではないかという疑念が湧いてきた。
それは自分に対する嫌気からきているのか、純粋に池田のやってきたことからきているのか、僕にはさっぱりわからなかった。いや、わかっていたのかもしれない。わざと目を背けていたのかもしれない。
誰だって嫌なことには目を背ける。なんだってものごとには裏がある。自分の崇拝するもの。簡単に言えば好きなものの裏を見て、それでも好きと言えるだろうか、僕は。
『とりあえず、そのことは明日話そう。今日はもう寝る、おやすみ』
と打ち、僕は眠りの世界に誘われた。
*
気づけば僕は真っ白な霧の中で1人、佇んでいた。
周りは霧だらけで建物の一つも見えない。僕が辺りを見渡すと霧の中から一筋の光が見えてきた。その光の切れ間を見つめていると1人の幻影が僕に近づいてきていた。
君は、そうちゃん…?
その1人の幻影はニコリと微笑みかけてきた。
その瞬間あたりが光り輝きはじめ、目の前が真っ暗になりあたらしい世界が構築された。
今僕がいるのは動物園。こころなしか茶色の建物が多く目につくこの場所は大手の会社だ。
その受付に僕は立っている。横には幻影"だった"もの。今の僕にはわかる。それは幻影ではなくそうちゃんだ。
そうちゃんに僕は言う。気取った、緊張した僕は言う。
「僕が奢るよ」
「え、いいよ。大丈夫。」
「そ、そう。」
最低限の会話を交わし、チケット売り場に並ぶ。チケットを買い入場ゲートをくぐるとそこには大きな、本当に大きなアフリカゾウが出迎える。
わあ、大きい。
と言ったのもつかの間、ぐるぐると時間が歪み周りのものが歪んでいく。色と色とが混ざり合い絡み合いながら融合していく。
ただ一つ、姿も色も何もかもが変わらないものがあった。
そうちゃんだ。
そして僕は動物園を出た。反対側の普段なら誰も使わないような出口を使い、ひと気のない道を2人距離を離れて歩く。
いつのまにか僕は家に居て、そしてそうちゃんにメールを送っていた。
『今日はあんまり話せなくてごめんね。また次も行こうよ!その時はもっと話せるように頑張るからさ。』
そう送って、返事はなかった。
またぐるぐると時間が歪み始める。今変わらなく佇む幻影はいない。果てしなくすべてが歪んでいく。まるで絵の具を混ぜるように。簡単に無機質に。
そして僕はそうちゃんからメールが届いていることに気づく。
ガラパゴスケータイからメールを受信しているという旨の紫色の光が規則的に放たれている。
僕はそれを恐る恐る開ける。
*
目を覚ました僕は汗でシーツにシミができているのに気づいた。
まるで犯行後の死体のように。まわりに数字のついた黒い置物はないか探し、正気に戻る。
まだ"あの事"がつけた心の傷は癒えてないのか、と実感した。
せめてそうちゃんから返信が来なければ…。
それ以来僕は女性と2人きりで話すのが苦手になった。
そうちゃんからきたメール、それを思い出そうとし、胸の中から忠告されたように塞がっていく。
朝から嫌な気持ちになったなあ。
母からご飯の呼び出しが入り、僕は7時を過ぎていることに気づく。
慌てて僕は制服を着、ダイニングに向かった。
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