第2章

Reason & Past 【理由と過去】


「は?」

僕と斎藤は一瞬言葉の意味がわからなかった。

僕も斎藤も彼女がいたのは中学の時だったので、そこまで女性との付き合いがなかった。故に"束縛"という文字の意味を理解しかねていた。

口をちょうどOの形に開けていた僕と斎藤に向かって、さも同然のようにもう一度、

「だから、束縛が激しかったんだよ」

と、トドメの一撃を差してきた。

「そもそも誰と付き合ってたんだっけ?」

と僕が聞くと、斎藤と池田が一瞬戸惑いの顔を見せたのに気づいた。

「あれ、知らなかったの?」

「え、斎藤も知ってたの?」

僕はなぜか裏切られた気持ちになった。

斎藤とはずっと一緒にいた、どんな時も。大学の下見に行く時や、ファミレスでご飯を食べる時。行き帰りや、カラオケ。いろんなことをしてきた。なのに付き合いが浅い、チャラチャラしたこんな池田なんかと恋愛について詳しく知っている。

なぜか嫉妬のような念に取り憑かれた。

「東だよ。」

「ひがし?って誰?」

僕は中学のみんなとは違う高校に来たので友達の輪が小さい。知り合いがそんなにいないのだ。

「東 美亜。知らない?」

ひがし みあ。聞いたことはある。一際目立つ。というか少し背が高く否が応でも目立ってしまうあの女子のことか。

少しどころではなく大抵の男子より背が高い。女子は背が低い方が好まれると聞いたが当人はどう思っているのだろうか。

と、そんなことを考えていたが、なぜ知っているのかというと、彼女は軽音楽部に所属していたのだ。5人組の女子のバンド。バンド名は忘れた。

「東って、あのバンドのだよね?」

「そうそう、あのクソ軽音の」

池田はとある事情で軽音楽部をやめさせられている。

四月。新入生を歓迎するという趣旨で、"新入生歓迎ライブ"というものをしていた。

昼休みの時間を使い2曲を披露するのだが、僕は池田と斎藤と兼バンをしていた。簡単に言うと二つのバンドを掛け持ちしていたのだ。

そのバンドで曲を披露している時、顧問の先生が突然ライブに割って入ってきた。時間が来たのでやめろというのだ。僕と斎藤はその指示に即座に従った。

しかし、池田だけは反抗していて部室を怒りで荒らしまくった。

椅子をぶん投げた。

ドアを蹴った。

シンバルをむちゃくちゃに叩いた。

挙げ句の果てにおにぎりのゴミを部室に捨て、汗で濡れたシャツをハイハットにかけ干すというドラマーとしてあるまじき行為を行った。

池田はドラム担当。

僕はギター。

斎藤はベース。

ボーカルは朝井という女子が担当していた。

朝井は東と同じバンドで思えば僕がなぜ東を知っているかと言えばここからだった。

この池田の行動が原因で軽音楽部の中の問題児扱いされて、結局辞めた。というか辞めさせられた。

「クソ軽音とかいうなよ」

と一応仲裁しておく。何を言っても池田には響かないが。

「てか、なんで打ち上げの日に別れるんだよ。」

と、そこじゃないだろ感満載の質問を斎藤が投げた。

「しょうがないだろ、たまたま今日になっちゃったんだから。」

こいつはなんでここまで平然といられるんだ。女性とお付き合いするという、すごく大きい人生のビッグイベントが終わったんだぞ。お前だけじゃない、相手の気持ちも考えろ。

と、若干の、いやかなり大部分が嫉妬に苛まれつつ怒りを募らせた。

「それよりさ、何食う?」

と池田が話の話題を変えた。何かを隠しているのだろうか?

池田が店員を呼び、それぞれドリンクバー、ミラノ風ドリア、ハンバーグステーキ、マルゲリータを注文した。

俺と池田がドリンクバーを注ぎに行くと、池田が突然僕に打ち明けてきた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る