ロゴスの情動

三石 警太

第1章

Rest & Confession 【打ち上げと告白】


その日は少し曇っていてどんよりとした日だった。天気予報はもくもくとしたくもの絵をいくつも並べ、一週間の天気を伝えていた。

「10月にしては珍しくここ一週間ずっと曇りの予報です。」

僕らの高校はこの時期に文化祭を行う。定期テストを9月に実施し、その翌週から文化祭の準備を行うのだが3年生は文化祭に参加できない。なので高校2年生の僕らは最後の文化祭とやたら謳う。

僕はこの高校に愛着はなく、文化祭は特に酷いと感じていた。

この高校に来たわけは単に内申が足りなくなり、公立高校を挑戦するかこの高校に推薦で確実に入るか、の二択で挑戦より確実をとっただけという情けない理由だった。

その前の年までは内申が1低く併願できたのになぜか僕の代で併願の基準を上げてきたのだ。それがなければ公立高校を受けることができたのに、と悔やんでいた。

それもこの高校が嫌いな理由の一つだった。

なんとも身勝手な理由である。

進学校と自ら掲げるこの学校は文化祭の手の抜きようが凄まじく、火の使用すら認めないという文化祭としてあるまじきルールがあった。その上スマホの使用を認めないというはっきりいうと「お堅い」高校なのである。

そんな文化祭の実行委員長に僕の親友の斎藤そらがなったと聞き、少しは何かが変わるんじゃないかと淡い期待を抱いた。

斎藤は高校1年生の時の友達の中で一番仲が良い友人だった。共に軽音楽部に入部し、クラスでも放課後でもずっと一緒にいたからか兄弟同然の絆が芽生えていた。

「俺が実行委員長になったからには最高の文化祭にしてみせよう」

と意気込んでいた斎藤だったが変えられたのは決まったエリアでのみスマホの使用を許可するというなんとも反応し難い変化であった。しかし、暗黙の了解でスマホをいじる生徒がたくさんいたため、皆んなあまり気にしなかった。

文化祭当日、僕と斎藤と数人のバンドメンバーは、朝一で広場でのライブを行なった。お世辞にもこのバンドのボーカルはうまいとは言えず、聴いていた音楽好きの友人は影で嘲笑っていた。

「あのボーカル最高の歌声してるやんけ」

「やめろよ、あいつだって精一杯やってるんだ」

そんなことを言いながら僕も薄々思っていた。結局はこいつ、池田と同じ場所にいたのだ。

文化祭も無事終わり、僕と池田と斎藤で打ち上げを行うことにした。

曇りの日だった。

3人は最寄りの駅のサイゼリヤで打ち上げを行なった。

「お疲れ!特に文化祭実行委員長!」

「ありがと、池田」

各々は持っていたドリンクを互いにぶつけ合い乾杯した。

この時池田は少し遅れてやってきていた。

「なんで遅れたの?」と僕が聞くと、

「色々あってさ。彼女と別れてきた。」

と急に打ち明けてきた。少し前までの池田のテンションからは考えられない事情で僕と斎藤は唖然とした。

池田は元来、巷でいうモテるやつで幾人かの女性と交際していた。馬のような顔とハスキーな声で、とてもモテそうには見えない彼はどうやって女性と接しているのか、ずっと気になっていた。

こいつにとっては別れることすら日常茶飯事なのか、と少し心がざわついた。

僕は池田とは全く異なり、数年前に初めてできた彼女と別れて以来ずっと独り身だった。

その彼女との別れかたも壮絶なもので、以来女性と関わるのを少し嫌な分類においていた。

「なんで別れたんだよ」と聞かれることが容易に想像できるありきたりな質問を投げた斎藤は心なしか少しニヤついているように見えた。

「束縛が激しくてさ」


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