第52話「変化」
「あれ先生、サボりですか?」
中庭で休んでいると彼がやってきた。少し前までひどい顔だったのに今は逆だ。
「違うよ。昼休みをしていただけさ。お金がないからコンビニのおにぎりだけどね。」
「職員用の食堂とかないんですか?あ、宿直室に確かカップラーメンがたくさんありましたけど、好きに食べていいって。」
「そうなのかい?ならそっちで食べても良かったな。」
「と言っても僕がそこに入ったのは結構前なのでもうやってないかもですけどね。」
彼は大きな荷物を地面に下ろしてポカリを飲んだ。確か咲さんとお泊り会をするという。彼は紅葉を眺めながら言った。
「桑田先生本当に話し方変わりましたね。初めて会った時はあんなにおどおどしていたのに。」
なんてことを言ってくる。
「そうだね。慣れてきたからかもしれない。」
大学ではほとんど誰とも話さず過ごしてきた。気が付いたら話し方さえ忘れてしまって面接にもたくさん落ちた。ここに来てやっと思い出したのだ。
「千明君も変わったよ。ちょっと旭ちゃんに似てきた。」
「そんな馬鹿な。俺があんなに☆(ゝω・)vキャピ☆(ゝω・)vキャピしていたらもはやオネエですよ。」
「そうだね。なんていうかすごく密度のある一年だったよ。いろんなことを学んだしたくさんの出会いがあった。」
「まだ終わってませんがね。でもまだ人生長いんですからこれからもたくさんあるでしょう。こういう年が。」
「そうかもしれない。これからたくさんある。出会いも別れも。」
風が吹く、もう寒いくらいの風だ。これからもっと寒くなってそれから暖かくなっていくのだろう。それの繰り返しだ。
「まあまずはこの一年あともう少しお互い頑張りましょう。精一杯生きてみます。」
「そうだね。その通りだ。」
彼はペットボトルの中身を飲み干すと荷物を背負った。
「ではまた。」
「うん。また。気を付けてね。」
「あははただのお泊り会ですよ。」
そういって彼は笑って歩いて行った。本当に彼は変わった、いや根っこは変わってないけれどなんというのだろうが少し似てきたのだ。彼は前より演技がうまくなったから。
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