第37話「変な奴」

 夏休みも明け、学校が始まった。気分的には地獄だ。なんでまだ暑いんだよ。八月下旬だぞ!?病院より歩く距離長いしもう何なんだよ!?すでに体力もつき机に突っ伏しているわけだ。…だめだ周りがうるさすぎる。大体どこのクラスにも一定上の喧しい女子軍がいるわけだが、最近俺の席の目の前で昼食を食べるようになった。本当に迷惑なんだ。これから昼食を食べなきゃいけないというのにこんな黄色い声を聴いていたら飯が腐ってしまう。ということでできる限り逃げることにした。

「オッスオッス。」

「あーおそよう。」

 外は暑いので却下、ほかの教室にもうるさいやから入るので移動するだけ無駄ということで、話せる人間のところに避難した。適当に話していれば聖徳太子ではない俺には雑音も少しは和らぐと考えたのだ。ま、コミュ障に話題ふる能力なんてないんですけどね。さて、俺は弁当を広げ食べ始めたわけではあるが、この大林という男、おかずを黙々と食べつづけている。弁当箱は二段構造で下にご飯があるわけだが、ご飯枚まだ日の目を見ることなくおかずだけが消費され続けている。

「なあ大林君。」

「何?」

「ごはんは一緒に食べないのか?」

「交互に食べるのめんどくさいじゃん。」

「めんどくさいって…。」

 すごいこと言いやがっているぞこいつ。大林はいつもラノベを読みながら片手間に弁当を食べているのは知っているが、ここまでひどいとは…。

「あとでご飯だけはつらくないか?」

「結構いける。」

「すげえ。」

 上杉謙信が武田信玄に塩を送って生まれたという「敵に塩を送る」という言葉がある。これはたしか内陸部に国を持つ武田軍が塩の供給ルートを遮断されたせいで、料理に満足な塩が使えず、飯が満足に食べられなくて弱ってしまったが、このような卑劣な戦の勝利には意味がないと謙信が敵である武田軍に塩を御売値で渡したという話だ。それほど塩というものは人間に大切なものであるとわかる。人間塩気がないものはそんなにたくさん食べられないのだ。(スイーツとかは別かもだけど。)この男なら武田軍の状況でも謙信の手を借りる必要はなかったかもしれない。あ、萌やしだから兵隊にはなれなそうだけどね。

「家でもそうなのか?」

「いや別に家は違うけどさ。中学とかの昼食からやってたら癖になった。」

「なんだこいつ。」

 世の中変な奴はいるものである。


 弁当を食べ終わりまだ女子グループはうるさいのでここにとどまることにした。適当にガラケーをいじる。

「なあ大林君。」

「何?」

「面白い話ない?」

「ないな。」

「ないか。」

「…。」

「…。」

 今日は暑いので勉強する気にもならない。少し寝ようかなと考えていると、大林君がスマホの画面を見せてきた。

「暇ならこれでも見てなさい。」

「何これ?」 

 どうやら動画サイト「ようつべ」の動画らしい。ゆっくりと呼ばれる一頭身の饅頭のようなキャラクターが何かを話しているようだ。

『どうも、ゆっくり霊夢です。』

『ゆっくり魔理沙だぜ。』

『今日は福岡県で起こった奇妙な殺人事件について話していこうと思います。』

『奇妙な殺人事件?いったい何があったんだ?』

『20××年二月十三日、福岡県博多区で当時十三歳だった女子中学生「駒井美香」とその兄当時十五歳の男子中学生「駒井隆二」が変死体として発見されました。事件現場近くの住民によって通報されたのですが警察の発見時、遺体の損傷が激しく身元の確認もできない状況でした。行方不明だった二人のDNAとすり合わせた結果やっと特定可能だった程です。』

『いったいどれくらいひどかったんだ?』

『まず妹の美香ちゃんは顔の皮がすべてはぎとられており、目玉、舌、脳みその大半がなくなっていました。また内臓が引きずり出されておりそこに兄の胴体が詰め込まれていたそうです。兄はというと四肢がすべてなくなっており、頭部は切り離されまるでプレス機にでもかけたかのようにつぶされていたそうです。』

『…とんでもない事件だな…。犯人は見つかったのか?』

『見つかっていません。ただ死体を調べたところ、二人のものとは全く違うDNAが美香ちゃんの頭部と隆二君の四肢の切断面から見つかったそうです。このことから


二人は喰種によって喰われたのではないか?


と噂になっています。』

『グール?あの東京〇―ルで有名なグールか?』

『その通りです。日本では屍食鬼ともいいます。もとはアラビアなどで言い伝えられている怪物で、人を食べる鬼です。習性としては…』


「なんつーもん見せるんだ。」

「饅頭を見てると癒されるだろ?」

「話がグロすぎてマイナスだっつーの!」

 俺は別にグロイのとかは大丈夫な方だが、昼食後すぐに見るような話ではないだろう。時間つぶしにはなったし、もう少し調べてみようとかは思ったけど、やはりこれだけは言える。


世の中変な奴はいるものなのだ。

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