第14話「不思議な世界2」

 最近桑田先生のコミュ障が改善しつつある気がする。というのもこの入院生活中何度か桑田先生と話す機会があったのだが、回数を重ねるごとに流ちょうになっていき、今ではほぼ普通に話せる。あれかな、極度の人見知りでだんだん環境に慣れてきたとか?まあ地方の病院だから顔見知りの患者も増えるだろうが、多くは初対面であろうに、そうだとしたら苦労しそうだ。ということで今日も裏庭で昼寝していると(結構ここ快適である。)桑田先生がやってきた。

「飲むかい?」

「あ、いいんですか?ありがとうございます。」

 なんか桑田先生からコーラをもらった。コーラは好きなのでいいけれど、たとえ嫌いだとしても二本先に買ってきてこられたら断れまい。

「コーラ、好きなんですか?」

「そうだね。昔からずっと飲んでる。もう中毒かもしれないな。」

「そりゃ恐いですね。」

 アル中とか薬中とか聞いたことあるけどコーラ中とは、そこまでおいしいかコーラ?好きだけど。

「千明君は何か好きな飲み物あるかい?」

「自動販売機とかならよくスポーツドリンク買ってますね。でも市販なら100%系の果物ジュースが一番好きです。」

「リンゴとか?」

「そうですね。でも、グァバジュースと柚の果汁を混ぜてそれを炭酸で割ったり、色々混ぜるのも好きです。」

「それはまたマニアックだね。」

「日本にはいろいろ果物ジュースがありますから。試したくなるんですよ。」

「なるほどね。僕も試してみようかな?」

「ここの近くのスーパーにたくさん売っているので楽しめると思いますよ。」

 どうだこの改善っぷり。超会話できてる。まだ数週なのに超改善してる。俺の͡コミュ力は何年たっても改善しないのに早すぎませんかねコンにゃろう。まあそれは置いておいて、昨日の旭の話でも振ってみようか。

「あの桑田先生。」

「なんだい?」

「桑田先生って不思議なものとかにあったことあります?妖怪とか、怪物みたいな。もしくは魔法とか。」

 旭が頼んできた不思議なものを捜してほしいというお願い。今の俺ではどうやっても様々な場所を巡って探すなどできないので、こうして聞き込みをしてみるのだ。案外面白い話が訊けるかもしれない。

「あるよ。」

「え?」

 あっけらかんと桑田先生は答えた。ちょっと予想外の反応だったので間抜けな声が出てしまった。

「えーと、例えばどんな?」

「吸血鬼と、喰種と、妖精?みたいな。一瞬で変な場所に飛ばされたこともあったし…。」

「…冗談ですよね?」

「どうだと思う?」

 クスっとまるで自分がイケメンだとわかっているから通じる系スマイルをしやがりました。この人ほんとに桑田先生?実は別人とか恐いんですけど…。

「もしかして旭さんに頼まれたのかな?」

「あ、そうですよ。」

「そっか。だからか。」

「どういうことでしょうか。」

「一昨日彼女にそう言う話をしたからね。」

「あーなるほどー。」

 そこまでなるほどでもないが、つまり旭は桑田先生に不思議なものの話をされたから興味をもって俺に探させようとしたわけだ。ってことは桑田先生はそれに気づいてあんな冗談を?

「もしかして、旭さんと話したことで妬いているかい?」

「いえ、妥当じゃないですか?話し相手が俺一人で、残り23時間外部と接触なかったらさすがにきついでしょ。」

 いや俺みたいな最強のエリートボッチならネットがあればなんとかなるが、さすがにそれが毎日だったら陰鬱になるに決まってる。まああの場所に隔離されてるだけで鬱になる自信あるけど。だからほかにも俺のような人間がいるのはそうおかしいことじゃない。

「でも妬いてくれた方が彼女はきっと喜ぶよ。君のことが大好きだから。」

「あいにく他人に好意を抱かれることはあまり経験がないのでわかりませんね。」

 というかなんか桑田先生やっぱりおかしくないですか?そういうタイプじゃないよね?悪霊でもついているんじゃないですか?

「冗談だよ。冗談というのは彼女の話し相手は君以外にいるってことだけど。基本君しかいないんだ。」

「そりゃかわいそうですね。隔離するならもっといたわってやったらどうです?」

「そうしたいけどうまくいかないんだよ。」

「そうですか。」

 大人の事情なぞ知らないがそういうものなのだろうか。それを深く掘り下げられるほど俺の頭はよくはない。ただ少し悲しく思った。

「だから、これからも彼女をよろしくね。これからも仲良くしてほしい。」

「親ですかあなたは?…分かってますよ。でも、報酬が欲しいところですね。」

 そう、別に居たくてあそこにいるわけではないのだ。俺も、彼女も。訳の分からない事情とやらと大人の都合とか何とかで俺たちはあそこに縛られる。労働とは苦労を働くことならば、日本の労働基本法が労働に対する賃金を支払うことを定めているならば、俺たちは子供なので金はいらないが、何か報酬がなければやってられないのだ。俺も…あいつも。

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