第13話「不思議な世界」
いつものように地下室で二人顔を合わせ話題を決める。もう何度もやればなれたもので俺は50%葡萄ジュースをすすりながら彼女の提示する話題を聞く。
「じゃあ今回はこの世界の不思議なものにしようぜ!」
「おいなんだぜってお前は、どこのポ〇モンの主人公だ。」
「ちょっと野性味のあるボクも魅力的だろ?」
「CHANGE。」
「チェンジって何さ!そういう時はそういうときも旭ちゃん可愛い萌え萌えきゅうううううううううううううううん!っだっていつも言ってるだろ!」
「知るかぼけなす。これ以上うるさくなったらさすがに帰るぞこら。」
すると旭はピタッと止まると、
「………。ごめん。」
体育座りして頭を垂れた。
「おいやめろしおらしくなるな。俺が悪いみたいだろうが。」
「だってボク君以外に友達なんていないし、君がいなくなったらずっとここで独りぼっち。」
「わかった悪かった、帰らないから。お前実は重い設定なんだからそういうこと言われるとちょっとずきずき来るんですけど。」
「…じゃあ、萌え萌えキュンって言って。」
「は?」
「旭ちゃんは萌え萌えキュン。」
あーなるほど演技ですね。でもこれを続けられると体裁的にも精神的にもちょっっとつらい。まだそこまでドSではない。
「旭ちゃんは…も、萌え萌えキュン。」
「あははははははは!いった!やっと千明君が旭ちゃんは萌え萌えキュンって言った!旭ちゃんが大好き結婚してくださいって言った!」
旭は飛び起きて立ち上がり、腹を抱えて笑った。
「分ってはいたがうざいっつうの!っていうか変なセリフ捏造すんな。」
「ごめんごめん。でもうれしいよん。」
「ごめんうざいんですけど。」
「さ、じゃあ今日の話題に移ろうか。」
本当になんだこいつは。まるで今までの会話がなかったかのように座りなおして話をしろとこちらに要求してきた。
「世界の不思議なものだっけ?心配するなお前が一番不思議な変態だから。」
「そりゃボクは世界で一番不思議なくらい美しいけど、そういうんじゃないんだよ。ほら超常の存在というか、神秘的なものというか。」
超常の存在、神秘的なもの、つまり神話の怪物とか妖怪とかの話か。
「日本の神話の怪物に八岐大蛇っていう怪物がいるんだけど、あれインドにおんなじ姿の怪物が描かれていて実は神話自体インドから来たものなんじゃないかって話あるな。」
「…なんていうか夢のない話だね。自国の神話は自国独自であってほしい。」
「確かにな。それもスサノオノミコトが実はただの太った大富豪とか嫌なんですけど。」
「そんな話なのインドだと…。又調べよ…。じゃあさ千明君。君はその八岐大蛇っていたと思う?もしくはほかの神話上の怪物とか?」
神話上の怪物が実在したかどうか、確かにこの世界には数えきれないほどの神話とその中に登場する怪物が存在している。だが神話は神話だ、今現在それを目にしたものはいない。ネットとかで目撃情報とかあるけど、どれも確証があるものじゃない。
「大半はいないだろうな。だってキメラとかどう考えても人の創作物だろ。なんでいろんな動物が合体してるんだよ。誰か作ってる人いそうだけど、自然にできる生物じゃないだろ。」
「つまり人工的になら神話の生物は作れてそうってこと?」
「其れならありそうじゃないか?さすがに狼男みたいな急な変身とかは無理かもしれないけど、大男に牛の頭つければ見た目ミノタウロスだし、人が常時血を食事にする世になれば実質吸血鬼だし、科学が進歩すればそういうおかしなものとかいくらでも作れる気がする。」
遺伝子組み換えの鳩とか見ると最早同じ鳩といっていいのかわからないものなどたくさんいる。それにネットに人とヒツジから生まれた子とか言ってグロイ動画(リアル)を見たこともある。今の科学技術がどれほどかはわからないが、できないというのは早計だろう。
「なるほどね。でも、自然にもいるかもしれないよ?」
「まあ否定はできないけど、見たことないしな。」
「おかしいと思ったことはない?どうやって世界はできたのだろうって。何もないところからいきなり物質が現れて生き物ができたんだよ?それよく考えると魔法だろう?魔法があり得るのに魔法が使える人がいないなんて誰が言いきれるのさ。」
「なんか話がかみ合ってない気がするけど、何?魔法使えられるようになりたいの?それとも魔法使いに会いたいの?はたまた魔法のような超常の怪物に会いたいの?」
「あってみたいのは当然だけど、ボクはもう魔法は一つ使えるんだよ?」
「へえー、どんな?」
「それは君を僕に恋させる魔法さ。」
「心配するなそれは幻想だ。」
ふざけているのに若干真剣なまなざしに少しびくっとした。彼女は微笑む。
「でも千明君が大きくなったら、ボクの代わりに探してほしいな。きっと見つけたら人生楽しくなるよ。」
「俺を動かしたいんなら、もう少しいるって確信をもたせてくれよ。あるかないかわからないもの無邪気に探せるほど俺はピュアじゃない。」
「でもあったことあるって人いたよ?」
「どうせネットだろ?」
「いいや、この病院の人で。案外神秘は近くにあるのかもね。」
「…。」
「ねえお願いだよ。」
自分はここから出られないから俺に探せとは勝手が過ぎるだろう。神秘?魔法?そんなものが使えるなら俺が使いたいわ。きっとみんなそう思ってる。みんな思っているのに持っていないならあるなんて全く言えない。なのにあるって人がいるから探してほしいとは…。けれどそれは今まで彼女と過ごしてきて初めてのお願いだった。いや、一応二つ目か。俺を路頭に迷わせたいのか、純粋に神秘が恋しいのか、俺にはわからない。
「ま、気が向いたらな。」
もし自分が彼女の立場にいたら、きっと神秘でさえも頼りたいと思うかもしれない。その場所から抜け出したい、苦しいから神頼みだ。彼女はここが快適で幸せだといった。けれど本当はここから出たいのではないのか?子供である自分には何もできない。けれどもし神秘が本当に身近にあるというのなら、目を光らせておくくらい別にいいだろう。
「ありがとう。」
もしこれが彼女の弱さなら俺はしっかりとそれを受け止めるべきだ。だって俺は悲しそうにしている少女を邪険にできるほどドSではないのだから。
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