第4話

 うろたえる勉造に忍び寄る小さな影。全裸のデストロイドダッチマシーン、メカポコちゃんが、邪悪で淫靡な表情を浮かべて近付いてくる。

 その見た目の幼さに不釣り合いな淫靡さに、勉造は自分の窮地も忘れ、思わず魅入ってしまった。

 つるぺたの胸。すべすべした肌。くびれてない腰に、申し訳程度に膨らんだ臀部。極めつけは神々しいまでに均整のとれた秘密のデルタ地帯。

 そこに現れた一本の縦スジは、もはや芸術品と言わねばならない。いや、人間国宝として文化勲章を与えても良いのではないかとさえ思えた。

 それくらい勉造のハートをがっちりと射止める極上のボディバランスなのだ。

 あぁ、もう死んでも良いや。勉造はたとえ偽者だろうが、ポコちゃんに殺されるのならそれで良しと結論付けた。もう地球の平和なんて眼中になかった。

 勉造は大地に寝転び、犬の様に腹を見せて服従のポーズをとった。

 だが、そんな勉造のリアクションも異星人には理解不能だった。

「なにやってんだコイツ?」

「油断しちゃなんねーだよ。ガイドラインによると、そのポーズは偉大なる格闘家が、とあるボクサーとの異種格闘技時に開発した攻撃スタイルらしいべ」

「迂闊に近寄ったらマズイと言うわけだな」

「ローキックとカニばさみに注意するだよ」

「了解した!」

 またもや思い切り勘違いしている異星人たち。メカポコちゃんに搭乗した異星人は、ゆっくりと勉造との間合いを詰めて行く。

「さあ、煮るなり焼くなり好きにしたらいいさ!」

 接触まであと一メートルというところで、勉造が叫んだ。

 異星人たちは当惑した。

「なんて言ってるんだコイツ?」

「煮るなり焼くなりしてみろだとさ。随分な自信家だべ。オラたちの攻撃など効かないって言ってるみたいだべ」

「ムカつく野郎だ!」

「はやいとこ射精させるべ。これにばっかり掛かり切りだどノルマが達成できねえぺ」

「そうだな。でもそう簡単に射精させてくれるか? 連中は射精すると死ぬんだろ?」

「押え込むだよ。ガイドラインに載ってたんだが、ジュードーの寝技に上四方固めっていう技のがあるべ。これなら押え込みながら生殖器をしごけるべ」

 宇宙船に乗った異星人はメカポコちゃんに画像を転送する。

「なるほど、この姿勢ならイケるぜ!」

 上四方固めの体勢を一言で言い表すと、シックスナインと言えるだろう。

 柔道ってエロイ! マウントポジション最高!



 仰向けに大の字になって横たわる勉造に、メカポコちゃんはボディプレス仕掛け、上四方固めの体勢に持っていった。

 勉造の眼前に突如として現れる秘密のデルタ地帯。鼻から赤い人工血液が噴出する。

「まままま、まん、まんん、まま、まんk……」

 突然の絶景に言葉を失う勉造。人工血液が股間に集中し、海綿帯を膨張させる。

 股間を隠す薄い布から、膨張したチンコがポロリとこぼれた。

 小さいながらも痛々しいくらいに自己主張を続けるチンコは、勉造に残された数少ない生体部品のひとつだ。

 その先っちょからは、がまん汁がほとばしっている。

 勉造の弱点であり、人間であるその部分を、メカポコちゃんがわしづかみにする。

「ひっ!」

 情けない悲鳴を上げる勉造。だが、メカポコちゃんはチンコを握り潰すつもりではなさそうだった。

「えっ、うそっ!」

 ちんちんシュッシュッシュッ! と、人肌よりなめらかなメカポコちゃんの人工皮膚が、勉造の股間に吸い付いて上下運動を繰り返し始めていた。

「あうっ、だ、駄目だよポコちゃん。やめ、やめてよ。こんな……」

 言葉とは裏腹に顔を紅潮させ、興奮する勉造。自ら腰を振って快感を貪ろうとしていた。

「へへ、感じながら嫌がってるぜ。やっぱり死ぬのは怖いみたいだな」

「んだな。そったら口を使ってやるべ。尺八ってやつだ。そうすりゃもっと早く射精するらしいべ」

「へえ。そうなのか。この惑星の人間は生殖器を舐めたりすんのか? きったねえな。オイ。まあ別にオレが舐めるわけじゃねえからいいけどよ」

 異星人はメカポコちゃんを操作し、口の中を潤滑用の特殊ジェルで満たすと、勉造のナニを咥えこんだ。

「おおうっ、ふぐうっ!」

 あまりの快感にブリッジしてのけぞる勉造。その動作により、メカポコちゃんは勉造から振り落とされそうになった。

「ふん。いっちょうまえに抵抗してるぜ。だが無駄なあがきだ」

 異星人は、メカポコちゃんに勉造のチンコを口に含ませたまま身体を密着させる操作を行なった。

 つるぺたの胸に付いた小さな乳首が勉造の腹をこすり、堅くなっている。そのザラザラした感触に、勉造の股間は更にヒートアップした。

 極めつけというかとどめに、勉造の顔面にメカポコちゃんの秘密のデルタ地帯が密着している。

「うわあああ、ああああ、いいいい……」

 もはやマトモな日本語すら喋れない勉造。射精まであとわずかだ。

「尻の穴に指を入れてコリコリしてやるだよ」

「きたねえな。そんなんで射精するのか?」

「前立腺っつうところを刺激してやると良いって書いてあるべ」

「わかったよ。どうせオレがやるんじゃないんだ。つかどっかで洗浄しないと汚くて二度と載りたくないぜコレ」

「んだな……」

 異星人の指示通り、勉造の尻の穴に指を突っ込んだメカポコちゃん。

「ああん!」

 女みたいな嬌声をあげてよがる勉造。もはや正義の味方の影はない。

 コリコリ。

 勉造の前立腺が刺激される。もう限界だった。これ以上は耐えられなかった。殺される前に、出来る限り快感を貪ろうと思っていた勉造だが、ついにパンドラの箱は開かれた。

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 どくどくどくどくどくどくどくどく……。

 恐ろしい勢いで射精する勉造。睾丸に溜まった精子を一滴残らずひり出さんばかりのモーレツぶりである。

 ハッスル! ハッスル!



 勝った! 異星人は勝利を確信した。

 放心状態の勉造を尻目に、ゆらりと立ち上がるメカポコちゃん。口からは精子が滴っており、なんともエロチックだった。

 だが、次の瞬間異変が起こった。

「うわっ、なんだ。エラーだと? アラート信号? どういうこった!」

 メカポコちゃんの操縦席で狼狽する異星人。コックピットは危険を表すエマージェンシー信号で真っ赤に染まっていた。

「信じられねえべ。その生物の精子を分析してみたけんど、宇宙一の毒素と悪名高い、あの、ケミカルSを含んでるべよ」

「ケ、ケミカルSだってー! ふざけんな。死んじまうじゃねーか!」

「と、とにかく脱出だべ。メカが腐食して故障する前に脱出しねーと助からねーべ」

「どっ、どれだ。脱出装置は、どれだよ。どこにあるんだよー」

 パニックで泣きながらボタンを探す異星人。なんか不憫だ。

「あわてるでねーだ。天井にあるべ。天井のレバーを思い切り引っ張るだよ」

「こ、これか!」

 藁にもすがる気持ちでレバーを引っ張る異星人。だが……。

 ぐいっっと力任せに引っ張ったら、支柱を残してレバーが折れた。

「ヲイ! 腐食して千切れちまったよ! やべーよ。死んじまうよ」

「オメの尊い犠牲は無駄にしねえだよ」

「こ、殺すな! 助けろ! いや助けて下さい。お願いします」

「ったぐよー。仕方ねえべな。転送装置を使うから動くでねーぞ」

「わかった。わかったから早くしてくれ。なんか臭い。臭いんだよ!」

「ポチっとな」

 ブウンという音と共に、コックピットの周囲が球状に抉り取られた。

 直径十センチの空間を宇宙船に転送したのだ。今更だが、異星人の身長は八センチ程度なのであった。

 宇宙船の洗浄室で一時間以上かけて消毒した異星人。ケミカルSの付着したコックピットの残骸は早々に破棄した。

「死ぬかと思った……」

「大変だったな。オメには同情するべ」

「つか帰ろうぜ。ケミカルSが存在する惑星なんて価値ないだろ。惑星ごと爆破してやりたいとこだが、ケミカルSを飛散させる恐れがあるし、それが発覚したら死刑だからな」

「んだな。本国には植民不可能って報告書提出するしかなかんべ」

「とんだ無駄足だったな」

「んだな。銀河ソープにでも寄って帰るべ?」

「テメエにしちゃ気が利くじゃねえか」

「オメにはちっと悪いことしたからなー。お詫びだべよ」

 異星人を乗せた宇宙船は、超光速で太陽系を離脱した。

 さらば異星人。



 目が覚めると、勉造の前には中浦和博士と真咲ちゃんが立っていた。

「よくやったなスペルマン」

「勉造さま最高です!」

 そんな二人のことより、勉造はメカポコちゃんの所在が気になり、辺りをキョロキョロと見渡した。

「敵ならあそこじゃよ」

 中浦和博士が指し示す場所を見ると、そこには腐食し、ドロドロに溶けてしまったメカポコちゃんの残骸らしきものが残っていた。勉造の精子に含まれていたケミカルSの毒素により、腐食して溶けてしまったのだ。

「つらい戦いでした……」

 勉造はポツリとつぶやいた。その瞳には赤い涙がうっすらと浮かんでいた。

「敵に情けをかけるなんて、勉造さまってお優しいんですね。真咲感動しちゃいました!」

「あっばれな心がけだな。さすがヒーローだ。さいたまの平和を守るのは、やはり君しかおらんようだな」

「そんなことないです。ボクは何もしてませんよ」

 本当にその通りだった。ただ寝そべって手コキとフェラされて絶頂を迎えて射精しただけである。

 それで地球の平和が守られたんだから、人生とは何が起こるか分からないものである。

「そろそろ警察や自衛隊がやってくるぞ。地球を救った英雄なワケだが、正体を知られるのも癪だ。ここはひとつ秘密裏に帰ろうじゃないか」

「しびれちゃう。真咲そういうの大好きです」

「そうですね。ボクも目立つのは嫌いです。帰りましょう……」

 パトカーのサイレンが聞こえてくる。消防車もやってきているようだ。いまや廃虚と化したさいたま市を感慨深げに眺める勉造の前を、一人の幼子が横切った。

「ポ、ポコちゃん!」

 それは本物のポコちゃんだった。ドロドロに溶けてしまった偽者ではない。本物のポコちゃん。

 勉造はポコちゃんの無事が嬉しくって、思わずポコちゃんの元まで走って抱きしめた。

「無事だったんだねポコちゃん。良かった。本当に良かった」

「お、おにいちゃんだれ? く、くるしいよ」

「もう大丈夫。お兄ちゃんが悪者をやっつけたからもう大丈夫だよ」

「いたいよ。いみがわからないよ。はなして。はなしてよう」

 ポコちゃんは泣き出してしまった。

 それでも勉造の興奮は収まらず、ハァハァ言いながらポコちゃんを抱きつづけた。

「君、そこの君!」

 ふと、背後から声が掛けられる。

「うるさいな。いまいいところなんだよ!」

 ポコちゃんとの再会を邪魔された勉造が怒鳴った。

「幼女誘拐の現行犯で逮捕しろ」

「はっ!」

「おい、大人しくしろ。この変態めっ!」

 振り向くと三人の警官が勉造に襲いかかってきた。

「ち、違う。誤解だ。いや、誤解です。違うんです。ボクは、その」

 警察の制服の前に改造されたことも忘れ、ただただ萎縮する勉造。そのパシリ根性は永遠に治ることはないだろう。

「そんな格好をしておいて何を言うか!」

 豹柄Tバックパンツにパピヨンマスク。それから紫のシースルーマントを羽織った勉造の姿は、前述したように変態以外に形容しようがない。

「十六〇五、確保!」

「ようし、しょっ引け。さいたま爆破犯の可能性もある、慎重に護送しろよ」

「了解しました!」

 地球の平和を守ったはずの勉造はいま、パトカーの後部座席で「なんでこんなところに居るんだろう?」と自問自答していた。

「怖かっただろう。もう大丈夫だよ」

「ありがとう。けいさつのおじちゃん!」

 勉造が護送されるパトカーを、ポコちゃんはいつまでもいつまでも見送っていた。

 哀れなり勉造。負けるな勉造!



「逮捕されたな」

「逮捕されちゃいましたねー」

「帰ろうか真咲ちゃん」

「帰りましょう博士」

 中浦和博士と真咲ちゃんは、遠くから勉造を見送ると、研究所へ向かって歩き出した。

 今はまさに夏休み。勉造の夏は、拘置所で過ごすことになりそうだった。

 さらばヒーロー。またいつか会う日まで、グッバイ、アディオス!



 了



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