第4話 土の塔


「さあ、今日は土魔術を使ってみましょう」


 小太りで背が低い中年女性、メメトス先生が、皆の前で授業を開始の合図をする。

 生徒は、それぞれ二人ずつになっている。


「初めての授業だから、ショータは見学しておくといいわ」


 先生はボクに優しく言うと、離れていった。

 実技場の床は地面なんだけど、それを利用して土魔術を唱えているみたい。

 ボクはやることが無いから、みんなの実技を見学していた。

 どうやら、土で塔を造る魔術を練習しているらしい。


 小指の先くらいの小さなものからコケシくらいのまで、いろいろな大きさの塔ができていく。

 できた塔について、パートナーがコメントをしてるみたい。

 コケシくらいまでの大きさしか造らないのは、どれだけ小さな塔を造れるのか競っているのかもしれない。


「ああ悔しい、あんたにだけは負けたくないのに!」


 ジーナとドロシーが、パートナーになっている。


「悔しかったら、私より大きな塔をつくりなさい、ジーナ。オホホホホ!」


 あれ? おかしいな。どれだけちいさな塔が造れるか競争してるんじゃないの?

 メメトス先生が近くに来たので聞いてみる。


「先生、みんなはできるだけ小さな土の塔を造ろうとしてるんですよね?」


「まあ、ショータ君、そんな冗談おっしゃるなんて。大きい方が良いに決まってるじゃありませんか」


 先生が面白そうに笑う。


「もし、塔が作れるなら、ショータ君も試していいのよ」


「でも、先生。ここで造ると、天井が壊れちゃいますよ」


「ハハハ。もう、ショータ君ったら。真面目そうな顔をして、面白い子ね。上をみてごらんなさい。あんなに高いところまで塔が届くはずないでしょ?」


「で、でも……」


「さあ、先生が見ていてあげるから、土の塔を造ってごらんなさい」


「でも、天井が壊れちゃうから……」


「そんなことありませんよ。さあさあ、先生にどーんと任せなさい」


 メメトス先生はそう言うと、ぽよ~んと自分のふくよかな胸を叩いて見せた。

 もしかすると、ここの天井はとっても頑丈に造られているのかもしれない。

 それなら、塔がぶつかっても壊れないだろうからね。


 ボクは思いきって、小さめの土の塔を造ることにした。

 先生の前だから、詠唱を始める。


「大地の力、我に従え」


 ボクがそう唱え、茶色いマナが一気に集まると、地面から土の塔がすうっと伸びた。

 それは、あっという間に天井へ迫る。

 そして、やっぱり天井をつき破ってしまった。

 天井からガラガラといろんなものが落ちてきたから、風魔術で受けとめてゆっくり下に降ろした。


 あーあ、やっぱりね。


 ボクは、すぐに土の塔を消した。

 メメトス先生は、お尻からペタンと地面に倒れて、青い顔をしている。


「な、何が起きたの……?」


 ボクは先生の手を両手で引っぱったけれど、重くて立たせることができない。

 だから、先生の下から風魔術で支えて、やっと立たせた。


「先生、天井を壊しちゃいました。ごめんなさい」


「い、いえ、あなたは悪くないのよ、あなたは……」


 先生は、恐ろしいものを見るような目でボクを見ていた。

 周囲を見まわすと、クラスのみんなが石になったようにまっている。

 みんな、どうしちゃったのかな。


 ◇


 学院からお城への帰り路で、土魔術の実習授業であったことをルイに話すと、少し驚いた顔をして、こう言った。


「ショータ様が魔術を使うと、そんなことが起こるかもしれないと、ハートン叔父様からうかがっていました。プリンスは、これからも遠慮なく魔術の練習をなさってください」


 そうだね。土魔術の練習は実技場の外ですればいいだけだもんね。

 ボクは少し安心した。

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